溺愛症候群
「んん…」
しん…と静まる船内。夜も更けた海を進むのはハートの海賊団の船。各々のプライベートな時間を過ごすこの時間、甘い空気を漂わせているのはキャスケットの個人室である。
「…、キャス」
「ん?」
「ほんっと、意外」
ベッドへ腰掛けるキャスケットと紅一点兼恋人であるティナー。こてん、とキャスケットの胸元に頭を押しつけ呟く。一応甘えるポーズをしている。
「何が意外?」
「もっとヘタレだと思った」
「つまり?」
「ああ、もう!だからキャスケットにはかなわないってこと!」
頭上で肩を揺らしながら笑うキャスケットにぷう、と頬をふくらます。
「他の奴らの前で、そんな顔すんなよ?」
「…どんな顔よ」
「真っ赤にして目潤ませて、いかにも誘ってますって顔」
「なっ!」
ぐいっと引っ張られ顔と顔が急接近する。唇があたる、そんな距離でキャスケットは静かに口を開く。
「ペンギンにも、もちろん船長にも。ティナーは俺のだから、誰にも媚び売っちゃダメ」
「売るわけないでしょ」
頬がキャスケットの大きな手で包まれる。少し顔をずらして近づけばキャスケットは私の耳元でわざと息をかけるようにまた喋り出す。
「欲しいものは出来るだけ俺が与えてやるから、…だからティナーは俺のとこから逃げるなよ」
「もう…そんなことしない」
「ずっとずーっと、俺のでいて」
卑猥な雰囲気を漂わせるキャスケットの吐息に、ピクリと反応してしまう体。
キャスケットがその気なら私だって。
するりと空いていた手をキャスケットの首もとへ這わせるようにゆっくりと動かす。それが気に入ったのかキャスケットはフッと口をあげて笑えば私を強く抱きしめた。
「俺も、ティナーのでいるから」
小さく耳元で囁かれた言葉に応えるように、キャスケットの背中へ手を回した。
溺 愛 症 候 群 ――――――――
タイトル→虚言症さま
2011.05.09.