とんでもない男



私用の飛行船だと言われ、そのまま飛行船で移動をした私とヒソカ。
私は目的の場所を知らないのでどこに向かうかは全く予想ができない。とにかくヒソカについていくままなのだ。
寝ていていいよ、と声をかけられたので、遠慮なく案内された個室で睡眠をとった。

そうしてついた先は―――

「う、わ…」



森に囲まれた小さな街だった。

ついたのは小さな街であるが、目的の場所はここではない。ここからまた森の方に向かって歩いていた。家の面影はなく、人の入る気配も感じられない。
しばらくして見えたのは森の中にぽつんと佇む2階建ての家。


「ようこそボクのお家へ☆」
「こ、ここが?!」
「まあいくつかある中の一つだけどね◆」

そういったヒソカはずんずん進み、カギをあけて家の中に入っていく。其れに続く私は正直驚いて仕方がない。
だってあのヒソカが、こんな普通の街のそばに家を置くなんて。

「ボクだって食事とかするからね◆近くに街があった方がいいだろう?」
「えっ」
「大体わかるよ、考えてることなんてさ☆」

まずはあがったら?と声を掛けられて足を踏み入れる。
外見はそこまで大きく感じさせなかったが、中に入ってみると意外と広い。この家で一人暮らしだとなんだか落ち着かないのではないだろうか。しかしリビングやキッチンなど綺麗にされているし調理具や食器も揃っているらしい。使ったのは随分と前なのだろうか、最近出されたり使ったりした様子はない。

「生活はできるだろ◆」
「うん。…でも、最後にここに来たのはいつ?」
「最後?えーっと、いつだったかなァ…」
「思い出せないほど前ってことね、わかった」


ヒソカは試験中に危険人物として見られていたけど仮にも人間だ。人を殺すのが普通にできたりもするが、人外と言うわけでもないらしい。人間として見ていなかったのは心の中で謝っておくとする。だけれどこんなにも普通の生活をしているなんて誰が想像するだろうか!

そんな事をぼうっとリビングで立ちながら考えていると、いつの間にか二階に上がっていたヒソカに呼ばれる。
二階に上がり、ヒソカに案内されたのは必要最低限のものしかない部屋。


「ここ、メイの部屋にしていいよ☆」
「えっ 個室までもらえちゃう感じですか」
「何ならボクの部屋で一緒に寝るかい?」
「この部屋いただきます」
「遠慮しないでいいのに◆」

ヒソカの言葉を無視して部屋を見渡す。窓も日差しが丁度よく入る位置だし、そこまで狭くもないし広すぎると言うわけでもない。ずっとここに住むというわけでもないのだし丁度いいだろう。
そうして自分の荷物の全部である肩掛けのバックを下ろし、近くにあるベッドへと腰を下ろす。
…お、適度に柔らかい。

「はい、これ◆」
「? なにこれ」
「ここにしばらく住むんだし、服とか女の子には色々必要だろ?それで買ってきなよ☆」

渡された封筒は少し重い。この重さからすると中には結構多くのお金が入っていると予想する。
有難い話ではあるが、正直そこまでしてもらう必要があるだろうか?確かに色々と買いたいものはあるが、私だって貯金ぐらいある。

「ヒソカのお金、でしょ」
「遠慮しないの☆」
「…だって、場所も部屋も提供だし。そこまでしてもらう必要はない」
「ボクの好意だっていえば貰うかい?」
「逆に貰わないかな」
「もう…いいんだよ◆ボクが世話を焼きたいだけだ☆」
「でもこんなには貰えない!」
「ごちゃごちゃ言わない、はい買い物に行く◆」

いくよ、と腕を引かれて立ち上がる。いいよと言っても聞きいれてもらえず、私は仕方なくヒソカに腕を引かれて街の方へと向かった。
そのまま街の端まで連れてこられれば、結局先ほどの封筒を渡される。先ほどよりも少し減った封筒の中身。それをヒソカはひらひらと見せびらかす。


「買い物は時間がかかるだろう?一人で行かせるのは心配だけど、まだ陽は落ちないだろうから大丈夫だと…」
「子どもじゃないんだから」
「そう?攫われたりしたら大変◆」
「心配しなくても大丈夫。…じゃあ、お金かりるね」
「どうぞ☆」

ニコニコと笑顔で私を見送っているヒソカ。…絶対何か企んでる。企んでいるんだろうけど、私じゃ手の施しようがないなと判断し、ヒソカに背を向けて歩きだす。
ヒソカのいう通り女性的には色々と必要なものが出るわけで、ヒソカのお金を使うのはしぶしぶだが素直に必要なものを必要なだけ買いそろえよう。







持ち合わせの服は少なく、下着と一緒に買い足した。とりあえずは自分が持てる分だけの生活必需品も買った。
女の買い物は長い。連れて行かれる間に制限時間は2時間だと言われたので、実際に2時間ぴったりの買い物をさせていただいた。買ったものを両手に提げてヒソカと別れた場所まで戻ると、そこにはちょっと格好よさ気なお兄さんが立っている。
私の方をじっと見ていたので思わず首をかしげた。

「……?」
「おかえり☆」
「あの、どちら様で」
「ボクだよ、ヒソカ◆」
「……え、ええええ?」
「酷いな◆」

髪色はヒソカと同じだ。今は下ろしているから変態度がとてつもなく下がっている。つりあがった目も同じだ。瞳の色も同じだ。
ふに、と自分の頬に人差し指をさして微笑む。その顔は確かにヒソカだ。化粧がしてあるのとないのとでは大分印象が違う。服も普通のものに着替えているし。というか何故こんなにも容姿が変わってしまうんだろう。

「もしかして待ってた?」
「いや、今来たところ◆それより荷物持とうか?」
「大丈夫」
「そう?」

ヒソカがこちらに手を出したが、それほど重くないし自分のものだからヒソカに持ってもらう必要はない。
大丈夫と言った私をじっと見つめるヒソカ。そんなに拒否されたのが気になったのかな。いや、四次試験くらいからヒソカを拒否したことは何度もあったからそんなことはないと思うが…黙ったままこちらを見るヒソカにいたたまれなくなってくる。

「…なに?」
「いや、なんかカップルの待ち合わせみたいだね☆」
「ごめん、もう一回言ってくれないかな」
「カップルみた…痛い!」
「寝言は寝てから言うものです」
「容赦ないなあ◆」



外見が変わっていても、中身はヒソカのようです。

家に着いてからはヒソカが夕食を作ってくれたりヒソカがお風呂の準備をしてくれたりヒソカがお茶を淹れてくれたり…多分これ配役が逆だ。しかしヒソカの作ったご飯は私の作ったものより美味しかった。冗談抜きで。
まだ初日だからわからないだろう?とヒソカは言うが、やらなきゃ何も覚えない気もしなくもない。

ぽちゃん、と湯船に浸かる。
このお風呂、大きくてそわそわする。しかし広いと足をのばせるしリラックスできるので幸せな気分だ。
こんな所にお世話になってよかったのだろうか。ヒソカの実力は、まあ凄いのだと言う事は分かっている。だから強くしてもらおうと思ったが…


「予想以上、というか」


あの変わりようは予想外に近い。あんな、髪をおろして化粧を落として普通の服装をして、格好よさ気だと思ってしまった自分が恥ずかしい。口に出して言わなくて良かったし、ヒソカに気付かれるようなことがなくてよかったと思う。絶対いじられる!
不覚にもヒソカに対して格好いいと思ってしまった自分が憎い。
ああして大人しくしていれば格好いいんだろうと。

「うー…」

ぶくぶくと湯に顔をつけてみる。
そもそも何でこんなにもヒソカなんだろう。私はここに強くなるために来てる。ヒソカは一切関係ない。いや関係はあるけどそういう関係はなくて!…そういう関係ってなんだ。
ヒソカの素顔をみてから何だか自分がおかしい。というかヒソカの私に対する対応だって丁寧だし、もとの顔立ちが整っていたから自然と目が行ってしまって。意外と格好いいとか、そう思ったらなんか一緒にいるのが恥ずかしいとか、そ、そんなこと思ってない!思ってない!


「メイ?」
「っひゃい!!」

突然呼ばれた名前に、湯船につかりながら飛び上がった。その反動でお湯がばしゃりと音を立てる。

「クックック…いや、ごめん、ちょっと長いから心配しただけ◆」
「あ、ごめ、もう出る」
「そう?ボクはキミが買い物しに行っている間にシャワー使ったから平気だけど◆」
「出る!」
「はいはい☆」

正直、ヒソカが呼んでくれてよかったと思う。あのままだったら私は自分の考えてることに恥ずかしくなって叫びそうだ。
笑いながら脱衣所からヒソカが出ていったことを確認すると、湯船から静かに出る。早く出て頭を冷やそう。





私がお風呂から出ればもう寝る時間とのこと。というか試験終わりにここまで来て、今日は早めにベッドで寝て疲れを取った方がいいという事らしい。
暖かくして寝なね、といわれてそのまま部屋へ。
ぼふ、とベッドにダイブする。適度な柔らかさが疲れた身体を包み込み、眠気を誘う。


「明日から身体を動かし始めようね☆」


別れ際に言われたヒソカの言葉を頭で繰り返す。
いよいよ、だ。いよいよ始まる。ハンター試験後半からずっとこの時を待っていた。強くなれるこの時を。
ヒソカはちゃんと強くしてくれるだろう。容赦がない部分もあるだろう。殺されるかもしれないけれど、それを避けることができなければ強くなんてなれない。

「おかあ、さん」


もっともっと、強くなるから。だからお母さん―――。
そのまま瞳を閉じ、眠気に誘われるまま意識を手放した。





――――――――
修行編開始です!ヒソカさん宅にお邪魔しました。
これから訓練、メイちゃんの詳細を明らかにしていこうと思います。
2012.08.05.

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