海賊 | ナノ

月曜日



キャスケットはあのまままだ目覚めない。傷も少し深かっただけで酷いようではない。船長の手術も何事もなかったし、私も助手を務めたけど失敗はなかった。
このまま目覚めるのを待つだけだと船長に言われ、私は夜通しキャスケットの世話をしていた。


「ティナー」

ぼうっとしていれば、扉を開けてベポが心配そうに覗いていた。

「おはよう…ベポ」
「おはよう。キャスケットはどう?」
「んーん。まだ覚めない」
「ティナー一睡もしてないでしょ?交代するから、仮眠してきなよ。ついでにご飯もさ」

一睡もせずにキャスケットの側に座ったままいた私。昨日の戦闘もあったし、そろそろ寝ないと体力的に限界だ。
しかし、いざベッドへ行ってもキャスケットが気になって仕方がないだろう。だったらここで仮眠をとりたい。側を、離れたく、ない。

「ここに、いたいの」
「ティナー…」
「仮眠はここでするから」
「じゃあご飯、持ってくるね。その後は俺が様子見て、ティナーはここで仮眠して」
「ありがとう」

ベポは優しい。そしてこう、私に嫌なこととか精神的にダメージ受けたときとかに側にいてくれる。
甘えちゃってるなって思うけど、ベポには存分に甘えられる。安心するって言う感じ。
ベポがキャスケットの様子を見ている間に仮眠用の簡易ベッドを組み立ててしまおうと、キャスケットのベッドの側の椅子から立ち上がった。


「ん…」
「キャスケット?!」
「……ぅ、あ、…ここ、」
「お、俺、キャプテン呼んでくる!」

掠れた声で言葉を発するキャスケット。目が、さめた。キャスケットが気がついた。そのことに嬉しくなり、私はキャスケットが少し動かしていた手を握る。


「キャスケット…!」
「…ティナー、?」
「よかった、よかった!目ぇ覚めなくて、どうしよう、かと」

キャスケットが目を覚ましたことにより、今までの緊張が解けて涙があふれ出てくる。ぐす、と鼻水をすすればベポが呼びに行った船長とペンギン、バンが部屋に入ってきた。
そのまますぐ体調のチェック、傷の具合などを船長に任せて私はとりあえず涙を抑えることに集中した。



「傷も深くねぇし、きっと体力の使いすぎで起きなかっただけだからそのまま寝かせとけ」
「ティナーはまず飯を食え。持ってきてやるから食うんだぞ」
「あとキャスケットが無理ないように此処で見張っとけ」
「睡眠もちゃんととれよ。その時は誰か呼ぶのを忘れるな」


船長、ペンギン、船長、ペンギンと2人からいっぺんに言われたが、ペンギンは何だかお母さんみたいなことを言うのでバンと共に吹き出したら怒られた。くっそう。
その後ペンギンが持ってきてくれたリゾットを、言われた通りにしっかり食べる。
キャスケットはまだ食べれずに点滴で栄養補給をしている。匂いがして食べたそうにしてたけど、我慢してねと言って食べ続けた。


「、ティナー」
「うん?」
「ごめん」

食事を終えて食器を片してもらったところ。ベッドサイドの椅子へ腰掛ければキャスケットが声をかけた。

「目、覚めた時さ、正直意識がはっきりしてなかった。けどティナーが泣いてるってのはわかった」
「…号泣してましたけど、なにか」
「やべ、泣かせたって焦った」
「ほ、本当だよ!ばかっ」

ぎゅっと膝の上で拳を作る。また涙があふれてきて零しそうになった。けどそれが遮られたのは、キャスケットが私の拳に優しく手をおいたから。

「ごめんな」
「ほんと、…本当、に、目が覚めなくて…どうしようって、本当に!」
「ごめん」
「ばかばかばかっ 危ないから覚醒すんなって言ってたのに聞かないから!」
「あ、あれは無意識になっちゃうんだって!仕方ないんだよ」
「でも…ううう〜」

抑えが効かなくて結局泣き出してしまう私。キャスケットに関しては感情コントロールがイマイチ制御できないと、最近本当に感じる。
涙がぽろぽろ落ちて、でもこれがしばらく収まる気はしない。塩分がどんどん逃げてっちゃう。


「ティナー、もうちょいこっち来て」

ぐすん、と涙を両手で拭く。止まらずにまた視界に溜まってくるけど、零れないように椅子から立ち上がってベッドサイドへ膝を付ける。

「この間から泣かせてばっかだな」
「う、ん」
「ごめんな」
「うん」
「怒ってる?」
「…怒ってる」

ぶすっと涙目のまま頬を膨らませれば、ぶふっとキャスケットが笑う。くそ、今のそっちの顔も酷いぞ。そっと伸びてきた手が私の頬を撫でる。それはそれは、もう、慈しむように優しく。

「早く治すよ。んで、昨日…いや、一昨日か。食べたがってたハヤシライス作ってやるから。それで機嫌直して」
「…キャスケットのご飯はやく食べたい」
「じゃあ術後のケアしっかりな」
「まかせろ」
「おう」

こぼれた涙なんか気にせずぽろぽろそのまま流していたら、キャスケットに掬われる。怪我しても何しても、結局私を笑顔にしたり泣かせたり、私を形成してくれてるのはキャスケットの存在が大きいな、と思う。だってこんなにも変化してくんだ。

「キャスケット」
「ん?」
「おかえり」
「…ああ、ただいま」




月曜日、あなたの存在を感じる。


―――――――――
土曜日の夜にリクエストした昼食はハヤシライスでした!
2011.12.11.
- ナノ -