休憩ください




「ちょ、ヒソカさん!」
「どうしたんだい?」
「いい加減にしてください」
「いいじゃないか、一緒に寝るくらい◆」
「いい加減にしろって言ってんの」
「おお…怖い怖い◆」


昨日はヒソカが出てきたり、試験後の特訓?修行?も見てもらう約束をつけたり、“あの”私もみられたりということがあり、ヒソカには随分とこの短期間で関わった…気がする。内容ではなくて質的な意味で。
今日はヒソカに起こされるし妙に優しくスキンシップ取ってくるから、放置しておいたら調子に乗ってこのざまです。
私もヒソカに結構ひっついてたりしたけどヒソカとは全然比べ物にならないくらいだし、むしろ後ろについてたとか近くにいたとかそのくらいだし。おかげで敬語が少し抜けました。

「明日はいよいよ最終日☆よかったね、もう終わりだ」
「本当…後半で一気に疲れました」
「いい意味でね◆」
「勿論悪い意味で」

明日の最終日。自分のプレートがターゲットで一応守り抜いてきたわけだけれど、戦闘にならずに済んだのはよかったと思う。動きが鈍くなっている可能性もあるけれど、それでも人を殺めるという選択肢にならなかっただけいいだろう。
それに“あの”私もヒソカの前でしかみられていない。協会の監視は別にして。


「それじゃあ今日は寝ようか☆」
「おやすみなさい」
「隣で寝てはくれないの?」
「寝ないです」
「いいじゃないか、ボクの横◆」
「………」
「そんな目で見るなよ…まあいいか、おやすみ☆」


ヒソカは名残惜しそうな目をしたが、昨日と同じように少し距離をとって同じスペースで寝た。
ようやくこの四次試験もおわり。残すは最終試験のみ(って言ってたと思う)。
強くなる術も試験に合格すればヒソカは見てくれるらしいし、これは本当に頑張らねばいけないな。
とりあえず明日の集合まで気を抜けない。が、今は睡眠が優先だと思うので寝ることにします。





もぞっと動いて身体を縮ませる。眠りからゆっくり覚醒した頭なので視界がはっきりしない。それに思考も。
ぼうっとしたまま身体を起せば、少し離れた場所に居たヒソカの姿が見えない。起きてすぐに構ってと起こされていたのに、珍しいこともあるものだ。

それにしてもヒソカの気配がしない。…いや、何故かわからないけど奴は気配を消していることもしばしばある。が、私を起こす前に、というか私が起きたのにヒソカが姿を現さないのはなんだかおかしい。うぬぼれだといわれるかもしれないが実際のところそうなのである。
すっかり昇った陽に、ぐぐーっと伸びをしてからその場に立つ。どうしようかと考えこめば、すぐに聞こえたアナウンスの声。


「……これより一時間を猶予時間とさせていただきます。それまでに戻らない場合、不合格となるのでご注意ください」
「………あ」


ヒソカの野郎おおおおおおお!!!
あいつ一人で集合場所いっただろ!そうだろ!!絶対そうだ、面白がって起こさなかったんだ絶対そうだと言い切れる!最悪!なにあの変態!助けてもらってこれから面倒見てもらう予定だけど、これはさすがにひどいんじゃないかな!
と言っている間にも時間は過ぎていく。ここは海岸沿いだと言っても、スタート地点からは結構時間がかかる。一時間でたどり着けるか不安な距離だ。
ここをすぐに離れなければ猶予の一時間以内にたどりつけない。=不合格。それだけは絶対に避けたい展開です。

そうとなれば少ない荷物を手早くまとめてスタート地点に向かわなければ。
くそ、こうなるんなら昨日ヒソカとゆっくりしてないで少しでもスタート地点に向かうんだった!こうなることまで予測してヒソカが言わなかったなら殴ろう、うん。後が怖いけど許されると思う。

忘れ物はないか確認してから、私は足早にそこを去った。うう、お願い間に合って。








「はい、では以上9名…「ちょおおおおおっとまったああああああ!!!」…あら?」


セーフ!ナビのお姉さんが終了する手前!というか走っててもうすぐ、と言うところでお姉さんの声がしたから全速力で走りながら叫んでみた。気付いてもらえてよかった。
ぜーはーと息切れをさせながら合格者と思われる受験生たちの前に姿を現した。肩で息をして膝に手をついて、ちょっとこれ前向けない。とりあえずプレート、プレート出さなきゃ…!


「プレートよろしいですか?」
「は、はい…これ」

鞄にしまってあった自身のプレートを出し、お姉さんに確認してもらう。まだ息が切れているので前を向けはしないがプレートだせばわかってくれるはず。

「224番、メイさんですねー!」
「そ、そーです」
「では以上10名…「ちょっとまて」…はい?」

お姉さんが四次試験終了をコールしようとすると、先ほどの私のように声をかぶせて邪魔をした。やっと整ってきた呼吸で正面を見れば、なぜかあのハゲの人が私を指さしていた。

「あいつプレート一枚だぞ!」
「あ、はい。そうですけど」
「ターゲットのプレートがねえじゃねーか…って、お前まさか」
「……そのまさか、ですよ」
「メイさんのターゲットはご自身の224プレートだったので、一枚で大丈夫でーす」

若干口元のひきつったお姉さんがハゲの人と、ほかの受験生の皆様に私の事情を説明していただき、それで私のプレートが一枚と言う事に納得してもらった。再び私を見るハゲの人には、なんだか憐みの視線を向けられた。
っと、ハゲの人にもいろいろ言いたいが、とりあえず私はまずこいつに一言言いたい。


「ちょっとヒソカ!何でアンタ私を追いてったの!起こしてから行ったっていいでしょう!?」

ヒソカに近づいていき、変な服の首元を鷲掴む。あちらのが背が高いから、私の方に引き寄せるとヒソカはかがむ体制になるわけで。
ヒソカの後ろから見たらなんだか私がヒソカにチューしてるみたいに見えるけど…まあそんなこと考えてられるか。


「おはよう◆気持ち良さそうに寝てたから…つい☆」
「つい、じゃなくて!おかげで私、ギリギリだったんだから!全力疾走!」
「あいさつは華麗にスルーかい?いいじゃないか、体力向上◆」
「そういうの要らない!」
「ゴメンゴメン☆」

再会早々に文句を言ってやったわけだけど、ヒソカは別にそんなの気にしてないみたいな態度でムカついたので、足を思いっきり踏んでやりました。「痛いなあ◆」なんて言われたけどスルー。
ちなみにそんなやりとりをしている後ろでボソボソと「ヒソカ相手に…」「どうなってんだよ、相手ヒソカだぞ」「どうしよう逃げたい」云々の会話が聞こえたけどこれもスルー。
冷静に考えれば、あの“危険人物”といわれたヒソカ相手に凄いことをやっているわけだけれど、私にはもうそんなのどうでもよかった。ヒソカの機嫌を損ねれば殺される可能性だって確実に上がるわけだけど、なんだかそんな事は憶測だけで実際に起こるようなことはないという、根拠のないまま不思議と信じられた。

お姉さんの笑顔が引きつっていたので、ヒソカを責めるのを一旦終わりにして迎えに来た飛行船へと乗り込む。最終試験会場までは3日あるという事なので、皆それぞれ飛行船内で3日を過ごすことになるらしい。
そんな説明を受けてヒソカからそっと離れると、四次試験も無事合格したらしいゴンくん、キルアくん、クラピカくん、レオリオさんがこちらへと歩いてくる。


「メイさん!」
「おねーさん」
「あ、四次試験おつかれさま。いよいよ最終試験だね」

走ってくる二人に、後ろから歩いてくるクラピカくんとレオリオさん。ゴンくんは少し怪我をしているみたいだけど、大丈夫かな。

「おつかれさん」
「お二人とも、少し汚れてるけれど…大丈夫です?」
「私たちは平気です。それよりさっきの…その、」
「さっきの?」
「ヒソカといたらしいですが、貴女は無事だったんですか」

単刀直入に聞かれたことに少し驚く。クラピカくんの目はなんだか私の心をまっすぐ貫くような、そんな力を持っているような気がする。その目で見つめられて動けなくなった。

「平気だよ」
「あのヒソカだぜ?本当に平気かよ」
「うん。二日間一緒にいたけど」
「二日間!?」

ゴンくん、キルアくん、レオリオさんが表情を崩す。というか、うげえ、といった何とも言えない表情だ。反対にクラピカくんは驚いてかたまっている。

「…貴女は、そんなに危機感を持たないような人には見えないのですが」
「私だって最初は警戒してたよ。あっちから来てね、まあ色々とあって一緒に居たの」
「プレートを奪われるという選択肢は」
「ああ、あっちが集め終わってること見せてくれたし、私も自分の守るだけだったしね。疑ったけど、あんなにも強いヒソカだよ?プレート奪うんだったら最初から私を殺してるはず。私なんか一発で殺せるだろうし。だから平気かなって」


そう根拠もないことを言えば、クラピカくんは大きなため息をついた。ゴンくん、レオリオさんはびっくりしてるし、キルアくんに至っては変なものを見る目で見られてる。
あ、あれ、私そんなにおかしいこと言ったかな。


「…とにかく、メイさんが無事で何よりです」
「クラピカくんも無事でよかったよ」
「にしてもあのヒソカね…おねーさん趣味悪いんじゃない?」
「ちょ、別にそういうのじゃないからねキルアくん」
「どうかなあ」
「そーだぜキルア、ヒソカとかねーだろ」
「おっさんは黙ってて」
「ンだと!?」


キルアくんとレオリオさんのやり取りに自然と笑みがこぼれてしまう。ゴンくんも笑い、クラピカくんは呆れたように笑い、私も同じく笑みがこぼれていた。
私もギリギリ合格、残すは最終試験のみ。
とりあえずこの3日間はやっと手に入る休息時間のようだ。






20XX0401

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