*お買い物



ゾルディック家へ来て数日。言われたとおりのメニューで拷問関係を実家と同じようにやりこなし、訓練も怠らないようにしている。加えてイルミと共に勉強も手につけていた。
そんな中、下着や服、家具や必需品は実家から持ってきていたものの、部屋に合わなかったり買い足したい物が出てきた。収納棚も一つ増やしたいと思ったトウリは、意を決してキキョウに相談してみた。

「あの、キキョウさん…」
「まあまあ何かしら、トウリさん?」
「お買い物に行きたい、です」
「お買い物…?」

ピクッと口の端を上げたキキョウを見て「怒られてしまう」と瞬時に思ったトウリは素早く視線をキキョウから外した。怒られたらどうしよう、ここに来てから怒られたことがないからわからない。どうしたらいい?どう謝ったらいい?そう考えるが、幼いトウリにはまだ自身で解決する力は備わっていなかった。
そんなトウリの肩をがしっと掴んだキキョウは、目線をトウリに合わせるようにしゃがみ、興奮した口調で言った。


「買い物ね!トウリさん、買い物に行きたいのね!わかったわ、さっそく行きましょう。パパもいることだしイルミも一緒に連れて行こうかしら。そうだ、お洋服?お洋服なら私が選びたいわ。他に何が欲しいの?人形かしら、髪留め?ああ、もうトウリさんから言ってくれるなんて!嬉しいわ!」


怒られると勝手に思いこんでいただけに、キキョウの言葉に逆について行けなくなったトウリ。キキョウの言葉を遮ることも出来ずに、あれよあれよと言う間に4人で街に買い物に行くことになった。
車を出すのかと思いきや、飛行船の準備をし出したまだ見慣れない執事たちにトウリは目を奪われる。
支度をしてきたシルバとイルミがやってくるとキキョウは興奮した様子で話した。


「やっっっっとトウリさんとお買い物に行けるのね!こんなに嬉しいことはないわ!」
「ああ、そうだな」
「街に行けばあるかもしれないけど…少し広い所に行った方がいいかと思って、飛行船にしたの」

いいかしら?と聞くキキョウに、シルバはノーとは言えない。こんなに楽しそうにしている最愛の妻をどうして引き留められようか。

「母さん、ミルキはどうするの?」
「ミルキはお留守番していてもらうわ。最近、あまり泣かなくなってきたから平気だと思うの。それより今はトウリさんのお洋服選びが楽しみで仕方がないの!」
「じゃあミルキにも何か買っていかないといけないね」
「そうねえ。そろそろハイハイし出す頃だと思うから、玩具なんか買ってあげようかしら。ねえあなた、折角ですから色々買いましょう?」
「そうだな。ミルキにも経験させねばならんことが沢山あることだしな」


ノリノリなキキョウにイルミは止める気はないらしい。そもそも“止める”ということ自体をしようとしていない。毎度のことなので慣れてしまったようだ。
大っぴらに行く予定ではなかったトウリには何だか申し訳ないと思うしかなかった。

「トウリはなにをかいたいの?」
「あ、タナと、こものをいれるちいさなカゴと、おおきなカゴ。あとはキキョウさんにおようふくをみてもらうの」
「母さん、服はじかんかけるからがんばってね。ほかはいろいろ見てくれるけど」
「う、うん」



キキョウのあの熱さを見たからには、トウリは洋服から逃げられない状況を悟った。
今回、自分の一言で随分と大変なことになってしまったのではないかと思ったのは、静かに心に秘めておこう。

飛行船を飛ばし(といってもそこまでのスピードはでない)、大きなショッピングモールへやってきた。早く行きたくて仕方がないキキョウはうずうずとしながら、チラチラとトウリの方を見ている。飛行船から降りた面々は、最初にどこに行こうかとトウリを一斉に捉える。


「タナを、みたいです」
「棚ね!パパ、出番よ!」
「ああ、どんなものでも買いなさい」
「さっそく行きましょう!ほらイルミもいらっしゃい」

歩き出した両親を横目に、歩き始めないトウリをじっと見つめる。何も考えずとも自然に出していた手。それは何に繋がるのか、まだわからないまま。

「はぐれないように、手、つなごう」
「…うん!」


繋いだ手は暖かく、きっと自らは離さない。
一つ年上の男の子に絶対の信頼を寄せるなんて、少し前のトウリには想像も出来なかった。何せ男の子と関わる機会だって少なかったのだから。








棚の後にはキキョウがトウリを連れ去って十数着の服を購入した。試着を限りないほど行い、入れ替わり立ち替わりに渡される服たちにトウリはどうしたものかと一人困惑していた。だがキキョウの嬉しそうな声がする度、トウリもそれに応えようと買い物を楽しんでいたようだ。
一方、シルバとイルミは留守番のミルキに玩具を買いにコーナーを訪れた。人形がいいのではないかというイルミの意見を汲み取り、人形を大半、あとは少しボールや小さなピアノ等を購入したらしい。

あらかじめ決めていた時間に待ち合わせ場所へ登場した二組は、互いの荷物の量に言葉がでなかった。
女性陣はカートいっぱいの服に、男性陣は袋いっぱいの玩具。


「買ったわねぇ」
「トウリ、気に入ったものは買えたか?」
「はい!いっぱい、ありがとうございます」
「お前はもうゾルディック家の娘だ、いくらでも買ってやるぞ」
「今度は1日かけてお洋服みに行きましょうね!」

互いの荷物の量には何も口を挟まず、会話が成立されていく。ゾルディックからするとこれは日常風景なのであるが、トウリは初めての買い物で少々驚いている様子。
ゾルディックに来てからと言うもの驚いてばかりというか。超一流の暗殺一家は実家とは比べものにならないのだ。


「トウリ」

そんなことを思っていたトウリに今まで大人しく何も喋っていなかったイルミが話しかけてくる。

「イルミ、なにかかえた?」
「うん。ミルキにおもちゃをいっぱいかったよ」
「じぶんには何もかわなかったの…?」
「ぼくはもうおもちゃでは遊ばないし、いいんだ」

イルミはガサガサと持っている紙袋内を漁り始める。何かを探しているようで「これじゃない、あれ?」と独り言を呟きながら手を動かしていた。
やっと目当てのものを見つけたのか明るい表情を浮かべながら、袋から出したものをトウリへ差し向けた。

「マリーちゃんサリーちゃん!」
「このネコの人形、へやにあったなって思って。見たのとちがったから」
「くれるの?」
「うん。これはトウリにかったんだ」

だからはい、と黒と白の二匹の猫の人形を差し出される。差し出された二匹を受け取りそっと抱きしめたトウリは動きを一瞬止めた。何か思いついたのか、じっと二匹の人形を見た後に黒い猫をイルミに差し出した。

「これはイルミにあげる」
「ぼくがトウリにあげたんだよ?」
「イルミだけおもちゃがないのはさみしいから…だからこれを持っていて。それでわたしとあそんでほしいの。ダメ?」

泣きだしそうな顔。差し出された黒猫の人形を取るべきか否か、イルミは考えていた。自分で考えてプレゼントをしたものが半分戻されるのは少々複雑な気持である。トウリなりの配慮のつもりだったのだが、イルミはまだ子どもでありそこまでの憶測を立てることもできなかった。だが、先ほどの人形を受け取ったときのトウリの表情はとても嬉しそうなものであった。だからこの猫が気に入らないのではないということはわかる。
細かいことは分からないが、あの受け取ったときに見せた表情が見れただけでイルミは嬉しいと感じている。だから細かいことは気にしない。トウリが自分に持っていて欲しいというのならば持っていようではないか。これが二人を繋ぐものだと…形づけられているものだというのは事実。


「……わかった」
「! うん!」

差し出されていた黒い猫を受け取る。トウリはもっていた白い猫の方をぎゅっと抱きしめ顔を埋めていた。それにならってイルミも持っていた黒い猫に顔を寄せる。二人して人形に顔を埋め、そして視線が合ってトウリが笑う。

「えへへ」

そう、この笑顔がイルミはみたかったのだ。




「…あなた」
「……ああ」
「…っカメラ持ってくればよかったわ!!!」


ハンカチを悔しそうに噛みしめるキキョウの肩に腕をまわしてなだめるシルバ。
大量の買い物品を乗せ、4人が乗った飛行船はククルーマウンテンへと飛び立った。






――――――――
買いものはさせて見たかったので買いものしに行ってもらいました。
イルミはトウリちゃんとの繋がりを持って自分たちの関係を安定させたいと無意識のうちに思っています。安定しているのは笑顔が見られているときなので、トウリちゃんが笑顔のときはイルミも安心しています。
まだこのころのイルミは感情はいらないとは思っていないので。

13.12.21.


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