ご覧、なんて美しいのだろうか。泣きそうになりながらも(事実彼の目は潤んでいた)彼は私だけに聞こえるよう囁いた。赤い色やオレンジ色や黄色、ピンク色や紫色が織り成すこの光景は確かに美しいのかもしれない。

「赤い夕日、赤く赤く美しい。」
彼の言葉は嘘だと私は知っている。それでも、私は何も言わなかった。そう彼が泣きそうだと私も泣きたくなる。困ったものだ。

「ああ美しい」
彼は密かに呟く。あなたが今思う美しい夕日と実際の夕日はきっと違う。少し寒さに震えた後、私は嘘だと言った。彼は何も言わない。その代わりに潤んでいた目からぽろぽろと涙が零れた。ようやく彼は夕日から私に視線を移す。
「そうだな、ごめん、きっと嘘だよ」
ごめん、と彼は言った。その間にもその目から涙が零れていく。夕日は綺麗なものだけど、夕日に照らされる君は綺麗じゃないよ。彼は泣きながら言った。泣かしてしまったのは私だけど、そこまで言われると謝りたくはなくなる。私は黙った。彼も黙った。
夕日はゆっくりと水平線に、海に沈んでいく。

「もう行こう」
彼は私の手を引っ張る。彼の涙はもう止まっていた。
そう言いながらも、赤色が分からない彼は歩こうとしない。私は夕日から顔を背けた。灰色の私は彼にとって美しくないから。お前など腐った林檎の色だ、と夕日に吐き捨てた。





『灰色の夕日』
松茸様

110107 テーマ「呟き・囁き」


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