海賊 | ナノ

月曜日



一昨日までの嵐が嘘のような快晴。気持ちよくて、甲板掃除を快く引き受けた。
裸足でいれば太陽のジリジリした暑さなんて気になら…ないわけはない。それでも足元が水気を帯びているのだし、気持ちいいのは変わりなかった。


「おっ やってんな」

ふと、声が聞こえた方を振り返る。甲板にいるのは私だけだし、多分私に話しかけたのだろうキャスケットがいた。

「あっついね」
「おう。お前、こんな天気の中よく一人でやってんな」
「うん。気持ちーよ」
「他の奴はバテてんのに…」
「仕方ないよ、こればっかりは」

船長のローが北の海出身なため、船員の殆どが北の海出身、つまり寒さにめっぽう強い方々だ。しかしこの気温。夏島の近くを通り過ぎるらしく、なかなかに暑い。そんな気候には弱い船員に、ベポ。
ベポを見ていると毛を刈りたくなるけれど、そんなこといったら船長に刈られるからやめておく。

「キャスケットもバテてるんじゃ?」
「俺?俺は、まあなんとか」
「倒れないでね!キャスケットが倒れたらご飯食べれなくなっちゃう」
「飯の心配かよ!」


なんてキャスケットと話してるけど、一応これでも恋人。恋人らしいことなんてした覚えが数えられる程度だし、なかなか踏み出すまでに時間がかかる男だ。
それでも、大切にしてくれるし優しく触れてくれる、愛されてるって感じるから、一緒にいる。もちろん私がキャスケットを好きだというのが前提で。


「ティナーも暑さに強い訳じゃないんだし、気をつけんだぞ」
「うん。ありがとう」
「あと、衝動に駆られて海に飛び込むなよ」
「と、飛び込まないよ!」

私は能力者だし、海に入ったらおしまい。力が抜けてなにもできないまま落ちていく、海の中では役立たず同然。それは船長にも言えることだが。
さっき私がからかったから、仕返しのつもりだ。絶対そうだ。くそう!

「怒んなって」
「怒ってない」
「本当かー?」
「本当!」
「ははっ 怒ってんじゃん」
「っもう!」

まあまあ落ち着け、と私より幾分高いところから頭を撫でられる。
そっちから言ってきたことなのに、と反論はしない。キャスケットに頭を撫でられるのに不満はないし、軽い言い合いだってよくするから、こういうコミュニケーションなんだって思ってる。
そんなキャスケットとの距離感がとても好きなんだけど、こういうのが私だけという確信は持てない。船に女が私だけだから比べる対象がない。だから、時々不安になる。
私だけ、特別?


「そうだ。いつ頃終わんの?」
「んーと、もう少しかかるかな。1時間くらい」
「わかった。んじゃ、その頃に飲み物でも持ってきてやる」
「えっ!本当?」

終わったら夕食の下ごしらえ手伝ってよ。なーんて言われるのかと思ったら、飲み物持ってきてくれるって。キャスケット、この暑さにやられた?

「なんだよ、じゃあ作ってやんねーぞ」
「やだやだ、お願いします!」
「よろしい」

む。なんだか偉そう。キャスケットのくせに!
でも飲み物を持ってきてくれるのはとても有り難い。暑い中での作業、疲れないわけがない。しかも1人だから全部私がやるんだし。

「ミックスベリーソーダでいいよな」
「うん!」

大好きなキャスケットお手製のミックスベリーソーダは乗船してすぐに気に入ったもの。まだキャスケットに恋していなかった頃から好きな、恋をしてからキャスケットと私とを繋いだ飲み物。生憎、船長も好きらしいけど。

「ねえ、船長にも持ってったら?」
「は?何で」
「え?船長も好きでしょ、ミックスベリーソーダ」

そう言う私に、きょとんとした表情をみせるキャスケット。まさかとは思うが…まさか。


「船長すきなの?知らなかった」


気が向いたら持ってく。
そのまま、じゃ、と笑顔で手を振って甲板を後にしたキャスケットに、何だかほっと心の重りを落とした。

もしかして、ミックスベリーソーダを好きなのは私だけだと思ってる?否、実際船員に好きな人は数人いるはずだ。それならキャスケットは私しか覚えてないということ?
これが、特別、ということ―――?
そう考えて、顔を赤くする。1人で甲板にいて勝手に顔を赤くしてたら絶対にからかわれる!特に船長に!船長が「なに妄想なんかしてんだよ?」と私に問うてくるのが想像できる。な、何を妄想って、もちろんキャスケットのことで…きゃー!
なんてどんどん変な方向に想像が頭の横で膨らんでいくのを、バタバタと手を動かして消した。こんなことしてる方がからかわれそうだけど、こちらでからかわれた方が断然いい。

でも、キャスケットがちゃんと私を特別な存在で感じてくれているなら…


「安心、かな?」




月曜日、貴方の特別を確認!


2011.08.24.
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