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午前の移動教室中、幸村くんの教室に錦先輩が訪れていた。その前は通り過ぎなかったから会話は全然聞こえない。
「葵ーいくよー?」
気になったけれど、夏芽が私を呼んだのでそのまま視線を外した。
「……の………ですか」
「ああ。だから………方が…」
「そう………に行かせましょう」
「……か?」
「………んと……」
「……い、と……な」
まあ何かあったら連絡が来るだろうと、その時はその場を後にした。
柳生くんに私のマネージャーの気持ちを確かめられた次の日。今度は変装した柳生くんではなく、正真正銘の仁王くんが私を呼び出しにきた。
「な、なあ藍沢っ!」
「う?」
「ちょっと、き、来てくれん、か?」
「うん、いいよ」
今回は昼休み。お弁当を早めに食べ終わったので、鞄に仕舞いそのまま仁王くんの元へ駆けていった。すると教室の前扉だと人目があるのでそれが嫌らしく、場所を移動する。
付いていけばそこは昨日行った社会科教材室に至る階段の踊り場。なんか2人とも選ぶ場所が似てるなあ、と思わず笑ってしまった。
「な、なんか可笑しいとこでもあったか?」
「ふふ。ううん、違うの。昨日も柳生くんとそこの社会科教材室に来たから、選ぶ場所が似てるなって」
「なっ …柳生もココに来たんか」
「2人とも仲良しだね」
「まあ、ダブルスパートナーじゃき」
頬を掻く仁王くんは、可愛い。というか照れているんじゃなかろうか。信頼できる、パートナーなんだろうな。
「あ、それで」
「あっ そう。藍沢にな、プレゼントがあるんよ」
んん?プレゼント?何だろう、誕生日ではないし仁王くんに何かあげたわけでもない。あげたからってプレゼント貰える理由にはならないか。仁王くんはごぞごそと後ろポケットに手を突っ込んで何かを探している。
しかし何で仁王くんからプレゼント?と首を傾げていると、仁王くんが顔を赤くして否定をした。
「ち、ちがっ 俺単体からじゃなくて!」
「うん」
「部員…つか部活から」
「……部活から?」
そ、と差し出されたのはチケットのようなもの。手に取ってみればそれはあの国民的な大テーマパークのチケットだ。
「え…これっ」
「夢の国にご招待ナリ」
「ななな、なんで」
「ここまでめげずにマネージャー頑張ったご褒美って」
「でも一枚どころか四枚だよ!」
「ああ。だからいつもいるアイツ等と、今週の土曜日くらいに行ってきんしゃい」
アイツ等…というのは夏芽と恵美、真結で違いないだろうか。でもいつもいると言ったらその三人だし、仁王くんもそれは知っているはず。
「でも、土曜日って部活なかったっけ?」
「あー…一応な」
「じゃあマネージャーの私がいなかったら色々雑用が大変じゃ…」
「部活であって部活じゃないもんだから、きっと大丈夫」
「……もしかして私、邪魔?」
「じゃ、!邪魔なんか言っとらん!ちょっとややこしい奴がくるから、藍沢はまだ会わん方がいいって部長も幸村も言っとったから!」
まさか、と思ってカマを掛けてみたけれど、どうやら私が邪魔な訳ではないようだ。都合が悪い、ということだろうか。さすがに有能なマネージャーならば平気だったのだろうが、テニス初心者のマネージャー初心者な奴だったら確かに会わせにくいし、何よりマネージャーで部活のレベルを見られたらお終いだし。
ここは大人しく、このチケットに甘えてこようか。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ちょっと心配だけど、でも錦先輩も幸村くんも言うなら仕方ないな。
ここまで頑張ってやってるし、本当にご褒美を堪能してこようと意気込んだ放課後。
*****
「仁王、大丈夫だった?」
「お、おお。幸村か。大丈夫じゃき」
「さすがにマズいからね。納得してくれてよかったよ。錦先輩に連絡しちゃお」
「ありゃ怒りの矛先が藍沢にしかいかんからのう…」
「まだ早いよね」
「ピヨッ」
「いずれは仕方ないが、まだ時期じゃない」
「…バレるのも時間の問題、じゃが」
「「アイツは絶対、つっかかるからなあ」」
――――――――
さてアイツとは。
以下、最初の会話。
「次の土曜日の練習で、ですか」
「ああ。だからマネージャーがいない方がいいかと」
「そうですね。じゃあ連絡は仁王に行かせましょう」
「大丈夫か?」
「ちゃんと伝えないとお仕置きしますから」
「いたしかたない、とそういう事だな」
2011.