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ミラからの引き合わせ?




「…は?」
「だから、お前の妻に相応しい人が見つかったと」
「…失礼ながら父上、私はまだ」
「相手はお前の側近の娘だぞ。名をティリアと言うそうだ。あちらからお前の妻になりたいと言ってきたのだ」


近々こちらに来る。準備をしておけ。

父に一方的に言われた言葉。
私は正直、妻などいらぬ。妻など面倒な存在だ。ただの政略結婚や出世目的の誘いならばいつも通り断ったのだが、今回はなにやら断れない雰囲気。
とりあえず来るというならば、一度会って断ろう。もう一度言うが、私は妻などいらぬのだ。

しかし、私の妻と紹介された娘は、思っていたより手強い相手だった。



「お初にお目にかかります、スコルピオス殿下」

娘のいる部屋に通された。きれいな白を基調とした部屋には娘が一人いるだけだった。


「貴様がティリアか」
「そのお口から私の名前が聞けるなど、なんて幸せなことでしょうか…!」


漆黒に近い髪と大きい瞳。しかしそれと対象な白い肌。その大きい瞳を見開き、明るい笑顔を振りまく。
手を目の前で合わせ口元に持って行き、本当に嬉しいようだ。
だが…


「悪いが私は妻を娶るつもりはない」


冷たい言葉だがこれが私だから仕方がない。逆に関わっても、後々断れば色々と言われるのが目に見えている。
しかし、その娘はその言葉を待っていましたというようにニコリと笑った。

「そう言われると思っていました。婚儀は今すぐにでなくてもいいのです。少しでもスコルピオス様の支えになれるだけの妻でいいのです。それでも、駄目でしょうか」


娘――ティリアはあたかも前々からの願いを語るように話した。
一国の王子を立たせたままなんて、申し訳ありません。…そう言ったティリアの言葉に初めて立ったままだったことを思い出す。折角椅子があるので、話ぐらいしてやろうと席に着けば、ティリアも後から席に着く。

少し話しているうちに、この話はティリアが無理矢理に父に頼んだものだということがわかった。


「ずっとずっと、スコルピオス様にお会いしたかったのです。今日、お会いできてよかった…。もし気に入っていただけたならと思ったのですけれど、ダメみたいですね」


こんな娘は初めてだ。大抵は父親の出世のためにくるものを、この娘は自らこの私の妻になりたいと願い出たのだ。
とても興味深い。妻という立場でありながら支えるだけではなく、何故か楽しませてくれる気がした。

「スコルピオス様には貴重な時間を割いて私にお会いしてくださり、大変うれしく思います。」
「ちょっと待て」
「はい…?」
「このまま終わりにして帰るつもりか」
「はい。スコルピオス様もお忙しいと思いまして…」

帰ろうとしたのか、椅子から立ち上がり今日の礼を言うティリア。私は納得がいかずに言葉を続ける。何故かこの娘を手放してはならない気がした。


「お前は私の妻になるのに、それくらいの覚悟しかなかったのか?」
「え…」
「私の妻になる覚悟があるのなら、しがみついてでもなろうとは思わなかったか。お前の気持ちなど、所詮そんなもののようだ。少しでも期待した私がバカだったらしい」

なんとか繋ぎ止めた私の言葉にびっくりしたのか、ティリアは目の前の机をバシッと叩く。
信じられないという顔をしていた。


「わ、私のこと、気に入ってくださったのですか!?」
「面白い」
「本当、ですか?」
「自分の意志を持つ者は嫌いではない。話くらいなら、時間があるときは聞いてやってもいい」
「また来ても、よいのですか…?」
「クク…私はお前を少なからず気に入ったようだ」
「わ、私…!」


スコルピオス様の奥様になれるよう、がんばります!!

その威勢のいい意気込みは、私の心をおおきく躍らせた。



「精々、頑張るんだな」





これは、神託のない、兄弟同士の殺し合いのない、平和な王家の物語。







書き終わり 2009.02.13.
加筆修正 2011.09.05.
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