海賊 | ナノ

つまづいて、転んで、



ドジばかりだけど、私が頑張りたいって思うのはここでだけ。
ここに、見てほしい人がいるから。



「うわっ」
「きゃっ」


どーん。そんな音が狭いフロアに鈍く響いた。

「す、すみません!…ぁ、」


入社3年目のティナーはドジというか小さなミスが多い。そしてそそっかしい。それをドジというのだろうが、本人は否定するのでそそっかしいとする。
3年目にも関わらず上司のローに怒られる姿がよく目撃され、社内では有名人。小さい会社だからよいものを、大きい会社なら十分な落ちこぼれである。しかしそれがないのはローや周りの先輩がうまくフォローや彼女の才能を出しているからだ。

そして今、大量の資料を持ちながら歩いていたところ、前からきた人物にぶつかってしまったのが冒頭。謝る機会が多いからか、すみませんの言葉は嫌でもすぐに口からでてしまう。ああ、こんな自分イヤだ。そう思いながらぶつかったであろう目の前の人物を見れば、一気に顔が青ざめる。


「ぺ、ぺぺぺペンギンさん!」

ぶつかったであろう相手は紛れもなくペンギン。黒の短髪がさらりと顔にかかる。尻餅をついたらしく、小さく尻をさすっていた。

「…ってぇ、」
「すすすすすみません!大丈夫ですか?お尻ついただけですか?足捻ったりとか!」
「ティナーか…お前、またか」
「ゔ…」

呆れたような表情をされ、ぐっと心が痛む。
ペンギンは上司のローに続き、人気がある男性。かっこつけもせず、優しく振る舞ってくれるし仕事もできる。憧れる女性は取引先の会社でもいるらしい(ローなどの方が熱狂的だが)。もちろんティナーもその一人。頑張って仕事をするがそれでもうまく行かず、ペンギン相手にドジをしてしまった。

「俺は倒れただけで大丈夫だ。それよりお前のが大変だろ?」
「え?」

ペラペラ。床から拾い上げた紙をひらひらとティナーの前で振るペンギン。その紙は紛れもなく、今さっきペンギンにぶつかるまでに運んでいた資料で…


「あああああ!」

周りを見れば見事無惨にばらまかれた資料たち。これからホッチキスで留める作業だったため、順番通りにまとめられていたものが悲惨な状態に。

「またかティナー!」
「ローさんごめんなさああいいいい!」

ぶつかる瞬間から見ていたのか、遠くからローの怒鳴り声が降りかかる。
常にこうだ。ローに呆れられるが見捨てられることはない。そこに甘えているといわれれば言い返せないが、それでも他に行く場所もないし行きたくない。意地であり、ここにいることが誇りであるからで、此処にいてもいいという安心感もある。
ペンギンさんがいるから、というのも理由にしていいのなら、それも。


「立てるか?」

いつの間にか立っていたペンギンさんに手を差し出される。その手に答えるように自分の手を差しだし、立たせてもらう。ペンギンさんは拾ってくれたらしい資料何十枚かを持ち、なにやら睨めっこをし始める。

「ペンギンさん…?」
「これ、明日までの資料か?」
「あ、はい。会議で使うから、と」
「そうか、わかった」

持っていた資料を私に渡し、ぽん、と頭に手をおかれる。突然そんな、ペンギンさんの手が私のあたまに、え!パニックな私につゆ知らず、ペンギンさんはいつもの優しい笑顔で私に向いていた。


「終わりそうになかったら言えよ。手伝うからな」


ふっと笑った顔に、キュンとときめく。こんな爽やかに優しく笑う男性(ひと)、絶対にいない。



つまづいて、転んで、
(それでもまた立ち上がれるのは、)(…いつかあなたに見てほしいから)



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お仕事がお忙しい方に、という企画(笑)
タイトル→クスクスさま

2011.07.18.
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