7 はじめまして





イルミと共に食堂を出、そのまま連れられて何処かに向かっている。トウリは何も聞かされぬままイルミに手を引かれて歩いていた。

「どこにむかってるの?」
「おたのしみ」
「ヒントは?」
「トウリが会いたい人」
「わたしがあいたい…?あ、」

もしかしてとトウリは昨日のイルミとの会話を思い出す。確かそんな話をした。だからか、イルミが今朝からそわそわしていたのは。
そう思いながらイルミに連れられるままに歩いていけば、やがて一つの扉の前で立ち止まる。


「ここだよ」


静かに扉を開けて共に部屋に入る。目指すは目の前にあるゆりかごへ。そっと足音を立てぬように近付いた。

「この子が弟のミルキ」
「わ、あ…あかちゃん」
「起こすと泣いちゃうから、しずかにね」
「うん。かわいいね」

眠る赤子の姿は気持ちを和やかにさせる。トウリの頬も例外なく緩み、そんなトウリを見ていたイルミも弟に視線を向けて頬を緩めた。
ふにふにとした赤子の頬。トウリはその気持ちよさそうな部分に触りたくて仕方がないようにうずうずする。

「ね、ねえイルミ」
「なに?」
「この子のほっぺ、さわってもいいかな」
「うん、いいよ。やさしくなら起きないと思う」


そっと、触れるか触れないかの距離に手を伸ばす。その微妙な頬と手の距離がくすぐったくて、トウリはくすっと笑った。
それに反応したかのようにパッチリ目を開けたミルキ。イルミと似た黒いまるまるとした瞳が二人をとらえた。


「わっ どどどうしよう、起きちゃった!」
「シッ …大丈夫」
「でも、」
「おはよう、ミルキ。今日もかわいいね」

ミルキに向かって指を差し出すイルミにトウリは内心ドキドキだった。
ここで泣き叫ばれれば使用人は来るだろうし当然キキョウも来るからだ。原因が自分となれば、もしかしたら今後この子とは接触できなくなるかもしれない!という過大な憶測が飛び交っている。もちろんそんなことはないのだが。

「うー」

イルミが差し出した指を興味津々に見つめ、そっとその指を握るミルキ。その様子にトウリは目を輝かせていた。


「今ならほっぺにさわれるよ」
「へっ 平気かな」
「大丈夫だよ。さわってごらん」

イルミの指に視線が集中しているミルキの頬に、今度こそ触れてみる。優しく触れた頬は想像以上に柔らかい。その柔らかさに感動したトウリはふにふにと感触を味わった。
ふとミルキがイルミの指から視線を外してトウリを伺う。今まで見たことがない人物に、黙って頬を触られたまま。


「ミルキ。前からいってたトウリだよ。お前のおねえさんになるんだ」
「は、はじめまして!これからよろしくね」

イルミはトウリとは反対側の頬に触れる。ミルキは気持ちがいいのか開いていた瞳を細くする。そしてトウリの挨拶に応えるように笑った。

「使用人がはじめてさわると泣いてたんだ。でもトウリは大丈夫だったね」
「えっ?そうだったの」
「うん。でも泣かずにわらった。ミルキもトウリをかんげいしたってことだよ」
「…そうだといいな」


2人の指に嬉しそうに笑うミルキに、トウリは小さく「よろしくね」と呟いた。







ミルキの頬をお触りしていた2人は、扉をノックされた音で意識をそちらへ集中させた。

「失礼します」

静かに扉を開けて入ってきたのは昨日みた眼鏡の執事だった。確かルゥが言っていた、執事だと思うのだが。
じっとトウリが執事を見ていると向こうも視線に気がついたのか、トウリに身体を向けて綺麗に頭を下げる。


「これは、ご挨拶が遅れましたトウリお嬢さま。執事のゴトーと申します」
「あ、あなたが」
「はい。本日からトウリお嬢さまのお勉強の一部を私が引き受けさせていただきます」

よろしくお願いいたします、と再び頭を下げる目の前の執事に、トウリは思わず首を傾げる。

「おべんきょう?」
「国語とか計算とか、きほんのちしきはやらなきゃダメだよ」
「…そうなの?」
「そうなの」

応えたのはイルミ。勉強というものに嫌そうな顔をするトウリに、必要なんだよとイルミが諭している。


「最初は慣れていただくためにイルミ坊ちゃまと一緒に行いますので、ご安心してください」
「イルミが、いっしょなら」
「よかった」

イルミの袖をちょこんと引き、心配そうな表情を浮かべた。今は年の近いイルミが側にいる方が安心するようで、ゴトーには今の会話でそれを悟る。
しばらくは2人でいた方がいいだろうという配慮は正解だったようだ。


「そうだゴトーさん」
「はい、何でしょう」
「ルゥを、よろしくね。あんまりいじめないであげて」
「…承知しました」


お嬢様に心配をされる執事などどこにいるのか。…いや、現にこのお嬢様は心配をしている。
全く、と思いつつも厳しく指導されているであろう昨日来たばかりの新米執事を思い浮かべたゴトーであった。





2012.04.02.
――――――――
ミルキと接触、ゴトーとおはなし。
イルミにとってミルキは初めての兄弟なので、可愛がっているはず!


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