昼休み。各々で昼食をとり午後の憂鬱な授業に向けて自由に過ごせる時間。ほとんどの生徒が昼食を食べ終わりお菓子を食べたり、ゲームをしたり、運動部は机に突っ伏して寝ていたりと本当に自由に過ごしている。大変そうだなあと思いながらその光景を見るのは日常的になっていた。
いつも通り友人と昼食を食べて午後の授業の準備と課題の確認をするために席を立つ。少し騒いでいる男子を横目にロッカーから教科書を取り出して戻れば、もう既に手元の雑誌を見て大人しくしている男子たちがいた。君たちの行動は女心と秋の空のように変わり移ろいゆくものなのか。


「香代」


振り返るとセーターをだぼっと着こなした高身長も高身長の、学校の中でも十分とびぬけた身長を持つ彼氏である劉くんが立っていた。
クラスは同じだし休み時間にはよく話す方だ。しかしこうして友人といるときに話しかけてくるのは稀。何か困りごとだろうかと、背の高い彼を見上げながら教科書を胸に抱えて首をかしげる。

「劉くん、どうしたの」
「ん」

振り返った私に腕を広げる劉くん。何をして何を求められているのか分からなかった私は広げられた腕を見て、もう一度劉くんを仰ぎ見る。首を傾げるまでを繰り返し、目をぱちくりさせて無言で見つめた。
何も行動を起こさない私に気が付いたのか、劉くんは一歩前に足を踏み出し近づいた。


「どうした?寒いなら飛び込んでくるアル」
「い、いやいやいやいや」


どうした?と問いたいのは私の方だ。どうしていきなりそんな話になったのかな!?確かに今は夏とは真逆の時期だし勿論寒い。暖房が入っている教室内でも廊下は到底寒いし外に出ればもっと寒い。制服特有の露出した足が冷たくなるのも日常茶飯事の出来事だしむしろ冬の醍醐味と言うか女子高生の宿命というものか。

とにかく寒いのだ。そう、寒い。それは認める。けれどそれがどうしてこう彼氏の腕の中に飛び込んでいくという結論になるのか。言っておくがここは教室内だ。一応私と劉くんが付き合っていることは知られているものの恥ずかしい以外の感情は持てない。外で人目の付かないところならまだ考えたかもしれないけれど、教室内だ。何度でも言おう、教室内に私たちはいる。何より他人に見せるほどカップルの行動を曝け出すつもりはない。
劉くんはショックを受けるかもしれないけれど、丁重にお断りしようと手を前に出したところでその行動は劉くんの声によって遮られる。


「? 寒くて誰かに抱きしめられたい、って言ってたのは香代アル」
「そ、」

それ友達と話してた内容…!ちゃっかり聞いてる辺り劉くんだね!!
まさかふとした友人との会話を聞かれているとは思ってもみなかった私は頭を抱える。まさか、本当、まさか、聞かれてるなんて。確かに言ったけども、寒くてどうしようもなくて温めてもらいたくて言いましたけども。そして全く見知らぬ人に抱きしめられるより劉くんがいいけれども!

「他の誰かに抱きしめられてるのは嫌アル。だからワタシが抱きしめて…」
「ちょおおお!」

そういう!ことを!クラスメートの前で!易々と言わない!!
劉くんは私を抱きしめる気満々でいるし、私は勿論劉くんにしてもらいたいというお互いの利害は一致しているわけだから本来は別にいいのだ。けれどクラスにいる多くのクラスメートの前で「私も劉くんにしてもらいたいよ」なんて死んでも言えるはずがない。そしてその腕の中に飛び込んでいくなんてこと出来るはずがない。いや、飛び込みたいけど恥ずかしさをこらえて出来るかと言われれば、「No.」だ。



「ほら、おいで」


ず、るい。いつもの語尾がなくて、そんな柔らかい声で、そんな。
でもやっぱり身長が高い彼に迫られるのが怖くて後ずさる。それを追いかけるように彼も私に迫ってくる。
いつの間にか生徒は教室の端に避難するという名目で私たちのやりとりを見ている。中には携帯で撮影してるやつもいる。ちょっとやめろ。

ガタン、ずれて置かれていた椅子に足を引っ掛けたことで後ずさりが止まる。けれど彼が私に迫るのは止まることなく、気付けば目の前に彼がいた。


「香代」


そうして上から包み込まれるように抱きしめられる。目の前のカーデガンからは彼の匂いがして、暖かいと感じるよりむしろ熱くて。




この心臓が溶けだした





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氷室辰也はこの光景をばっちり携帯で撮ってます。
15.03.03.
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