海賊 | ナノ

日曜日



キャスケットの部屋で寝ていた。朝はキャスケットが朝食作りの為に早く起き、私はベッドに取り残される。朝食が出来上がってキャスケットが呼びにきて、朝食を食べて。キャスケットの部屋から起きてきたと知ったクルー達に冷やかされたけど、それはそれで有り難く冷やかしを受け取っておいた。

朝食が終わってしばらくした頃、各自の仕事をしている最中に進路方向から船が現れた。持ち場に就いていた者たちが一斉に甲板へ上がり戦闘準備を整える。


「いいか、お前ら。無駄に怪我したらタダじゃおかねーからな」

船長であるローが静かに言えば、それは開始の合図。こちらに乗り込んで来た敵船のクルーをまずは消し、前線を張っていた者たちが流れるようにあちらの船へ。
船長、ベポは基本的に自船で固定。私とキャスケット、ペンギンは大体こちらの船に足を踏み入れさせないような防御壁の役割。50%の確率で、戦闘スキルの覚醒をして周りの見えなくなったキャスケットが敵船に乗り込んでいってしまうけれど。


「チッ 銃は苦手なんだよね」

女というだけで私はよく狙われるらしい。手当たり次第倒しているから自分ではよくわからないけど。女でもあるし一応、賞金首。狙われるのは当然か。


「ティナー!キャスケットだ!」
「ペンギン行ってよ!」
「…どうなっても知らないぞ」

防御壁となっている私とペンギンはいつも通りこなしていたが、周りの見えなくなったキャスケットは今回、敵船に足を踏み入れてしまったらしい。
いつもは私が側に行ってストッパー役を買うのだが、今回は私についている敵の数が面倒臭い。そのままキャスケットに近付いていけば巻き込んでしまう。
その状況を理解したのか、ペンギンは早急にキャスケットの元へ駆けていく。防御壁が私ひとりになったかと言えば実はそうではない。油断した敵船クルーは私の後ろに構えていたバンの銃によって次々と倒れていった。

「ありがと、バン!」
「お安い御用さ」

バンの後方にはグノーがライフルを構えているし、これで少し人数も減ったから動きやすい。
神経を集中させ、頭に流れる映像をしっかりと記憶する。敵の銃弾は右から3発、左斜め後ろから2発。バンの銃弾は私の右脇を通過する。正面からは突っ込んでくる男。


「…じゃあ飛ぶしかないじゃん」

ひょいっとその場から上空へ飛ぶ。しかし周りには私の動きが早すぎて、どこへ行ったかわからぬまま。そんな敵船クルーに迷いなく銃弾を撃ち込んでいくバン。
その様子を頭上から見ていた私は、甲板へ降り立てば敵の足元を崩してそのまま後頭部へ回し蹴りを食らわす。

「気を付けろ!時の神(クロノス)の娘だ!」
「動きが遅い」

トキトキの実を最大限に活用して、私は数秒先を読む。そして私以外の時間を遅くして動く。そうすれば私の動きは早すぎてわからず、何の対処のできないまま私に倒されるというわけだ。

「ぐふうっ」
「銃は嫌いだけど、近くまで来ちゃえば楽勝なんだよね」

そのまま近くにいた敵船クルー達は私とバンによって次々と倒れていく。グノーは船長の方についているみたい。

ふと気になってキャスケットとペンギンの方をみると、数十メートル離れた所から2人を狙った銃を捉える。
私にしてみたらこの数十メートルなんてあっという間で、今にも撃つであろう敵の銃を奪う。そしてそのまま鳩尾に拳をいれ、油断した隙に頭を蹴りをお見舞いすればイチコロ。


「ティナー、片付いたらこっちきて!」
「OK、今向かうわ、ベポ!」

大体勝敗は見えてきた。…いや、勝敗なんて最初から一つしかない。私たちが勝つに決まってる。それでも圧倒的な力の差に、敵はもう逃げ腰だ。そのまま逃げるなんて、きっとキャスケットとペンギンがさせないけど。
あとの防御壁は2人に任せることにして、私は船長とベポのいる後方へ向かった。






静かな船上。今、息をしているのはハートの海賊団のクルーのみ。汚い肉塊が転がりながらも、船長の指示をジッと待つクルーたち。


「…ペンギンとキャスケットはどうした」
「あれ、まだ帰ってきてない?」

そう言えば静かになった船に2人の姿が見えない。いつも通りキャスケットが精力燃焼して動けなくなったんだと思うんだけど。
そう言おうと口を開きかけた瞬間、グノーが叫んだ。

「ペンギンとキャスケットだ!」
「どうした」
「キャスケットが怪我してる」
「えっ?!」

敵船から2人が戻ってきた。が、キャスケットはいつもと違ってペンギンに肩を貸してもらいながらゆっくり歩いてくる。サングラスは割れ、露わになった目は虚ろ。

「戻りました…」
「お前は」
「俺は平気です。キャスケットが」
「そのまま手術室へ運べ。ティナー、他の奴も準備しろ!空いた奴は船に物資を運んで掃除してろ」


ペンギンはそのままキャスケットを担いで船長の後を追う。ベポも手術室準備に中へと急ぎ、バンは既に機器調節の為、中にいるだろう。私も意志のきかない足を無理矢理動かし、船長たちの後を追う。

だって、キャスケットが。
そんなこと起こらない、と思っていたことだった。だってキャスケットだから、と。血まみれになることはあったって、それは殆ど敵からの返り血だった。


「ティナー、お前はカテーテル類やれ」
「…、はい」
「あと、しっかり助手しろよ」
「…はい」
「返事は」
「…っはい!」


そうだ。キャスケットだから、絶対に助けなきゃ。船長ならば絶対に助けてくれる。私はそれを信じて船長の助手を務めればいい。
手術台へ横にされたキャスケットを見る。…怖い。けれど、この人の笑顔をもう一度みたいから。怖いけど頑張るよ、キャスケット。

だから、お願い。




日曜日、信じて待つ、だけ。



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戦闘シーンをしっかりと書いたことがなかったので、書いてみたくなったのです。
トキトキの実はこんな感じ。
2011.11.30.
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