庭球 | ナノ




「…いや」
「葵」
「いやっ ヤだったらヤだ!」


ふう、とその場にいた誰もがため息をついた。

立海大学附属高等学校のテニス部レギュラー陣は、ある教室にいた。年が明け、3年はすでに登校が自由な期間。レギュラー陣はそのまま立海大学へと進むため、大学受験という壁はなかった。
しかし、ここに座り込み泣きじゃくり始めたマネージャーの葵は違った。

「も、やだあ…」

立海大学ではない、他の大学への進学を希望した。進みたい学部がなかった、それが原因で。

「葵…」
「や、やだ…もうやだ、どうしよう、」


しかし、大学受験は甘くはなかった。
大きな試練を叩きつけてくるだけで、それを乗り越えるだけの力を持っていないのを知っているかのように。ただ、目の前に立ちはだかり、私の歩みを阻止するのだ。

「他の大学に進むと決めたのは、葵だろう?」
「…そ、だよ」
「なら最後までやらなくちゃ」
「…っ そ、な、勇気、も…ないよお…」

そこまで頭が悪いわけではない。神奈川でもレベルが上の方に位置する立海に所属しているから、そこまで壊滅的なわけではない。なのに、未だに“合格”という報告がでてくれない。
私大も落ち、第二志望だった大学も落ち、賭けていた滑り止めまでもが落ちていた。
勉強する気さえおきない、もう受けることすら怖い。このまま落ち続けてしまうのではないだろうか。―――そんな錯覚まで起こさせる。否、今既にその錯覚で自分を見失いかけているのだ。


「だっ、て、滑り止めまで…落ちて、…っ私どうしたら、いいのお…?」

そのまま持ち上がり組は推薦テストを一応受けさせられる。3年レギュラー陣は皆これに通りもう大学に落ちる心配はない。
だからこそ登校が自由な期間にこそ集まり、本来は受験を頑張っている葵を励ます日になっていたはずだった。

「こわいの…もう…全部おち、ちゃうんじゃって、…っ思っ、て!」

教室に入ってきてレギュラー陣たちを見た瞬間、顔を歪ませ床にへたり込んで突然泣き始めた葵。それに驚くしかなく、悲しい悲痛な声を聞いていた。
そんな中、部長であった幸村が1人、葵に近づいた。視線を並べるように床に膝を着け、涙の流れる葵の頬を包んだ。


「看護師になりたいんだろ?」
「…ッん、」
「ならどんな事も…辛くても悲しくても、乗り越える強さを持たなきゃだめだよ」
「ッでも、も…あた、し、…いや…」

頬にある幸村の手をつかみながら、再び涙が流れる。

「…だから一緒にエスカレーターにすりゃいいっていったろい」
「ブン太っ!」
「…だってよお」
「でも、葵がこうなるかもしれんってことは、俺たちわかってたじゃろ」


それを受け止めてやらんと。


もし葵が、受からなかったら

それは確かに予測でたてていた。
一度躓いてしまったら、再び前を向いて歩き出すのには切り替えが早くできないのはわかっていた。中学高校と六年間、マネージャーとしてみていて分かっていたこと。引きずって、そのまま同じ結果が続く。そして精神的に崩れて自分を信じられなくなってしまう。
でも、そうならなければいい…そんな最悪の結果にならず、希望する大学へ進んで明るい笑顔を見せてくれることを望んでいた。


「精ちゃんが、入院して…看護師になりたいって、ほんとに思ったの…。でも、私、もうこんな辛い思い、したく、ないの…!諦めたく、ない…けど、辛いのも、ヤ…っ
何ヶ月も、受験、期間が続いて、…も、壊れ、ちゃうよお…」


中学の大会であんなに強く応援してくれて、高校でも変わらずに支えてくれていたマネージャー。泣いたときもあったけれど、笑顔で辛いときも励ましていたあの葵が、


「…っしに、たい」


こんなにも、崩れてしまった。





手を伸ばしてみても


(死んじゃだめだ、葵)(君は強く、生きるんだよ)
(だから、)



―――――――――――
受験つらい。という私の状況(笑)
しにたいと何度思ったか。
真田とか空気ですすみません。

2011.
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