庭球 | ナノ




「ふあ〜あ」


アクビがでてしまう。いつもなら朝のHRがはじまる5分から10分前に教室に行くのに、今日は全然早い7時50分についてしまった。
数分でも寝ていたいと思う私は、校門から部室に行くまでに5回もアクビをしてしまった。少しの早起きでもつらい。うあー、早起きは三文の得とか言いだしたの誰ですか。早起きしても授業中寝て怒られるだけだよ、得なんてないし。


「おはよう、藍沢さん」

ふああ…と6回目のアクビをしたところ、後ろから声をかけられる。

「あ、おはよう幸村くん」
「随分と大きな欠伸だったね。6回目くらい?」
「え…いや、あはははは!」
「ふふ。もうすぐ錦先輩もくるから、中で待ってようか」
「う、うん」

何でアクビの回数わかったんだ。もしや見てた?いや幸村くんユニフォームだしそれはない。てかそんなことしたら犯罪ですから。なにかこの人には特別な能力があるのだろうか。ちょ、どうしよう2人とかヤバいんじゃないかどうしよう呪われたり

「お、マネージャーはやいね」
「あ、えっと、おはようございます錦先輩」
「おはよう、朝早くに悪いね」
「い、いえ!」
「その割に欠伸してたけどね」
「ゆ、幸村くんっ!」

…絶対なにかやらかしたらこの人に呪われる気がする。死にはしないだろうけど、確実になにか起きそうだ。

「ハハッ まあ平気だって。幸村もそんなに言葉攻めすんなよ」
「してるつもりはないんですけどね」
「お前の言葉の威圧感ハンパねえからな」
「褒め言葉としておきます」
「おう、そうしてくれ」

何だろう。こんなにも自然に幸村くんと会話をする錦先輩が偉大に見えた。部長はやっぱり偉大だ凄い!とか2人を見ていた私が今度はターゲットになる。

「でさ、マネージャーの仕事なんだけど」
「あ、はい」

やっと本題がでましたかと思っていると、幸村くんもそう思っていたらしい。でもなんだか錦先輩を憎めなさそうで。それはなんとなくわかるような気がした。


「主な仕事はドリンク作りとタオル配り。これはレギュラー準レギュラーだけでいいから」
「あ、ドリンクの調節とかはどうしたら…」
「それは柳に聞いたらいいよ。教えてくれる、だろ?」

そう言って幸村くんは私たちのいるのとは全く逆の部室の扉を向いていた。ガチャリ、音を立てて開いた扉の向こうには柳くんが。

「…精市にはバレバレか」
「うん。ちなみに錦先輩も気づいてるよ」
「おう。柳はいると思った。マネージャーが心配だろうからな」
「えっ」

幸村くんも錦先輩も何故柳くんが扉の向こうにいたのがわかったのか不思議だったけれど、マネージャーが心配ってことは私が心配だったってこと…?

「…柳だ」
「あ、それは昨日教えていただいたので」
「柳は他人のデータをとるのが趣味でね、部員の好みのドリンクも知ってるから」
「え゙…それ、いいんですか」
「なにが?」
「プライバシー的に?」
「悪用はしない、平気だ」
「そ、そう…ですか」
「ちなみに藍沢のデータもある」
「え」
「心配するな。悪用はしないといっただろう」
「…信じておきます」

じゃあドリンクの調整は柳に教えてもらうことにして。そう話を続ける錦先輩。それから自然に私の隣に立つ柳くん。幸村くんも並んで私の隣に立ってるし、…あれ、なんで私、2人に挟まれてんの?そんなことも気にせず錦先輩は話を続けている。

「あと怪我人と声掛けは全体で頼むね」
「声掛け…?」
「『ファイトー』とか何でもいいよ。試合やってて気付いたこととか言ってもらってもいいし」
「そ、そんな偉そうなことできません!」
「うん、ま、何でもいいんだ。フリーダムでよろしく」


フリーダム、と言われても…マネージャーと言うものが初めてだから困るわけだ。何をやればいいのだろうか。

錦先輩と幸村くん、柳くんはそれだけ言うと朝練へ戻っていった。そりゃそうだ、朝練もっとやりたかっただろう。でも朝練を中断して私にマネージャーの仕事について(簡単すぎるほどに)教えに来てくれたんだから、私もそれに応えなければならないな。

…しかし先に、友達にはどう説明したらいいのだろうか。
今更ながらその問題が頭に浮かんだ。



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書き終わり:11.02.26.
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