土曜日
※微裏コンコン、と扉を叩く。中から許可をもらい、静かに扉を開けて中を覗く。
「今日もいい?」
「ティナーがいいなら別に良いけど」
「じゃあ、お邪魔します」
シャワーも浴び、軽い寝間着へと着替えてキャスケットの部屋を訪れる。喧嘩した後、昨日の夜もここで夜を明かした。また今日もお世話になる。
今までもキャスケットの部屋で夜を明かしたことは何度かあるが、こうやって続けては初めてだ。
喧嘩をしたことで、丸2日間極端に関わらなさすぎた為でもあると思う。だからずっと側にいたいと感じてしまうのだと、そう思っている。
「そうだ。ちょっとこの本から、明日の昼飯なにがいいか決めといて」
「好きなのでいい?」
「勿論」
ぽいっと渡された分厚い本は、いつもメニューを選んでもらいたいときに渡されるもの。
最近では私が決めることが多いが、以前のように他のクルーに決めてもらってもいいのではないだろうか。むしろ私の好きなメニューばかりで、他のクルーは物足りなくないだろうか。
「ステーキ」
「却下。分厚い肉が残り少ない」
「ジャーマンポテトにハンバーグ?」
「個数がなあ」
「じゃあキッシュ」
「昼から重くないか?」
本を見ながらもなるべくボリュームのあるものを…と選んでいると、キャスケットがいつの間にか目の前にきていて本を取り上げられた。
「ティナーさ」
「うん?」
「なんか違うこと考えてんだろ」
ぐっと近づくキャスケットは、何だか怒ったようなムスッとした顔。う…この空気は最近感じたことのある空気と同じ。
「俺はお前が食いたいものを昼飯のメニューにしようと思ったから聞いてんの」
「…ごめん」
「ああ、もう。本当、学習能力ねぇな、俺もお前も」
くっそ、とキャスケットは帽子を掴んでベッドサイドへ放る。やばい、怒らせちゃった!と焦った時にはもう遅く、私はキャスケットに腕を捕まれベッドへと倒された。
「そういうとこが、ティナーらしいけどさ」
「…うん」
「他のヤローのことなんか考えんな」
降ってくるキスに、悲しさが足される。震える唇がそれを物語る。
「ごめん…」
「許さねー」
「、え゙」
「今日はお仕置きな」
輪郭を沿うように撫でられ、しかも組み敷かれている。キャスケットの口から“お仕置き”だなんて言葉が出てくるなんて思わず、この状況に冷や汗がだらだら。
ど、どうしよう…キャスケットがSっ気に目覚めてしまったら、私は一体どうなるだろう。というより、お仕置きって何されるんだろうか!
そんな私の心配と葛藤を知らないであろうキャスケットは、私の耳元に唇を寄せ、ちゅ、と口を付けながら熱い息を吐く。耳朶をやわやわと唇で挟まれれば、私は簡単に反応をする。
「っ…!」
耳の裏、首筋、鎖骨…とどんどん唇が降りていったと思ったら、がばりと起こされ、キャスケットの膝の上に乗せられる。ベッドの上でこんな座り方したのは対面座位でしてたときくらいで…その時の記憶が蘇ってきて恥ずかしい。
そんな私の胸元を人差し指で軽く叩くキャスケット。
「な、なに?」
「脱いで」
「はっ?!」
「お仕置き。俺の言うとおりにしてってよ」
「…変なことはしないよ」
ニッと怪しく笑う。絶対なにか企んでる!
キャスケットがこんなこと思いつくなんてたぶん絶対ない。船長か誰かに言われて、こんなことし始めたかそんな所だ。犯人は覚えてなさいよ…!
「ほら、早く」
「…わかった」
寝間着はシャツにショートパンツ。キャスケットのご要望通りに、裾を握り一気に脱ぐ。見えたのは素肌だけではなくしっかりと胸元を守る下着も見えた。
「やっぱり着けてる」
「当たり前でしょ」
「まあ着けてなかったら、俺ヤバかったな」
「もうキャスケット!」
「悪い悪い」
下着にショートパンツの姿でキャスケットの膝の上に座る私。端から見たらなんか私が誘ってるような形なんだけど…これは誤解されたくない。
「ほら、また違うこと考えてるだろ」
「ち、違うことじゃないもん」
「本当か?」
半信半疑を演じているキャスケット。その余裕になんだかカチンときたので、それを崩してやろうと自ら誘いをかけた。
「じゃあキャスケットのことしか考えられないようにしてよ」
跳ねたオレンジの髪に指を絡ませ、それによって露出した耳を撫でる。完全なるお誘いをしているのは自分自身でもわかっているし、正直恥ずかしさが全開。
でもこれからきっとそれ以上のことになるだろうから、キャスケットがいい気になってるのが気にくわないのでこの手になった。
「…言ったな」
私の挑発に簡単に乗り、キャスケットはぐっと私を近づける。お腹と背中は露出しているため、私を引き付けたキャスケットの手を直に感じる。
乱暴に重なった唇に、対照的に優しく動く舌。先ほど挑発していた手を背中に回して崩れていかないようにする。
「ん…ふ、ん」
「…っ、ちゅ、」
「は…ん、キャス…」
キャスケットも昼間よりは軽い格好になっているものの、今の私に比べたら露出は全然少ない。不公平だなあ、と思ってキャスケットのシャツの裾を握れば、先ほどの私のようにバサリと脱ぎ捨てた。
「これでいいか?」
「…うん、まあ」
男の人であるから、しかも部屋が明るいから、実はしっかりした身体が目の前に広がる。うう…キャスケットの上半身でも見るのは苦手だ。ちょっと可愛い見た目とのギャップで、こちらがとても恥ずかしい。
「ほら、ちゅーして」
「ん」
ちゅー、なんて可愛い言葉を使って私を操るけど、本当こっちの理性が飛んじゃうわ。
今度は私が誘いに乗る番、ね。
土曜日、貴方のベッドで戯れ。
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微裏もいれねばと。
2011.11.23.