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丘の上に咲く一本の桜。はしゃぐ彼らに私は文句は言えず、そのまま後ろをついてきた。

「うわ、ちょー綺麗!」
「まだ満開ではないがな」

前を歩くキャスケットにペンギン。そして二人と私の間にローが。
制服のまま学校帰りにきた小高い丘に、暖かくなり始めた風を受ける。
キャスケットは桜の樹にめがけて走りだしていき、ペンギンもそれを追う。ローは変わらずに自身のペースでゆっくり歩いていき、私はいつの間にはローの隣に来ていた。


「突然だね。桜みにいこう、だなんて」
「いいだろたまには」
「ローの突然の行動には驚かされるよね」

試験が終わってもうすぐ春休み。そんな中、突然ローが「桜を見に行く」と言いだしたのでいつもつるんでいる私たちはローについて桜を見に来た。
ローの突然の提案は日常的で、こうやって突拍子もないことを言って私たちを巻き込んでいく。そうやって行動した結果色々な事に巻き込まれてきたのはこの際黙っておいてあげる。

だが今回はついてきて正解らしい。
花弁が風に乗って舞い、ゆっくり歩く私たちのもとへ届く。人の姿は見えず私たちだけが桜を占領している。


「わぷっ」

突如吹いた風に髪を押さえた。乱暴に規制なく吹く風に顔をしかめるが、頬に触れる花弁に心が穏やかになる。
瞬間、隣を歩いていたローが私の空の手をつかみ、そのまま腕の中へと誘った。いきなりのことで私は訳が分からず引かれるままに腕の中にすっぽりと収まってしまう。

「ロー?」
「…ちょっと黙ってろ」
「え?う、うん?」

ぎゅっと背中に回る腕が強くなる。あ、あれ?さっきまでこんな雰囲気微塵もなかったけど。
どうしたものかローと私は足を止めてぎゅっと抱き合っている。先に行ったキャスケットとペンギンはまだ気付いていない。

「こんなこと言うのもあれだが」
「うん?」
「思った以上に、抱き心地がいい」
「……それは私が太っていると言いたいの?」
「いや、ただ単に好きな女だから」
「………」
「………」
「…は?」
「そのままの意味だ理解しろ」

腕を抜け出してみようとするが、ローの腕がさらに強まってそれは叶わなかった。
ローの言葉をもう一度頭で整理してみる。そのままの意味、そのままの意味…うん、そのままの意味?
これは自意識過剰なわけではなく、本当に、そのままの意味でローの気持ちを受け取っていいのだろうか。

「ロー、顔見せて」
「…今の俺を見るな」
「な、なんで!いいじゃん!」
「見るな!」

必死な声で私の顔を上げないよう、頭をローの胸へ押さえつけられるほど見せたくないらしい。普段見られないローの姿に内心驚くも、言葉の意味を理解して受け止めた私ははっきりとは理解しておらず好奇心のままにローを見たかった。

「なにこれ、はずかしい」
「俺もだ」
「…よろしくおねがいします」
「……おう」


風が吹き、花弁が私たちを包む。
抱き合う私たちに向かって叫ぶキャスケットの声が聞こえた。






――――――――
思わず告白しちゃったロー。
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