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冬島付近の海域を航海中。
はやく島にたどり着かないかとクルー全員が見張り台当番のクルーの声を待ちかまえていた。


ギィ…と開く甲板へと続く扉。
中から出てきたのはキャプテンであるキッド。そしてその後ろにはこの船唯一の女クルーとかの有名な殺戮武人。




「キッドさむい」
「なんか着ればいいだろ」
「キッドを見てるだけでさむい」
「俺はさむくなん……ぶえっくしゅん!…ずずっ」
「あーっ ちょっと風邪うつさないでよ?!」
「…風邪なんか引いてねぇ」


ずずっと鼻をすする目の前の男にタオルを突きだす。
外にでれば冷たい風が露出する肌をなでる。あまりの寒さにぶるるっと震えてしまう。


「鼻かんで、部屋で寝てなさい!」
「だから俺は…ッくしゅ!」
「意地張んないでほら、」
「島がみえたらどうすんだ!ぶえっくしゅ」
「指示はキラーがしてくれる。キッドの体調が何より大事なんだからね!」


ほらほら、と背中を押されてキッドは先ほどきた通路を引き返した。







―――――――――


島はなかなか見えず、まだすこしかかるらしいと航海士が伝えにきた。
外が寒いため、まだつかないならとキッチンへ行き温かいコーヒーを飲んでいた。

すると、扉が開く音がする。
見ればキッドを部屋に帰してきた張本人がたっていた。



「キッドはどうだ」
「なかなか寝なかったけど寝かしてきたよ。治さなきゃ軟禁だからねって」
「…応じたのか」
「本気で風邪ね、あれ。力がまともに入らなくて、私のビンタ喰らっちゃって。大人しく聞いたわ」
「あんな格好でいるからだ」
「それはあなたにも言えることなんだけど」



コックのジルからホットカフェオレを受け取り、キッドの恋人は俺の隣へ腰掛ける。



「まったく、あんな頑固によく付いてきたわね」
「………」
「何も言わないと肯定ととるけど?」
「少し自分を過信している部分がある。だが、俺たちがついて行くのに最高の男というのは間違いない」
「まあ…彼のあの自信に、みんな魅せられるんでしょうね」



ずず、とすする音、ジルの水仕事の音が響く。


キッドは確かに自分を過信している部分はある。だからあんな風邪を引く格好でいて風邪を引いた。
逆にあれで風邪を引かなかったら化け物だと思われるぞ。



ふと隣でホットカフェオレを飲むこいつに視線を落とせば、ちゃっかり長袖にロングスカート、ブランケットを肩に羽織っている。

キッドを寝かせるついでに着替えてきたのか。
さっきはキッドのことを聞くのに頭がいっぱいで服そうなど見ていなかった。



「キラーは、」
「?」
「前そんなに開けてて寒くない?」
「…なにか羽織ろう」
「うん、そうして」


…ここで「別に寒くない」と言えば、先ほどのキッドのように「見てるだけでさむい」と言われるのがおちだろう。
実際、キッドが寝込んだ今、指揮をとる役目は俺だ。折れも寝込んだら大変なことになるだろう。

それにこれからは確実に今より寒くなる。
やはり少し厚着をしようか。


俺はコーヒーを飲み終え、ジルに礼を言って席を立つ。
するとあいつがガタリと席を立って俺のシャツをひっぱっていた。


「ちょっとまって」
「俺は着替えに行くだけだが」
「もう少しで飲み終えるから。一緒に近くまで行くわ。船医に薬をもらうの」


わかった、と止まればホットカフェオレをぐいっと飲み、俺と同じくジルに礼を言っていた。
扉を開けると、先ほどより少し冷たい空気が肌をなでた。






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