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王子



「ティリア!」
「…レオンティウス様」


馴れ馴れしく声をかけてきたのは義弟のレオンティウスだ。
しかし声をかけたのは私にではなく、隣にいるティリアにであった。

聞くところによると、ティリアとレオンは小さい頃からちょくちょく会ってたそうだ。


「何故私のことをさま付けで呼ぶのだ」


先ほどの呼び方が気に食わなかったのか、レオンは眉間に深い皺を寄せた。

「あなたさまの方がどう見ても位が高いからです!」
「小さい頃は“レオン”と呼んでいたではないか!しかも“私の方が年上だから、敬語を使うのはあなたのほう”と言っていたのは誰だ」
「あの頃の私は何も分かっていなかったからです。今では自分の立場が分かり、それを弁(わきま)える年齢。あの頃は大変、失礼な真似をいたしました」

腰を曲げ、レオンに向かって深く頭を下げるティリア。その姿にレオンはため息を吐く。


「だから何故そう…。私は姉のように思うと同時に、一人の友としても」
「それがいけないのです!例えそう思われていたと知っていても、立場上、王子であるあなたにあんな態度をとってはなりません。小さかったとしても」


先ほどからずっと同じような会話が続けられている。
引かず、レオンは何故小さい頃と同じように呼ばないのかと問い詰める。ティリアはそれに明らかに違う立場だからだと正しいことを言い返す。
だが、別にいい、という意見を持つレオンはそれで納得をしない。何故だと問い詰め、ティリアもまた同じ返事を繰り返す。
全くと言っていいほど同じことを繰り返すので、私は口出しをせずにいられなかった。


「…お前達、いつまで同じ内容を繰り返すつもりだ」
「私は正しいことを申しております!」
「しかし義兄上!私が認めれば、別によいではないですか!」

ここで万が一、レオンの了解を得ていて敬語を使わずにティリアがレオンと話していたとする。
それは周りから見たら、王子に馴れ馴れしいと見られて間違いない。何らかの罰が下るだろう。この場合、ティリアの言い分が正しい。
しかし…


「もうすぐ義兄上と結婚なさるなら、私の義姉上となるのに…」


そこが問題だ。
つい先日、双子のことが解決したと思ったら今度はレオンティウスの番。うまく行くような気がしたが、年がこちらの方が近い上、過去に接点があったことが問題になったようだ。

「ティリア。エレフとミーシャの義姉となると同時に、レオンティウスの義姉となるのも分かるだろう?今まではそうだったかもしれんが、もうすぐレオンティウスの義姉になる。敬語などはいらん」
「しかし殿下…」
「ティリアは義兄上を名前で呼ばないのか」
「もう!兄弟そろって同じ質問しないで!あ…」


しまった、というように口を両手で覆い隠す。しかし口にでてしまった物はもう戻しようがない。

「お前の方が年上で、義姉になるのだ。もう気にすることはないんだぞ」
「うぅっ」
「むしろ私の方が敬語にならなければなりません。義姉上」
「そっ そんな…レオンティウス様は敬語などいりません!」

とっさの反抗に、癖のままレオンを呼ぶティリア。

「義姉上…」
「ティリア…」
「うぅっ」


自分はどうすればいい?と私に訴えかける顔をされても、私はどうしようもできない。
すべてが私の言うとおりにされても、これから困るのはティリア自身。王子の妻としての良し悪しがこれでも決まる。


「…わかりました」
「義姉上!」
「あっ義姉上は恥ずかしいから、普段はティリアと呼びなさい、レオン。敬語もダメです」
「…ようやくもとのティリアに戻った」


とりあえず、この問題に終止符は打てたようだ。







「何故レオンと顔見知りだと話さなかった?」
「そんなに重要な話ではないと思ったからです…」
「こうなることはわかっていただろう」
「……」

むっと口をとがらせて黙るティリア。
てっきり私はレオンと会うのは初めてだと思ったから、ごたごたはないと思ったが…結果的に存在し、口論になった。

「ティリア、全部をはなせと言うわけではないが」
「わかっておりました。こうなるとは、思っていました。…ですがやはり、正式に会ってからの方が良いかと思いまして」
「私と結婚をすればレオンの義姉となる。王家の人間になるのだ。そんなに縮こまらなくても良い、堂々と私の妻だと、隣に立っていればいいのだ。義姉となり、歳の低い者に教えを説く立場であれば何を敬語を使わねばならん」


最近、何度も繰り返している言葉をまた繰り返す。
“私の妻になったら…”
その類の言葉を口にする度、何故だか脅している気分になる。周りから聞けば脅しているように聞こえなくもない。
だが、義姉が義弟や義妹に敬語を使うのはなんというか。環境の変化に戸惑うのも無理はないが、堂々とすればいいだけ…。


「もともと敬語で喋る癖がついております、その件は順に慣れさせていこうと思います」
「…まあ良い。無理はするなよ」
「はい…」


確かに、敬語で話す癖は自然とつくだろう。自分を貫くことも大事だが、時に折れることも大事だ。
本人はわかっているであろうが、なかなか切り替えられなかったのだろう。
まだ時間はある。ゆっくりと解決していけばいい。


「では、今度は敬語を必要とする方に会おうか」
「は…い?」
「義母に会うか?」
「やっ え…!」



…案外、真面目をからかってみても面白いかもしれないが。





――――――――
訳わかんなくなっりましたが、とりあえずレオンとは普段はタメ語で進みます。
公式の場ではレオンが敬語をつかうということで。
少なからず最初の方はスコピはは妬いてます(笑)

書き終わり 2009.02.23.
加筆修正 2011.09.05.
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