きみとぼくの、変わった関係





「部活終わったらうちでご飯食べれば」


昼休み、ここ最近恒例となりつつある教科書を貸した後。何後もないかのように言い放ったその言葉に俺はどれだけ驚いただろうか。彼女からの誘いに言葉が詰まる。行きたいのは山々なのだがそれって家族に会うということだろう。部活帰りの俺が行っていいのか、っつーかそもそもそんな遅い時間に行っていいものなのか。
と考えだして黙った俺の答えを聞かず、「じゃ、部活終わったら連絡頂戴。図書室で勉強してるから」と言ってさっさと教室に戻ってしまった。勝手に行くことにされた俺はぱにくってたが国見に「とりあえず落ち着け」と塩キャラメルをもらった。国見が好物をくれるなんて貴重だったので有り難く貰っておいた。

そんな彼女の誘いを断れず、結局部活が終わって連絡をし、二人で帰路を歩く。到着した彼女の家に入れば、家族がいない…だと。



「共働きで二人とも家帰ってくるのバラバラ。今日はどっちも外に泊まるって」
「は、はあ!?」
「じゃなきゃ家に呼ばないって」


おいおいそこに彼氏連れてきていいのかよ、なんて思いながらエナメルを置く。適当にテレビ見てていいよ、と言われたのでテレビをつければバラエティが映る。他にいい番組がなかったのでバラエティをつけてみていた。希はというとキッチンに立って晩飯を作ってくれるらしい。
初めての彼女で初めての彼女の家で初めての彼女の手作りごはんかよ。しかも親いないって、なんだよこれ、試されてんのか。
そんなことを思いつつ、バラエティもなんかだつまらなく思えてきて、キッチンの希を盗み見る。こちらが見ていることには気が付いていないらしい。トントンと包丁の音が聞こえた後、フライパンで炒める姿。あーこれ、結婚したらこんな感じなのか。晩飯ン時に俺がこっちでテレビ見て寛いでる間に希が飯を作って、んで飯作ってる後姿を見て…って何考えてんだ。意味わかんねーよ!まだ付き合ったばっかりだっつーの!

頭を抱えながら言葉にできない思いを巡らせていると、後ろから希に「ご飯できたけど」と声を掛けられる。出来立ての飯を前にして座り、緊張しながらいただきますといって箸をつけた。
初めての彼女の飯はうまかった。マジで。


飯を食い終わった後、食器の片づけを手伝って二人でテレビを見る。すぐ横に座る希に心臓がすっげー鳴ってるのが分かる。ここまで近い距離で座ったことなんかめったにないからだろうけど、なんか、うわ、こいつ彼女なのか、やべえって本気で思った。
なんて考えてるとは思ってもない希が唐突に立ち上がった。何をするのかと思っていれば、


「ちょっとシャワーしてくる」

やめろよ、お前、彼氏の前だってわかってんのかよ。フツーしねえよ。あほか。
何も返事が出来ずにスタスタとシャワーを浴びに行ってしまった彼女に、俺は再び頭を抱える。ちょっとまって。帰ってくるまでにとりあえず落ち着け、俺。





「はーっ 勇太郎も入る?」
「…親に友達んちで飯食うって言っただけだから」
「へえ。彼女、じゃないんだ」
「っ彼女なら!お前!その格好どうにかしろよ!」


シャワーから出てきた希は長めのTシャツにジャージを着ていた。しかしシャツがぶかぶかで胸元の肌が見えている。
馬鹿じゃねーのか!あほ!彼女じゃなかったらぶん殴ってる!!と金田一が色々と言いたそうに耐えながら顔を赤くしている様子を見て希はニヤリと微笑んだ。

「何、セックスしてる仲なのにそんなこと気にするの」
「なっ お、そ、れは!」
「あーはいはい、付き合う前の話でしたねー」

ごめんごめん。と軽くからかう様な口調で言う希に金田一はうまく言葉が紡げない。ソファに座り、距離を詰める。シャワーを浴びた希からはシャンプーかボディソープか、フローラルの香りが金田一の鼻を掠めた。
固まる金田一の腕を取って絡める。ぐっと近づく距離と、香りと、伝わる熱に金田一は口を動かすだけでうまく言葉が紡げない。


「そうだよね、付き合う前に強姦紛いのことしたくせにね。勇太郎くんは初心ですねー」

腕を引き、顔を近づける。目を細め、腕を抱きかかえるようにしてくっつく希に金田一は何も言い返せない。…否、口をまっすぐに噤んで言い返さなかった。

「…なんか言ったら」
「……事実だろ」
「…挑発してるんだけど」

絡めていた腕を一本外し、希の手が滑るように金田一の頬へと添えられる。腰を浮かせて顔を近づければ自然と重なる互いの唇。希からの一方的で押し付けるようなそれに金田一は動けなかった。だって彼女からキスをするなんて思っても見ない。キス自体なかなかしないのに彼女からしてくれるだなんて誰が思うだろうか。
重ねた唇の柔らかさと触れた体の熱さが時差を起こして脳に伝わる。そっと離れる唇と熱と体温に髄が震える。


「……なかったことにはしない。でも、初めからゆっくり、経験してこ」


いろいろすっ飛ばしたけど、そのすっ飛ばしたところをゆっくりと。
絡めた腕の先、掌を撫でてぎゅっと掴む。そうすれば自然と金田一から握りしめられ、指と指を絡めるものへと変化して。先ほど頬に触れていた手は彼の膝の上。金田一の方へと体重を掛けながら身体を預け、覗き込むようにして見つめあう。


「勇太郎、すき」
「…あーもう、本当、やめろ」
「煽るのたのしいね!」
「くっ……希、くっつくな」
「すればいいよ、ちゅー」

細められた目は確実に金田一を挑発していて、緩く微笑むその唇に向かって顔を落としていく。乗ってやろうじゃないかと口にはしない。けれど確実に応える。
重なった唇はそれだけでは終わらず次第に啄むものへと変わっていく。結ばれていない手で希の後頭部を優しく支えながら唇を絡めて。舌はまだ絡めずに、たがいの息と唇を食べるように求め合う。膝に置かれていた希の手はいつの間にか金田一の胸元へ置かれており、首筋をそっと伝いしがみ付いた。


「……すきだ」


希、
掠れた声が耳に届いた後、ねっとり深い口づけが待っていた。それに応えるように希は結んでいた手を離し、両手を彼の首へと回した。





恋する炭酸水 Fin.

――――――――
ただの炭酸水って甘くなくてしゅわしゅわするだけですが、そんな感じに甘さもあまりなく、しゅわしゅわが苦しみになってその苦しみは実は恋で、っていう主ちゃんの想いがなんとなく感じ取れていただければ幸いです。
タイトルからは程遠く単調な話だったかもしれません!でも!二人が!無事くっついたんでよしとします!!!

14.06.22.
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