ゾルディックでの生活にも慣れ、執事との稽古にも慣れ始めていた。
身体もはじめの方は痛みが残っていたが、動かし慣れてしまえばこっちのもの。体力トレーニング、走り込みは勿論のこと組み手も行いながらメニューに挟まれている拷問。今日はゼノに見てもらっている。


「ほれほれ、もっと痛がらんか」
「えっ」
「わざと痛がるのも時には必要、相手が油断するからのー」
「いっ…あ、…!」
「その調子その調子」

ゼノが見ると言っても拷問のみで残りのメニューは執事相手に行う。ゼノもゼノで仕事に行く前に時間が出来たために拷問を引き受けただけだ。鞭を持って振り上げる。パシンッ!という音が石畳の床に響いた。その音にわざとらしく肩を揺らす。

「お主も演技というのを覚えねばな」
「えんぎ…」
「少々うちのイルミより感情表出というのが多いからな。感情を出さないのが一番いいんじゃが、逆手にとって演技をすればカバーできる」

確かにイルミは感情を表出するのは少ない。しかし山中、動物から逃げ回って帰ってきた時なんかは泣きそうだったし、弟のミルキの前だと穏やかな表情になる。嬉しい時は微笑んだり、気に食わないことがあると少しむすっとしたりはする。が、顔に大きく出さないというのにはトウリも気がついていた。


「はい」
「うむ、では今日はこれで終わりだ。一時間も過ぎてしまったな」
「はい、ありがとうございました!」
「今度の拷問を引き受けるときの楽しみが増えたな」
「が、がんばります」



ゼノは仕事に行くため早々に分かれ、トウリは次のメニューの為に外にでた。外では執事が待っておりこれから走り込みを行う。走り込みと言ってもただ走るだけではない。前を走る執事と一定の距離を置きながら、離れすぎず近すぎずにそれを追う。勿論ペースは一定でなく緩急をつけながら。
近くなりすぎても離れすぎてもいけない。もしそうなった場合はペナルティとして一時間追加となる。既に拷問で一時間ロスをしているため、このメニューが延長するのは避けたい。


「トウリ様、よろしいですか」
「はい、お願いします」
「では、スタートです」


一気に走り出す執事。子供のトウリは執事と足の長さも歩幅も違う。スピードは勿論落としてはいるものの、それなりに速くないと実践では通用しないため通常よりは速い。イルミもこのメニューは入っているがトウリより速いスピードだ。一歳違うだけでこれほどまで違うのかと驚いた記憶がある。それでもイルミに追いつきたいと、頑張りたいという思いでトウリもメニューをこなしていった。
本日は延長なく終わったが、その頃にはトウリも息絶え絶え。最後の方は追いつくのがやっとで、執事も最初よりスピードを若干落としていた。




「おつかれさま、トウリ」


執事ではない声がして、トウリは下を向けていた顔を上げる。顔を上げた先にはボロボロになったイルミが立っていた。執事と二人はまだ慣れていない。そんなところに安心できる存在のイルミが来てくれて、トウリは安堵のため息をつく。
そうしてこちらに差し出された手を握り、立ち上がる。まだ整わない息に深呼吸をした。

「あり、がとう、イルミ」
「今日も走ったね、服が汚れてる」
「イルミはきれいね…」
「うん、ぼくはもうスラスラうごけるから」
「あっ」

首をかしげた拍子に髪から覗いたイルミの耳。そこに小さく赤の線が入っているのを見つける。

「チが…」
「えっ」
「あ、ごめん、なさい…いたかった?」
「いや、いたくはなかった。…ほんと、チだ」

いきなり耳に手を近づけたからか、イルミは全身を使ってビクッと反応を示した。それに驚いたトウリも全身で身体を揺らして手を引っ込める。
わずかなトウリのワードからイルミが導き出した答えは「トウリの手を伸ばした先に何かがある」ということ。そのままトウリの手が伸びていくはずだった、自身の耳へと手をやると、ピリ、と少しの刺激が走った。手を見れば微かについた赤……血だ。


「森でひっかかったのかな、気がつかなかった」
「だいじょうぶ…?」
「うん、これくらいだいじょうぶだよ」

イルミの言葉で安心したように笑顔を見せるトウリ。こんな小さな怪我より、トウリの服が汚れてしまっている方が気になるイルミは肩口の汚れをはたいて落としてやる。ついでに頬に土がついていたので一緒に。再び驚いたらしいトウリはイルミの指が頬を押して土を取るまでじっと目を瞑って動かなかった。
土が取れたことに満足をしたのか、イルミはふん、と満足げにしている。と、後ろに控えている執事に気付き、じっとその姿をとらえた。

「なにかまだある?」
「いえ、トウリ様、おつかれさまでした。本日はこれでお終いですのでイルミ様と共におあがりください」
「はい、ありがとうございました」
「うん、ありがとう」
「それでは私は失礼いたします」


執事がそのまま頭を下げれば、イルミはトウリの手をとる。「行こう」と腕を引かれてイルミと共に屋敷へと戻ってきた。
服が汚れてしまったトウリをみてキキョウが「お風呂に入りましょう!」という事態は避けられなかったのでそのままトウリはシャワールームへと連行をされた。イルミは手洗いうがいをきちんとし、ミルキの部屋へと足を向ける。…が、耳の小さな小さな傷が気になった。自分自身では気にはしないのだが、トウリは心配するだろうか。普段は何も処置はしないのだが、一日くらいはしておいても問題はないだろう。…この傷を見て、またトウリが心配そうな表情をしないように。
ミルキの部屋へと向かっていた足をくるりと戻し、絆創膏を取りにキキョウの元へと足を運ぶ。


そこでシャワーから上がったトウリと鉢合わせる、なんてことは予想もしていなかった。








――――――――
トウリちゃんはまだ執事さんと一緒にいるとびくびくしてしまうのです。
イルミの姿が見えると安心してます。

13.12.22.


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -