「勉強は進んでる?」
「うっ……」


休日の夜、賑わうファミリーレストランの一角。私服姿で二人、向かい合わせに座っていた。森山は返事の言葉に詰まりながらドリンクバーの紅茶を喉へ通す。香代も同じくドリンクバーのラテを口へ含んだ。
視線を反らした森山を睨むように自然と視線を狭める。はっと香代の視線に気が付いた森山は、違う違う、と手を左右に振りながら口を開いた。

「いや、進んでる!進んでるんだけども!」
「…どうして今日、デートに行かなかったか分かってるよね?」
「俺の受験が間近だから」
「正解」

バレンタイン前日であり、誕生日でもある今日、2月13日。高校三年生である二人にとって受験真っ只中なこの時期。実際のところ香代は推薦受験により既に大学は決まっていたため受験ではないのだが、彼氏である森山がまさに受験の最中であった。
その為に香代は誕生日デート、バレンタインデートをすることはよろしくないと判断した。が、流石に何もないのはかわいそうだと感じ、また受験勉強で詰め詰めの生活に気分転換をとの思いから、せめて夕飯は一緒に食べようと誘ったのが現在である。


「気分転換にならなかった?」
「そんなことないだろう!むしろ会ってくれないと思ってた」

会わないって、そこまで酷いことをすると思っているのか。と言ってもデートをしないと言った時の彼の反応を思い出せばそうだろう。この世の終わりとでもいう様な、絶望的な表情をしていたことが容易に思い出せた。
一緒にご飯を食べていることもデートになる気がするが、そこは横に置いておいて。今日は本当にご飯を食べて終わりである。現地集合、現地解散。

「誕生日プレゼントはないけど」
「けど!?」
「そんなに嬉しそうな顔しないでよ…バレンタインならある」

誕生日プレゼントでもよかったが、それはもっと彼が余裕のある時の方がいいのではないかと思いやめておいた。だがバレンタインはチョコを渡すだけだしいいかなと思い、香代はこっそり用意しておいたのだ。
少し大きめのバッグから綺麗にラッピングされた、有名店のチョコを取り出す。彼に向かってどうぞ、と差し出せばそっと持ち上げて店名のシールを確認された。

「買ったの?」
「手作りかと思ったの?」
「だって去年は作ってくれただろ」
「今年は受験前だし、手作りだと衛生的な面を考えて却下しました」
「そっか」

少し残念そうな表情で受け取る森山。確かに去年は手作りを渡したが、今年は手作りは警戒しておいた。この大事な時期、もし万が一でも手作りのチョコレートやお菓子を渡して体調を崩したとしたら責任を取りきれない。そういった可能性も、ないこともないのだ。
勿論、香代だって手作りのお菓子を渡したかった。それでも彼氏である森山の、安全性を最優先した結果だった。
それを察知したのだろう、残念そうな表情をした森山も、じっとラッピングされた箱をじっとみつめると次第に口元が緩んでいくのが分かる。「ありがとう」と面と向かって言われ、香代は気恥ずかしくなりそっと目線を反らした。

「誕生日プレゼントは、受験が終わった後のデートでね」
「ああ!」

そっけない返事だったにも関わらず、森山は嬉しそうに返事をした。彼の彼女が恥ずかしがっていることを理解しているからこその反応だ。そしてバレンタインを貰った嬉しさと、受験終了後のデートの確約がされたという安心感が更にそう思わせるのだろう。


「早速食べてもいい?」
「ファミレスなんだけど。配慮しなよ」
「いいじゃないか、食べたい」
「家帰ってからにしなって」

ラッピングをまさに外そうとテープを取り始める森山に、香代は手を出して止めさせた。そもそもファミレスで食べ物を出していることも後ろめたいのに、更に食べだすとは何事か。ファミレスだから渡すのくらいのものなら見逃してもらっているようなものの、食べるのはまた話が別だ。
そのことに気が付いているのかいないのか、彼は何がいけないんだと言わんばかりの表情で、手を止めさせた香代を見た。

「だって家に来ないだろ?」
「は?」

彼の返事に、そう言わずにはいられなかった。
いや、ちょっとまって、何がどうなってそうなった?何処から「家」というワードが…いや開けるのは家の方がいいとは言ったけど。

「家に来てあーんしてくれるか?」
「ばっ 何言ってんの!」

つまり森山は「あーん」で香代にこのチョコレートを食べさせてもらいたい、ということを言っていて。そして香代の言ったように家で開封するのならば家に来てくれるのか?ということを示していた。現地集合現地解散である今日はそんなことをするわけなく。


「ほら、だから。あーんしてよ」


ね?と穏やかな表情でラッピングを開け始めた森山に、もう言葉を返すことが出来なかった。もうここがファミレスだとか近い隣に他人がいるとか、もうどうでもよかった。
開封された、自分で吟味して購入したチョコレートたちが差し出される。何種類かあるチョコに、どれがいいのか聞き、長く整った指でさされたトリュフチョコを指で掬う。そうして持ったチョコレートを整った分厚すぎない唇にチョコレートを近づける。ああ、自分の指の温度で溶けてしまいそう。

「ハッピーバレンタイン」
「…誕生日は」
「誕生日もおめでとう。…あーん」

唇から白い歯が見え、赤い舌が伸びてくる。指で溶け始めたチョコレートは彼の舌の上に乗り、口の中へと消えて行った。
役割を終えた指はそっと口から遠ざかる……と思った一瞬の隙。彼の腕ががっしりと彼女の手首を掴み、溶けたチョコレートのついた指先へ舌が絡みつく。

「あ、こらっ」
「ご馳走様」

最後はちゅっと音を立てて離れていって。トリュフチョコは溶けた部分まで、おいしく彼に頂かれていった。


指先に接吻



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森山由孝HappyBirthday!
16.02.13.
タイトル→レイラの初恋
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