10 いっしょに勉強





山中で動物たちから逃げ回った次の日から身体を動かし始め、その次の日にはメニューに拷問が加わっていた。初めてというわけでもなく家でも行っていたメニューに似ていたので、特に嫌だとは思うことはない。
執事と共に身体を動かし、時間が空けば拷問、休む時間も勿論ある。


「はっ!」

ゾルディックの執事はトウリの実家の執事よりも格段に動きが素早く、強い。トウリ相手で息を切らす姿もなく動く。それに若干の恐怖を覚えたが、トウリはその気持ちを押し殺し、目の前の人物に相手をしてもらっているという敬意と何のために自分がこの家に来たかの意思をぶつけた。
ここではうかうかしていると自分の存在を消されそうだと感じる。と、言葉では表現できないが、トウリにはそれが恐怖として感じられていた。いないものとして扱われるもしかり、実際に存在を消されるもしかり、何かをしていなくては生きていけない…そう肌で感じていた。
もともとこの家の者ではないからか、それともゾルディックに対してただ自分が弱いだけなのか。来たばかりのトウリにはわかりはしない。
しかし数日で分かった事はトウリが厳しい目で見られていること。力と将来性を執事たちに計られている、ということ。



「トウリさま、お疲れさまでございました」
「はあ、はあ…、ありがとう、ござい、ました」
「休憩を30分取った後はイルミさまとお勉強の時間です」
「わか、りました」


実家からついてきたルゥにもここ数日は顔を合わせていない。
きっと知っている顔があるといけないのだろうと薄々感じていた。というのも、シルバからルゥと顔を合わせることができないと事前に聞いていたので心の準備もできていた。だからか寂しいという気持ちはあっても、泣くほど会いたいと言うこともない。
お互いにここの生活に慣れるまでは、と。





稽古着から着替え指定された勉強部屋へと訪れれば、既にイルミとゴトーの姿があった。イルミは勉強道具を広げて取り組んでいる。

「トウリ!おけいこおつかれさま」
「イルミははやいのね」
「イルミ坊ちゃま、トウリお嬢さまがいらっしゃったので10分休憩にいたしましょう」
「ほんとう!?」
「ええ、どうぞ。トウリお嬢さまも10分後から始めましょう」

椅子から飛び降りたイルミはすぐさまトウリの腕を引いて、先ほど自身が座っていた隣の椅子に座らせる。イルミも先ほどの椅子に腰かけ向かい合わせに座った。

「今日はどんなおけいこした?」
「今日もまたシツジのひとといっしょにからだをうごかしたの」
「そっか、おつかれさま」
「イルミはなにをしていたの?」
「ぼくはね、ごうもん。でもメニューが終わらなかったんだ。これが終わったらまたもどるよ」
「このあとに、ごうもんがはいっていたけれど…」
「じゃあトウリは今日できないかもしれない。ごめん」

眉を垂らしたイルミにトウリは内心びっくりしていた。1歳年上で名家ゾルディックの長男という印象が強かったのか、イルミがメニューを時間内にこなせなかったことに対して。
名家に生まれ、生まれてから高いレベルで暗殺一家の一員として育てられているのだから。1歳でも“年上”ということで自分よりもはるかに多くのことができるという認識のトウリには、イルミがメニューを楽々クリアできないのが不思議に思えた。
1年は大きい。そう思うのは子どもだからだろう。

「きっとトウリは、このあともべんきょうになっちゃう」
「だいじょうぶ、わたしべんきょうがんばる!だから、イルミもがんばろう?」
「…うん、がんばろう」
「さて、お2人ともそろそろ始めましょうか」

ゴトーに声をかけられ2人は急いで勉強の支度をしはじめる。
そんな2人をゴトーと、扉の向こうからゼノが見ているとも知らず。






「トウリお嬢さま、ではこの問題を。10問終わったらお呼びください」
「はい」

今日の勉強は算数。トウリが渡されたのは足し算のプリント数枚。イルミは先程やっていたものの続きをやっているよう。
数を足していくので両手をいっぱいに使いながらトウリは計算をしている。その横でイルミは難しそうな顔をし、ちらちらとゴトーとプリントの間で視線を行き来させていた。

「ゴトー、きて」

観念したイルミがゴトーを呼ぶ。ゴトーがイルミのプリントをみて微かに笑った気がした。

「この問題は一度やったことがありますから、もう一度考えてみてください」
「うん…」

自信がなさそうなイルミの声。有名な暗殺一家の子どもでも、この家が初めてのトウリに対して頼りがいがあった笑顔も、それがイルミの全部じゃない。苦手なこともあるんだと気付く。
でも苦手なことがあってもいいんじゃない。これから大人になるまでにいっぱい、いっぱい教えてもらってできるようにしていけばいいんだもの!
こうしてイルミと並んで勉強するのが楽しい。というよりも、今まで少ししか同い年の子のいる施設に通ったことがなく、家庭教師を雇って一対一で勉強していたことが多いトウリは、同じように勉強する相手が隣いるのは新鮮なことだった。
そんな思いを秘めてプリントに向き合うと、意外と頭を回転させるのが難しい。とりあえず今は計算しないと、とトウリは一旦プリントに集中した。10問が終わってゴトーを呼べば答え合わせ。それが終われば再び10問が与えられる。それを何度か繰り返し、今日のノルマは終わった。
イルミも勉強のノルマは終わったのか椅子から飛び降りる。

「ごめんね、トウリ」
「だいじょうぶ。イルミもがんばってね」
「うん」


ようやく苦戦していた割り算から解放され、残っている拷問を終わらせに部屋を出ていった。勉強の後に拷問の予定だったトウリは一緒にできないので、引き続き勉強を行う。
しかし見てもらうゴトーはこの後執事としての用事がほかにあるので、本を読んでおくようにという課題を出される。物語の本を2冊持ち自室へと戻った。

「イルミはこの本、よんだことあるのかな」

イルミと同じものを読むのも面白そうだ。今度、一緒に何か読んでみたい。
そしてもっと一緒に勉強したい。色々なこと、一緒に勉強してできるようにしていきたい。
だってこれから一緒にいるんだもん。そうだよね?





――――――――
トウリちゃんは一応、普通に育てられていたので幼稚園みたいなところに行っていた時期がありました。
でもゾルディックとの結婚話が出たので家庭教師に変えた、という感じです。

2012.10.08.


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