ひとり遊び
外の仕事を終え、カジノの下にある今の“住みか”に帰ってくる。オールサンデーに言付けを言い、“彼女”の待つ部屋へと向かう。
部屋に入れば出迎えるのはでかい水槽に入ったバナナワニ達。今日も規定の時間に“彼女”が餌を与えていたのか、バナナワニは大人しく水中を泳いでいる。ふと気がつけば、水槽の前にイスが置かれていた。近づいてみれば、飲み終えたティーカップがイスの上に置かれいる。
「…やりっぱなしか」
イスに触れてみれば冷たい。多少でも暖かかったのであれば先ほどまでここにいたのは間違いないのだが、それがないので随分と前にここから立ち去ったのであろう。
そうすれば目的地はすぐそこ。隣にある、自分の部屋の手前に位置する“彼女”の部屋。
ガチャリ、扉を開けて中を見渡すが誰もいない。
ならば自分の部屋しかないと、部屋に続く扉をあけると、案の定“彼女”がベッドに座っていた。
「帰った、ティナー」
「お帰りなさい、クロコダイル」
扉が開く音に気がついたのか、何か作業をしていた手を休めてこちらを向く。ブラウスの上からダークレッドのワンピースを着る“彼女”、ティナーがふわりと立ち上がって近づいてきた。
「今日はドレスじゃねェのか」
「毎日ドレスじゃ堅苦しいわ。ドレスの方がお好み?」
着ていたコートを脱ぎティナーに渡せば、あらかじめハンガーを持っていて、コートに通してクローゼットに掛ける。
堅苦しいタイを抜き、ワイシャツのボタンを三つ四つほど開けて楽な格好に。
「ああ、脱がせるのがソソる」
「もう、エッチ!」
「クハハハハ。まあ嘘じゃあねェが、似合ってんだからいいんじゃねェか」
「…ありがとう」
そのまま俺がソファに座れば、ティナーはベッドの上に置いてきた作業道具を持って俺の隣に腰を下ろした。横かよ、と思い、後ろから抱いて自分の足の間におろす。びっくりしたのかティナーは目を丸くしてこちらを向いた。
「…どうしたの」
「どうもしねェよ」
「ふふ、クロコダイルが甘えたさんだわ」
「何か言ったか」
「いいえ、何も」
若干、ティナーは嬉しそうに作業をし始めた。
何をしているのかと思いみていると、なにやら布に何かを縫っているようだ。オールサンデーにでも教わったか、何か言い暇つぶしを提案してもらったのだろう。
「一人遊びを覚えたか」
「ええ!刺繍よ」
「…………そうか」
つまらねェ、と邪魔をするようにティナーの頭に腕を回し、自分に寄りかかるようにし向ける。
「ひゃっ」
「……………」
続いて髪をいじる。少し巻き毛の入ったティナーの髪に指を通し、手櫛をかけた。
「…クロコダイル?」
「…なんだ」
「………なんでもない!」
「……ッチ」
自分の方に気を取ろうと必死になる自分にか、はたまたこうして邪魔をするのにそれを何事もなかったかのように振る舞うティナーにか、静かな舌打ちがでてしまった。
最初のころのティナーなら、自分の舌打ちが出ただけで謝ってきたが…さすがに最近は余裕がでているのか理解をしてそのままにすることが多い。ともに過ごす時間が長くなったからか、ティナーは丸く納める技を身につけたようだ。
作業に向いていると思ったが、ティナーはいきなり手を止めて俺に向かい合うように座ってきた。
「構ってほしければ素直に言うことよ」
「誰も言ってねェよ」
「言ってたわ。行動で」
「言ってねェ」
「ふふふ、強がり。でもすきよ」
ちゅ、と顔を横切るように在る傷に口づける。
俺はティナーの頭を掴み、自分の傷にくちづけた目の前の唇に噛みつくようなキスをした。
「ん……ぁ、…ふ、」
それに乗るように、ティナーも俺の首に腕を回して、さらに深い口づけを。
「…も、甘えたね」
「……うるせェよ」
「ふふふ」
一人遊びを覚えたら
(ふふ、彼ってば、嫉妬したのよ)
一人遊びなんていらねェよ。お前は俺に構っていればいい。
他の物なんて見るんじゃねェ。
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サーったら、甘えたね!(殴
2010.