庭球 | ナノ

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放課後。何故か部活にいこうとしたところを仁王くんに呼び止められた。んん?なんか雰囲気がしんみり…と言うか流し目をされてオーラが違ったというか、いつもと少し違ったのが気になる。でもまあ仁王くんだろう、こんなそっくりさんいないだろうし、と取り敢えずついて行った。
向かったのは人気の少ない社会科教材室。そのチョイスはよくわからなかったけど、仁王くんが社会科教材室?と疑問に思った。まあさっきと同じく自己完結したわけでありまして。


「藍沢」
「はい?」
「マネージャーはどう?」
「んー 大変だけど、まあ楽しい、かな」
「辞めたいとかは?」
「今更辞めないよ。好きになってきたし」
「それならよかった」


ガチャリと開いた鍵音に、ちょっと古びた音を立てながら扉が開かれる。中には少人数制の教室も併せてあり、とりあえず一つ机を挟むように仁王くんと椅子に座った。

「でもどうして?」
「何が?」
「急に呼び出して、そんな質問」
「ちょっと気になっての」

幸村くんには遅れるという連絡が行っているらしいから心配はないけれど、私、正直遅れたくないんだよなあ…なんて言えはしないけど。

「お前さん、何か気づかないか」
「え?何かって…」
「何か」

ニヤニヤと笑う仁王くんに、何だか急かされながらも考える。
えっと、気付かないかって、まず何にだろうか。ただの社会科教材室だし、ここは立海だし。はっ まさかここは夢の世界?と手をつねってみるが普通に痛かった。じゃあなんだろうか。
疑問に思うことなら、仁王くんがちょっと…違和感がある、くらい。格好いいと評判の仁王くんでも、なんかこんな艶やか?な空気が漂うことなんて私の前ではなかったはず。あくまでも私の前では、ね。
だからなんだかそれがおかしい。何時もなら私とニッコニコして元気よく話すのに、今日は妙に落ち着いてる。そう、まるで柳生くんのような落ち着きが仁王くんに合わさったような。…ん?柳生くん?


「え、もしかし、て…柳生くん?」
「……正解です」

ひょいっと頭から白い髪をとれば出てきたのは茶色の髪。そして隠してあった眼鏡をかければあら不思議。仁王くんから柳生くんへ早変わり。

「えっええええ!」
「全くお分かりになりませんでしたか?」
「いや、ちょっと仁王くんには大人すぎると言うか落ち着きが染み着いているとか思ったけど!」
「確信はもてなかった、と」
「…よく見れば、すこーし違うなあって思うよ、今更ながら」


何で気づかなかったんだろう…恵美が「柳生と仁王の入れ替わりはすごいんだから!」と力説していたのを思い出す。
ま、マネージャーとしてこれは失態なのだろうか。まさか見破れるか試されていた?

「まあ仁王くんのフリをしていたのにはあまり意味はありませんから、そこまで深く考えなくても平気ですよ」
「あ、そうなの?」
「はい」

で、でもどうして柳生くんなんだろうか!H組の風紀委員の柳生くんにもしや指導されるとか?いやいやだったら何でD組風紀委員が出てこないんだ。むしろ私は何も罪は犯していない…はず。

「今日一緒に来てもらったのは、貴女の気持ちを知りたかったからです」
「私の、気持ち?」

はい、と柳生くんは眼鏡をあげる。あ、仁王くんの黒子が消えてない。後で教えてあげよう。

「仕事を覚えてきたところだと見受けます」
「あ、うん。まあ何となくは」
「嫌がらせもあったことですし、続けてはいるものの、貴女の気持ちはどうなのか、と疑問に思ったのですよ」
「…もしや幸村くんもグルでは」
「正解です」

ああ、そんな私の気持ちを聞くために部活に遅刻させて、柳生くんをわざわざ仁王に変装させてまで聞き出すこと?直接聞けばはやいのに。

「でも何で仁王くん?」
「私本人ですと堅苦しい雰囲気になるかと思いまして」
「仁王くん本人でもよかったんじゃ」
「…ああ、あの方は多分、無理だと幸村くんと私の意見が一致したんです」
「? なんで?」
「…藍沢さん。世の中には知らなくてもいいことがあるんですよ」


ちょっと柳生くんが怖かったので、それ以上聞かないことにした。


「私たちにとって貴女がいて下さることはとても光栄です。良いお気持ちが聞けてよかった」
「あ、ううん。大丈夫、覚悟は出来たから」
「覚悟?」
「小さなことでは耐え抜こうって覚悟」
「…まさか嫌がらせでは」
「やだなあ幸村くんからのちょっとした命令のことだよ」


笑顔でいった私は内心、膝をついて泣いていた。自分で言っていて悲しい。そんな私を察したのか、柳生くんは「ご愁傷様です」と小さく言った。
みんな幸村くんにかなわないのは一緒なんだね!

その後、遅れて出た部活で仁王くんに半泣きで「柳生とどこ行ってたんじゃ!」と肩をつかまれて困った。
そうだ仁王くんはこんなだ。今は全然、さっきの柳生くんの変装とは違うなあ。最初はあんなだと思ったのになあ、と考えていた。
説明するより仕事しないと行けなかったので柳生くんに任せてその場をスタスタ去りました。



―――――――
若干の仁王キャラ崩壊。格好いい<ヘタレ 推奨。

書き終わり:2011年のどこか
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