奇妙な男




ハンター試験、ただいま第三次試験中。72時間でタワー脱出を試みよ、とのことで頑張って進んでみたものの、すごく時間がかかっている。
ある程度の体力はつけてきたし、体術も習っている。無傷というわけではないが、支障のない程度の怪我でここまでこれた。

タワー内では囚人と戦わされたり、落とし穴に落ちてルートが狂ったりもしたがゴールにはたどり着く道らしい。今、最終分岐点に私はいた。


「『左右好きな扉を選びなさい。但し、どちらかは危険な道に繋がっている可能性がなきにしもあらず』…って、結局あるの?ないの?」

まあそこで迷っているわけではなく、左右どちらに行くかで迷っているのです。
敵が来るならそのまま来ればいい、できれば来てほしくないけど。そしてなるべく安全なまま合格したい。殺生に発展する戦いは嫌いだから。
よし、と決めた道は“左”だ。扉をくぐり、一歩足を踏み出せば……


「ひ、あああああああ!?」


…そこに道はなく、ただ下へと続く坂道があった。






ゴロゴロと何かが転がる音がする。トリックタワーの下で脱出した者はその音に疑問を持った。しかし1つの扉が開くと「ああ、誰かくるのか」と確信を持つ。
ヒソカとギタラクルはその扉の向こうからやってくる人物の微かなオーラに気付いていた。


「……ぁぁあぁああああああっ」

ぐるぐるぐる、と転がってきた人物は、坂道がなくなったところでジャンプをし、しゅたっと着地を決めた。…が、バランスが上手くとれずに身体がよろけ、そのまま前に倒れてしまった。

「お、おい、大丈夫か」

声をかけてくれたのは少年。多分近くに倒れたから声をかけてくれたのだろう。あとあまりにもアホすぎて思わず、だ。
痛みのある顔を上げて座り込む。斜め前にはう○こみたいな帽子を被った少年。

「あたた…うん、大丈夫」
「そ、そうか」

ひきつった顔をしてますよ、君。私のアホさに思わずですか。
とりあえず汚れた服をぱふぱふ払い、立ち上がって扉の前にたった。

「第13号、224番メイ 所要時間55時間45分!」
「うわ、そんなにかかったかぁ」

途中で寝てたりしたから時間は使っていたし。まあ約56時間で脱出とは自分にしてはいい方かな。
服も破れてないし、汚れオンリー。よし、次も気を抜かないようにしなきゃ。


「お嬢さん」

一人で意気込んでいると、向かいの方から銃を持った女の人が声をかけてきた。

「…同じ女としてだからいうけど、額、血でてるわよ」
「………えっ!」

額とジェスチャーされて自分も額に手を置いてみると、粘着のあるものが手に掠れる。…わお、本当だ。

「ありがとうございます、おねーさん」
「いいえ」

そのまま女の人(※スパーさんです)は銃を磨きはじめ、私はその場で額から流れる血を拭った。転けた時に擦りむいた傷だからすぐに止まると思うけど…意外と出血量が多いな。
このまま拭くと手が汚れ続けるし、服で拭いても汚れるだけ。しかも次、すぐに洗濯出来るわけでもないから服は却下。血は落としづらいんだよ。どうしようか、と顎に手を当てて考えていると、横の方からまたまた声をかけられる。今度は男の人か。

「おい」
「はい?」
「これ、使うか?」

見ると頭がツルツルの人が私にハンカチを差し出していた。親切か、親切なのか。盛大に受験生の前で転けたからこんなにも親切にされるのか。

「…いえ、大丈夫です。何をされているかわからないので」
「そうか。まあ何もしてないけどな」
「お気持ちだけいただいておきます、ありがとう」
「おう」

男の人は潔く引き下がってくれた。ハンカチは勿体なかったけれど、知らぬ人からの物は危険だ。何があるか分からないため出来るだけ避けるように心がける。
しかし、この状況はとてつもなく恥ずかしい。降りてきた直後は別に何とも感じなかったのに、今になってから自分のしたことが恥ずかしく思えてくる。ただ転けただけなのに…それが受験生の前ってだけで、その後に親切にされると余計に。


「やあ◆」
「ひっ?!」

と、真剣に考えていると、再び私に声がかかる。今度は後ろから。
振り向けばそこにはあの危険人物とされているヒソカがいた。

「額の怪我、大丈夫?」
「だだっだ、いじょうぶデス!」
「ふーん…ねえ、ちょっとボクとお話しない?」
「お断りします」
「残念☆」
「そ、それでは」
「じゃあ連れて行くまでだね◆」
「え?」

身体をぐっと引かれ、膝裏から足を持ち上げられ一瞬で浮いた。私は所謂お姫様だっこをされている。更に目の前にはヒソカの顔で、どうしたらいいかわからずにとりあえず暴れた。

「ちょ、まっ おろして!」
「ダーメ◆」
「いやいや、本当、ね!」
「ダーメ◆」
「だめですか」
「ダメ☆」

暴れたために更に力強く私の身体を抱きしめるヒソカの腕。うぎゃあああ!どうしよう好きでもない(しかも変な)人にお姫様だっこされてる!私、おわった。
そのままヒソカの座っていた場所に移り、腰を下ろすヒソカ。私は横抱きでヒソカのお膝の上に座らせていただいている。

「は、離して、は…くれないんですね」
「もちろん☆」
「…で何でしょうか」
「まずは額の血を拭こうね◆」

ぐっと額に押し付けられたのはヒソカの指。あまりにも強い力だったので「いだっ」と声を上げてしまった。
ヒソカの指の強さが弱くなったのは気のせいじゃない。

「うん、もう止まってる◆」
「あ…本当?」
「3分も経たずに止血できる傷◆」
「で、ですよネー」

さっきからヒソカの顔が近いのも、気のせいじゃない。ちょ、変なメイク顔に迫られたくないんですけど。あと出来るだけ目立たずに試験を受けたいんです私。あ、もうさっきので無理か…。
近づく顔を避けていくのにも限界があって、ヒソカの腕の中にいる私には範囲が狭すぎた。避けるのも早々に諦めて、仕方なくため息をついてヒソカの顔を我慢することに…

「ひあっ」

…したはいいんだが、ヒソカが私の頭(正確には髪)に鼻をつっこんできたので小さく声を上げてしまう。

「な、なな、なんですか!」
「んーいい香りがしたから◆」
「だからって嗅いでいいわけじゃないですから!」
「会話よりいいだろ?スキンシップ☆」

ここは声が響くし、おまけに他の方達は喋る気配がないため必然的に私とヒソカの声が響く。イコール会話が丸聞こえ。
余計な話をして自分の情報を漏らしたくないし、できれば会話は避けたい。が、スキンシップもどうだろうか。

「どこ触ってんすか」
「おなか☆」
「…ヤメテクダサイ」
「じゃあやめてあげる代わりに、ここにいてね◆」

もう何か根本的に適わない気がするので、おとなしくヒソカの腕の中にいることにした。周りの受験生たちがメイを“不憫”と思ったのは言うまでもない。そしてそのままヒソカに髪をいじられたり、手をまじまじと見られたり、残りの時間をヒソカの腕の中で過ごすこととなった。
うう、不憫に思うなら助けてください!





――――――――
事情により三次試験からはじまります!
ヒソカの名前は知っています。変態で危険人物と言う事もしかり。ヒソカもメイの名前は通過のアナウンスでインプットしています。

2012.02.20.

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -