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愛情いっぱい愛妻弁当

「ちらりずむ」様に参加させていただきました。
テーマは「お弁当」!






朝、隣にあたたかい温もりが無く、目が覚めた。隣で寝ているはずの妻がいない。時計を見ればもう7時をさそうとしていた。
眠たい目のままキッチンを覗けば、ティナーが背を向けて朝食を作っている。漂ってくる匂いに目が覚めた。

「あ、おはよう!マルコ」

視線に気づいたのか、見つめていただけの俺に振り向いたティナー。

「ああ、おはよう」

ティナーはニコリと笑い、止めていた手を再び動かす。必然的に俺からは背中しか見えない。
気配に気づいてはくれたが、「おはよう」と言っただけで背を向けてしまう。その事になんだかムッとしてしまった。欲張りなのは自分でもわかる。けれど、自分をもっとみて欲しくて。

「何作ってんだ?」
「炒め物だよ」

トントントン、とリズムよく包丁を扱うティナーに近づく。先ほどより料理の匂いが強くなる。必要なものはそろったのか、普通のよりも小さなフライパンで炒め始めるティナー。
その光景をずっと見ていた。

「ちょっと、なあに?ずっと見てて」
「俺の弁当にどんな愛情を注いでんのか見てたんだよい」
「愛情なんて見えないでしょ」
「見えねぇけど」

フライパンを火から下ろして盛りつけをする。盛りつけた後に次の作業へ入ろうとしたが、ふと手が止まる。

「いけない、お味噌汁っ」

火にかけていたのを忘れていたのか、急いで駆け寄る。が、なんとか間に合ったのか吹き出してはおらず、安堵の様子を示した。お豆腐お豆腐、と冷蔵庫から取り出しておいた豆腐を切り、味噌汁の中へいれた。もう少し火にかけるのでその間にとまた弁当の作業へと移る。
朝食と並行して弁当を作っている姿を改めて見て、申し訳の無いような、でもそれが嬉しいような変な感情が浮かぶ。いそいそと朝食、弁当、朝食と作業を転換するティナーの姿を見、一歩を踏み出す。味噌汁が出来、弁当へ向かって盛りつけをするティナーに、後ろから腕を回して抱きついた。

「うわっ なに、どうしたの」
「…いや、何でもねぇ」
「もう、何でもなかったら離れて。動きにくいから」

早く朝ご飯食べたいでしょ、と付け加えて、そんなに動きづらいのか、肘をわざとらしくゴスゴス俺の腹部にぶつけてくる。

「痛ェよい」
「痛くしてるの」
「まあ…何てーんだ」
「んー?なあに」
「いつも、ありがとな」
「…うん」

俺の言葉に一瞬手を止める。いきなりのことだったので驚いたのか、返事をした後にはすぐ手を動かし出した。しかし先ほどとは違い、俺の腹部への攻撃はない。


「ま、これが私の仕事ですからね」


ふふ、と笑う。後ろから抱きしめていてもわかる、ティナーの笑顔。今、顔をほんのりと赤くさせて笑っている。
機嫌がよくなったのか、腹部への攻撃と同様に抱きついていても文句を言わない。

「ねぇ。冷蔵庫から青いタッパーとってくれない」

文句を言わない代わりに、ちょっとした注文が入る。ティナーに巻き付けていた腕をはずし、すぐ後ろにある冷蔵庫へと手を伸ばして目的の青いタッパーをとる。もしかして、巻き付けていた腕を取るのに注文を出したのではなかろうか。

「ほらよい」
「ん、ありがと」

再びティナーに抱きつけば「もう、」と言うだけで後は何も言わなかった。
息をすれば美味しそうな朝食と弁当、それにティナーの香り。柑橘系のさわやかな香りをいっぱいに吸い込んだ。
ティナーの肩に顎を乗せ、後ろから作業をみつめる。先ほど自分が取ったタッパーが開けられ、中を見た。…ティナーの前にはタッパーと弁当。嫌な予感しかしない。

「ティナー、それ…いれんのか」
「うん、もちろん」

菜箸で摘まれたそれは弁当の一角へ詰められる。緑をしたそれ。基本的になんでも食うが、これはあまり…。

「お弁当にいれれば食べてくれるから。作ってみたの」
「……そうかよい」
「あ、エースくんとかにあげちゃだめだからね」
「……ああ」
「ふふふ。苦手なものを食べられるようにするのも、愛情の一種だと思うの」


俺の嫌そうな顔を見、るんるん、と効果音がでてきそうなほど嬉しそうに作業をする。
確かにそれも愛情だと思うが……



「なんで食べないかなぁ、春菊」




愛情いっぱい愛妻弁当


嫌いなものしか入っていないわけではない。
愛する妻がつくっているから、苦手なものも食べるんだ。

「はい、今日もがんばってね」
「おう」

この愛情いっぱいの弁当があるから、今日も1日頑張ろうと思う。



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「ちらりずむ」さまへ提出!ありがとうございました^^
マルコがクセのある味の食べ物が苦手だと可愛い。

2010.12.14.
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