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ひばん





夕飯も終わり、皆自分の後片づけをしていた。
私は将軍だからと言って楽をするわけではない。皆と同じ物を食べ、同じように片し、同じ水を浴び、同じ生活をしている。…時々シリウスに任せるのは抜いて、だ。

今日は片付けをシリウスに任せ一足先に火の番をしようと戻ると、先着が居たようだ。

「ティリア…」


数少ない、女の同胞。
そして、私の恋人。


「将軍」
「相変わらず、片付けが早いな」
「今夜の火の番は私ですし、ちょうど月が昇っていたので、急いで片付けました」
「月?」

ちょこんと立つティリアの指がさす先には、昇ったばかりの三日月。辺りはまだ少し明るくその存在は目立ちはしないが。

「だんだんと満ちてきます。今夜も月がきれいです」


空が闇に包まれはじめ、暗くなる。足下の火が段々と燃え上がり、月も先ほどより存在を確かにしたていた。
と、ティリアが一歩また一歩と前進する。だがしかし、月を見ながら歩いているために足下の石に気がついていないようだ。バランスを崩せば足をくじく可能性がある。悪い方へ倒れれば火の元へ倒れる。


「おい!」
「へ…っ!?」

ティリアを前に行かせないようにこちらへ引けば、ティリアの全体重が私の方へ傾き私がバランスを崩してしまった。
火へつっこまないように何とか回避はした。庇ったつもりだが、結果、二人で横になって倒れたらしい。

「…ったた」
「大丈夫か?」

体を起こし、ティリアに怪我がないか確かめる。しかしそれは自然とティリアに乗っている体制となり、そこだけ見れば私がティリアを襲っているようにも見えた。

目があった。が、すぐ逸らされる。
…そんなことされたら、ますますこっちを向かせたい。それは男の性か、俺の性格か。
最近ご無沙汰だったため、火がついてしまったようだ。
目をそらしたティリアの顔を無理矢理上へ向け、唇を塞ぐ。


「んむっ」
「…ご無沙汰だな」
「あ、ちょっ」

舌を割り入って絡ませる。
こんな口付けもご無沙汰だったため、これだけでも十分欲情が増す。
欲しい。

「ティリア…」
「だめ…将軍」
「名前で呼べ」
「アメテュストス…?」
「エレフ」
「えれふ…だめよ」

そんなことを言われても聞くはずがなく、またすぐに口を塞ぐ。
辺りはすっかりと暗くなり、昇った月がきれいに輝きを放つ。近くにある火も赤を増しパチパチと燃えている。

す、とティリアの胸部に手をおく。ぴくりと反応を示したティリアが、絡ませている舌の動きを止めた。

「エレフ…」
「ティリア…」

ふに、と触れる口付け。
これからだ、と行動開始しはじめた。
…はずだった。


「あ」


二人が折り重なっているところに姿を現したのは…

「…オルフ」
「!!」
「あー…お邪魔してすみません」

片付けをして戻ってきたのか、ちょうど良いタイミングでこちらに足を運んだようだ。少し難しい顔をこちらに向けている。
オルフはティリアと同じく片すのが早い。しかしこんな、いつ人が戻ってきてもいい場所で行為を始める二人も二人なのだが。


「あの」
「なんだ」

ティリアはこんなところを見られて恥ずかしいのか、オルフの顔は見ずに私の体の下に大人しく隠れている。

「火の番は私がしますから、どうぞお戻りください。…そこじゃ痛いでしょうし」


そういって火の側にある切り株に腰を下ろすオルフ。
一応ティリアを心配しているのか、それとも大好きな将軍を応援しているのか。もちろん答えは両方なのだが、こんなにも隠した内容なのに分かってしまうのはなんだか恥ずかしい。

お言葉に甘えて、私はティリアを抱えて今夜オルフの使うはずだったテントへと移動する。
しかしオルフはシリウスと同じテントではなかったか?…まあ、そこは気にしないことにしよう。



「…まったく、こんなところで堂々と始められちゃたまったもんじゃない」


文句を言いながらも火の番を続けるオルフは、二人の影が消え、やがてやってくる疲れ果てた影を待った。


次の朝、頬に大きな赤い手跡を付けた将軍を見たという。






ひばん





「オルフ…!お前、昨日急に火の番になったと思ったら、何したんだ!」
「…別に、優しく場所を提供しただけです」


――――――――
夜に何があったのかは言いません。

書き終わり 2009.02.20.
加筆修正 2011.09.04.
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