海賊 | ナノ

蜂蜜みたいなキスをしよう




カチャカチャと金属同士の当たる音が耳をくすぐる。キャスケットがキッチンでカスタードクリームを作っている音。ふわりと香る甘い香りに、耳も鼻もとろけそう。

「なぁ、見てて楽しいか?」
「うん。楽しいよ」
「ならいいけど」


手を動かし続けるキャスケットの姿をみるのは楽しい。というより、料理を作っている姿がとても素敵なのだ。料理中はこちらを向いてくれないけれど、真剣な表情で食材と向き合っている彼は惚れ惚れする。
私はこうやって時々、キャスケットの料理中をお邪魔してその姿をみている。そう、あくまで見ているだけ。

「そういえば今回は買い出しに行かなかったけど、どうして?」
「あいつ等にもそろそろ買い出しにいかせねーとな。いい食材を買ってくるかの試験にもなるし」

今はとある秋島にてログをためている最中。いつも食材の買い出しは自身で行っていたキャスケットだったが、今回は他にいる2人のコックに任せたらしい。ちなみに外へ出た船長とベポ、ペンギンの付き添いもこの2人。
キッチンを取り締まっているのはキャスケットで、あとは一人前には少し足りないコックが2人。今回の買い出しはこのコック2人の試験代わりらしく、当分のメニューは2人にかかっているようだ。

「今度はなに作るの?」
「ホイップクリーム」

カスタード作りが終わったらしく、香りのよいそれは冷やすために冷蔵庫へ姿を消した。今度は生クリームと粉砂糖をボウルへ入れ、かき混ぜ始める。

「ふふふ」
「何だよ」
「いや、格好いいなあって」
「…何もでないぞ」
「そのお菓子私のために作ってる癖に」
「うるせー!」

せっかく素直に格好いいと言ったのに、逆効果だったのか。でもそれは単に照れているだけだとわかっている。…というか頬を朱くしながら怒っているからバレバレな訳である。

「ったく、こんなの見てて本当に楽しいのかよ」
「楽しいもん」
「よくわかんねぇ」

だってキャスケットが格好いいんだもん。戦ってるときのキャスケットも、治療してるときのキャスケットも格好いい。でも私はこうやって色んな料理を作り出していくキャスケットが一番格好いいと思うんだ。だから構ってもらえなくても、料理を作っているキャスケットを見てるだけで幸せなの。
なんて言ったらどんな反応を示すだろう。


「ほら、あーん」
「あーん」

目の前に白いふわふわがスプーンに乗って差し出される。あーんと口を開ければそのまま私の口へ導かれ、口に広がるしっとりとしたしつこくない甘み。
ほら、キャスケットの作るお菓子はこんなにも甘く美味しくなっていく。

「どう?」
「おいしい!」
「固さが足りないとか」
「ちょうどいいです!」
「OK、わかった」

じゃあこれで今はおしまい。そう言ってホイップクリームをボウルごと仕舞い、使った物をささっと片付けてキッチンから出てくる。
そうして甘い香りを漂わせて、私の隣へと腰掛ける。ふわっとクリームの香りが私を包み込む。

「へへ、クリームに包まれてるみたい」
「俺が?」
「だってクリーム作ってたし。香りがついてるよ」
「そういうお前も一緒にいたしな」

腕の中にいる私の髪に――というか頭に鼻を付けてクンクン匂いを嗅ぐキャスケット。

「…ティナーのが、いい匂いだろ」

くすぐったいけど、その前に自分の匂いを嗅がれていることがすごく恥ずかしい。でもくすぐったいとは言えず、どちらかと言えばくっついていたい。そうやって何も言わずにいればキャスケットは鼻をどんどんと下へずらし、首筋や鎖骨にぐいぐい押しつける。

「や、やだ…ちょっと、キャスケット?」
「いーだろ、誰もいないんだし」
「だめ。私たち船番なんだから」
「…外に2人いるし」
「ダーメ!…って、あ、まって」

服に伸びてきたキャスケットの手をギリギリ捕らえれば、ムッと顔をしかめられる。いくら外に2人、他の船番がいるからって行為に及ぶことはできない。なんのための船番か。
そんな私が気にくわないのか、キャスケットは少し乱暴に唇を押しつけた。


「んっ…」


押しつけられた唇、次は唇を這う舌。ちゅ、と唇を吸われ反射的に開いた口にねじ込ませ、舌と舌を絡めていく。

「…、ぁ、ふ、」
「もっとだして」

キャスケットの手は両方とも私の頭部へセットされる。片方は逃げないように後頭部へ、片方は私を甘やかすように頬へ。ぐしゃっと髪をなでてそのまま再び唇を合わせる。何も考えず、したいままにキスをして、絡ませて。
ふと、油断をした隙にキャスケットが私の身体を浮かせて自身の膝の上へ移動させる。全身を強い力で抱きしめられながらのキス。船にほぼ誰もいない状況だからか、キャスケットの枷が外れてしまったような。

「っキャス、」
「…なに」
「も…離して」
「イヤだね」

逃げようにも逃げられず、ぐいぐいと攻めるキャスケットは抑えられない。何せ膝の上だからあまり動けないし、嫌がればきっとキャスケットは益々攻めてくる。

「キスだけでいいから」
「、ぅ?」
「今はキスだけでいいから…ん、」

ちゅ、と私の舌を吸ったり、深く深く絡め合わせたり、―――キスだけならとキャスケットの誘いに乗った私。

「ふ、ぅ…ん、ん」


いつの間にか私の腕はキャスケットの首に巻き付いている。自ら身体を乗り出して、キャスケットへとキスを求めてる。キャスケットも手は私の後頭部と、腰へ。

――ああ、これじゃいつ始まってもおかしくないかもしれない。




蜂蜜みたいなキスをしよう
(鼻に掠めるこの甘さと、)(のどに詰まるような甘さで)




「…おーい、船長たち帰ってきたぞー」
「そろそろ終わりにしろよー」
「(…バレてる)」
「(…やんなくてよかった)」



――――――――
私がセクハラペンギンさんとかいちゃいちゃらぶらぶするキャスケットが書きたい、だが誰か書いてくれないか!と日記で呟いたところ、枢さんがセクハラペンギンさんを書いてくださったので、私はいちゃラブキャスケットを書かせていただきました。
お菓子の香りの甘さでげろ甘具合を誤魔化した感がいっぱいです。ただチューしとるだけや!(笑)

タイトル→ナルコレプシー

2011.11.06.
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