北一ミニ同窓会2





集まって店に入るまでは影山のことをウゲェといった目で見ていた金田一と国見の二人も今は注文した料理の方に目が行ってしまっているらしい。
予約していたこの店は個室性で、周りと仕切りによって区切られているから身内感が少なくとも増しているのだろう。余計に影山を邪険にするかと思ったが、中学で部活を一緒にしてきた仲だからあまり気にしないらしい。…というのは希の考えであり、正確には思っている以上に金田一と国見が目の前の食事の方を優先しているだけである。影山は影山で居心地が悪そうであるが、今は食事に気を取られている金田一と国見に少しほっとしているようだ。


「はい、かんぱーい」


高い音を立ててグラスが鳴る。最初は皆ビールを頼み、あとは適当に頼んで運ばれている料理を摘まんでいく予定だ。乾杯し喉を潤せば自然とため息が出てくる。勿論いい意味での、だ。
希の隣には金田一。目の前は影山でその隣に国見という席順で座っている。こうして4人で食事をするとは思ってもみなかったが、食事を摘まみだせばそんなことも忘れ、ついでに気まずさ何かも取り払われているらしい。目の前で軟骨のから揚げを無言で取り合う国見と影山を見て希は少し安心した。



「つーかお前ら本当に付き合ってたのか」
「嘘言ってどうすんの」
「いやだってお前らそこまで仲良くなかっただろ」

中学の頃はねー、と希は軟骨のから揚げを摘まんで口に運んだ。アルコールを飲みながら影山が興味ありげに聞いてくる。恋愛ごとなんて普段興味ないくせに、知り合いだから気になるのだろうか。
ちなみに昨日SNSで金田一と付き合っているということを話しても影山は信じていなかった。仲良さ気に話していたことと、自然と隣に座っていることから漸く信じたというところだろう。


「俺さ、高校のときずっと疑問に思ってたんだけど」
「なあに、国見ちゃん」
「その呼び方やめろ柏木に言われたくない」

というより高校時代の先輩であり主将であった及川徹を思い出すからだろう。勿論、国見が及川を嫌いというわけではなく、及川独特の呼び方であることと、単に希から「ちゃん」付けされることが気持ち悪いからだ。
話をそらすなよ、と眉間にしわを寄せて言う国見に軽くごめんと言って続きを促す。ため息を吐きながら手に持ったグラスのビールを一飲みして口を開いた。

「お前ら確かに中学の時そこまで仲良くなかっただろ。なのに高校入って普通にしゃべるようになってたし、いつの間にか」
「そうだねー」
「そんでいきなり付き合い始めてただろ。何かあったの」


“何かあった”


「………」
「………」

国見の言葉に希と金田一は手にしていた箸とビールグラスをもとうとしていた手を止めた。影山と金田一は見ていなかったが、希と金田一は横目でお互いを見てコンタクトを取り合う。

「正直、金田一が柏木を攻略するのは難しいと思ってた」
「つーか俺の方が仲良かっただろ」
「影山より俺の方が仲良かっただろ」

勝手に話を進めて勝手にどちらが仲が良かったと睨み合っている影山と国見。アルコールが回っているからだろうか。国見は普段より口数が多く、しかも影山と面と向かって睨み合うなんて思いもしなかった。
睨み合うだけ睨み合い、特に口げんかするようなこともなく再び料理に手を出し始める二人。何だか分かんないなあ、と思いながら、希は未だに手を止めている金田一を見やる。


「…私は別に言ってもいいけど」
「…あー、おお」

こそこそと話しているのが見えたのか、国見がグラスを傾けながら顎で金田一に話を催促した。
勿体ぶってないで早く言えよ。口にはしていないが、長年の付き合いで言いたいことは分かる。

普通の馴れ初めであるのならばそこまで勿体ぶらずに言えるのであろうが、これは普通だろうか?と疑問視する。お互いに“普通”ではないと思っているからこそ、一番近くにいた国見にですら今まで言ってこなかったのだから。この話題はたとえ希であっても軽々と言い出せるものではなかった。
しかしここは男・金田一勇太郎。テーブルの下で前の二人に見えないように希の手を握り、話し出すのを待つ二人に向かって口を開いた。


「中学の卒業式の何日か前にさ、告って」
「うん」
「んで、その………襲った」
「…は?」
「告って勢いで、了承なしに襲った」
「なにそれ強姦?え?お前強姦したの?」

引くわーと国見が顔をしかめる。影山も目の前のカップルの衝撃の告白に口をあけ目を見開いていた。
二人の視線が気まずいのか、希は目を合わせないように目線を下へとずらし、グラスのアルコールを口に含む。

「で、柏木は強姦した相手と付き合ってんの?」
「うん…」
「そこは否定しろよ」
「仕方ないじゃん、コイツのこと頭から離れなかったんだもん」

実際には希は「告白されてその勢いで襲われた」というより「襲いに来たついでに告白してきた」という印象を抱いていたのだが、金田一にとってみたら「告白した勢いでお襲った」らしい。そこら辺の食い違いはこの際置いておくが。
思い出すのは中学の数学教材室での二人。突然の訪問者と、後ろの棚にぶつかるまで追い詰められて何をされるか最初は分からず混乱した自分。制服に手を掛けられた時に「ああ、これは」と何をされるか分かったしまった。けれど驚きの方が大きくて派手な抵抗も出来ぬまま、誰にも見つからないよう声を上げないように必死にした唇をかんでいた。

「勿論ゴーカンされたっていうので怒るのもそうだけど、それだけじゃなくて手つきとか若干ぎこちなかったとか、すっごい焦ってたとか、あとヘタクソだったとか、でもチューが優しかったとか、いろいろ頭から離れなかったんだよ」

必死な中にも戸惑いが見える手つき。でも止められなくて続けていく一方的な行為。
今でこそその行為が当たり前になっている関係だけれど、やはりその当時、衝撃的であったことには間違いない。ただ当時思ったことはずっと心に残っているだけで、思い出そうとしても映像としての記憶は正直なところ薄れてきている。

馴れ初めというなのあまり人に言いたくない出来事を話せというから話したのに、目の前の二人からは何のコメントもない。何かしらの反応をしてくれればいいのに、ただぽかんと手にグラスを持ったまま希を見ていた。


「…ねえ、聞いてきたのにそういう反応やめてくれない?」
「いや、意外とかわいいこと言うんだな、柏木」

驚いたものの、国見はそこまでダメージがなかったのかゆっくりと出されている料理に再び手を付け始める。一方影山は国見よりは今の話をかみ砕くことが出来なかったのか、目をぱちくりしたまま双方を見やっていた。落ち着けよ、と国見に背中を叩かれれば混乱していた頭から何かが抜けたのか、影山は短く「ああ」と返事をして反応を示す。
続けて国見がアルコールを口に含み、茶化すように言った。


「で?そのときヘタクソだった勇太郎クンは今どうなわけ?」
「えー、まあいいんじゃん。私はきもちいーよ」

高校卒業して2年、付き合って約5年。不満なところがないわけではないし、喧嘩をしないわけでもない。他との経験がないから何とも言えないが、性関係においても大きな不満というものはない。
そりゃ最初のころは達することすら少なかったものの、今ではお互い気持ちよくなっていると思っている。数を熟(こな)していけば互いのイイ場所も分かってくるし、どうすればよくなるのかだって知っていける。金田一も希も行為を重ねていったことでよりよいものになるようにしていった。

「だってさ」
「…うるせーよ」
「でもそれ世間一般でいうヘタクソかもしんねーだろ」
「影山ウルセェ!!!」
「いいじゃん、別に。世間一般、他の女が気持ち良くても私が気持ちよくなけりゃ意味ないし」

ぎゃいのぎゃいの下世話な話で男子どもが盛り上がろうとした瞬間に投下された冷静な意見。というのも男三人と比べて冷静なだけであって、希自身とても冷静といえる心境ではなかった。自分の性関係の話をして恥ずかしいわけがなく、見るにわかりやすく顔を赤くしてアルコールを煽っていた。
珍しい彼女の姿に国見と影山は顔を合わせる。続けて隣に座る彼氏の金田一を見た。


「……ねえ、なんなの。柏木ってあんなかわいいこという奴だった?」
「…しらねーよ、いつもこんなだろ」
「それは金田一の前だからだろ」
「影山の言うとおり。ってやっぱお前照れてんじゃん気持ち悪!」
「あーもう!酒飲んでるからだ!」


希と同じく顔を赤くした金田一は手元のグラスを飲み乾して必死で誤魔化す。国見は口では悪態を吐くものの、本心では変わらず上手くいっている二人のことをみて安心していた。下世話な話になったものの、高校時代から途切れることなく続く友人たちに嬉しく思っている。隣に座る影山のことは、未だ許したわけではないものの中学時代があったからかそれとなく接することは出来るし居心地も悪いわけではない。そのことは金田一も同じことを考えていた。
今までは青城出身の三人で酒を飲み交わすことが多々あったが、これからは影山も入れた四人で飲むことが増えていくだろうか。だがそれもいい。北川第一中学校出身同士、高校時代の因縁や部活の話題に花を咲かせていくこともいいのかもしれない。たまには色のある話題もちらつかせて。

まだ始まったばかりの少数人での同窓会。アルコールで気分を浮つかせながら、あと数時間。



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15.05.14.
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