海賊 | ナノ

忠実に愛します、

※暴力表現有り




暴力? ちがう これは彼の愛情表現



ガタン!

体に走る鈍い痛み。頭が、おなかが、足が。指さえ動かすことが辛い。口に広がっていく鉄の味が私の意識をはっきりとさせている。ぐいっと髪を引っ張られ、そのまま息が出来なくなる。この、歪んだ愛が、暖かい。
部屋の角へと殴りつけられ、そのまま痛みとともに快楽の底へ追いつめられることなどもう慣れてしまった。
赤い髪のこの男はどうしたってそれを止めないし、私だって泣き縋(すが)りつくことはない。


「痛ェか?」

髪を引っ張りながらゆっくり口を離せば、いつも紡がれる言葉。
痛いだなんて私が勝手に思っていることで、実際は痛くないのかもしれない。自分が痛いと思うから痛いと感じてしまう。だから私は、今何も感じない。

「…何とか言え!」

紡ぎたいのに紡げない。けれどあえて紡がない。黙ったままの私に痺れを切らし、赤い髪の男は再び私を殴る。髪を掴まれたままだから床に叩きつけられないかわりに、髪が皮膚から抜けそうになる。ギチギチと本気で抜けるんじゃないかと思うほど、私はもう髪を掴まれてぶら下がっていた。実際、髪の何本かは確実に抜けている。

「黙ってンじゃねぇ…」

掴まれていた髪を勢いよく離され、今度は全身が床へ叩きつけられる。肩から突っ込み、もう身体に力を入れる意欲すら消え失せてしまった。

「い…っ」

ああ、また痣が増える。
このニーハイだって、おしゃれ以外にはいているようなものだ。この下にはくっきりと跡に残った青痣がいくつもの在る。脱げばその痛々しい足が露出する。私は別にいいけれど周りの目があるため、履かないわけにはいかない。
これが、彼からの愛情の証なのに。


「ティナー」


今度は髪じゃなくしっかりと腕を掴まれ、身体が起こされる。だらんと頭を垂れさせてもう上を向く力さえ出ない。
それでも無理矢理に上を向かされれば虚ろではっきりとしない瞳で彼を見つめる。視界にはいるのは泣きそうに顔を歪めた彼。

「…痛ぇ、か?」

延びてきた手が私の口元に到達すると、ぬるり、という感触が私の肌を滑る。そのまま彼の指が口の中に突っ込まれれば、あたたかい、鉄の味。口に広がる奇妙な味に顔をしかめたくなった。

「悪い」

頬に唇を押しつけられ、顔中に降り注ぐキスをそのまま受け入れる。されるがままでぐったりした私だけれど。

「ね、え…キッド…」

か細く私が彼の名を口にすればゆっくりと行為を止めて私と向き合う。そんな彼は未だ泣きそうな顔で私を見つめる。

「どうした」

やさしく、やさしく彼が私に問えば、それに答えるかのようにゆっくりと自分の腕を彼の首に巻き付ける。自分でバランスを保てなくなり、ばふっと彼の胸に寄りかかって。


「すき、よ」


そう呟いた私の体を、軋むような音が立つまで強く抱きしめた。彼は、酷く霞んだ声で、ああ、と返した。




忠実に愛します、


彼の歪んだ愛情表現はこれからも続くのだろうけど、それでも私はここから離れない。
だって彼を愛しているから。
彼の愛を受けられるなら、私は喜んで受け止めるだけ。それが彼と私の望み。

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タイトル→Mr.Princeさま
こんなカップルは大好物です。

2011.06.18.
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