海賊 | ナノ


*キッドくん誕生日企画提出物


最近、クルー達の様子がおかしい。
数人固まって話しているのを見つけ、なにかあったのか聞こうと近づけば何事もなかったかのように散っていく。キラーは気にするな、と言うが、気にせずにはいられないだろう。
おまけに、自分の恋人すら2人でいる時間に何か考え事をするようになった。クルーだけならまだしも、恋人にまでそう扱われ始めたら機嫌が悪くなるのは必然だ。俺なら尚更。

「何なんだお前」
「…はい?」
「なにをそんなに考えてんだっつってんだよ。男か」
「いや本当別に何も考えてないから。男じゃないし」

様子を見る。が、しかし、毎回同じ返事で変化はない。動揺すらもなし。

「そんなに心配しないでよ。大丈夫だって」

俺が問えば答える。俺をしっかりと意識する。俺だけに触れる。そうして毎回俺は満足気になっていた。他の男に注意を向けるな、俺だけを見ていればいい。
しかし、いい加減に気になってくる。最初こそ気にしないようにしてきたが、俺にだって限界がある。今日という今日は吐き出させてやる。…そんな気持ちがあった。

「で、やましい事じゃないなら言ってみろよ」
「え゙」
「…やましいんだろ。やっぱり男じゃねェか」
「ち、違うったら」

ぐいぐいと近付いてみると、それにあわせて逃げられる。少し焦ったような表情。図星のようでそうでない。先ほどは答えるときに俺を見ていたのに、今はふいっとそっぽを向いている。

「だ れ だ」
「違うってば…!」

壁際に追い詰め、だんっと壁に手をつき逃げないようにする。左右も後ろもないティナーはしまった!と言わんばかりの顔をし、あわあわと慌てた。

「いい加減白状しろよ。大体、船ン中が変な雰囲気なのは肌でわかるんだよ」
「そ、そりゃ船長さんですから?」
「だから吐け。俺だけ除外するたァいい度胸してんじゃねえか、テメェ等」
「ちょ、ま、暴力はんたーい!」

どこにも行くあてのなくなっていたティナーの左腕を掴み、最後の警告だ、と暴れないように視線で言い聞かす。機嫌が悪い所為だろう。必然的に強い力で握っていた。

「吐け」
「い、いや…」

唇を噛み、ぐっと黙る。焦っているようだが、どうしても隠したいらしい。このまま襲ってやろうかと脅迫めいた台詞を言い出そうと口を開けた。

「てンめ……っ」

はずなのだが、それはすぐに塞がれた。…何にって、ティナーの唇によって。
瞳を閉じたきれいな顔立ちが目の前にある。掴まれた腕を引きそのまま顔を引かれた隙をついたらしい。予想外の行動に、俺はふと掴んでいた腕の力を緩めてしまう。

うっすらとティナーの瞳が開き、唇が離れてゆく。そのまま唇を繋ぎ止めようと頭を掴もうとすればが視界から消える。すかっと宙に手が浮き、ティナーは腕の力が緩んだ隙に勢いよく下へしゃがみ込んで回避した。しゃがみ込んだ拍子に足下から横へ逸れ、扉を開けて逃げ出そうとしていた。
いい技持ってんじゃねェか。
キスすることが予想外で、俺が隙を見せると踏んだらしい。まったくもってその通りになったのだが、あの状況でそこまで頭が回るとは、自身の恋人を褒めたくなる。
だが、逃げられるわけがねェ。
ダンッと壁に拳をぶつけ、ティナーの姿が消えた方へと足を進め後を追いかけた。

俺の船だ。逃げられると思ってんじゃねェ。

ティナーの微かな香りを追い、早足で後を追う。きっと今頃、この後どうしようかと隠れているに違いない。最近香水をつけるようになったのが仇にになったようだ。女のつける独特の香りに、自然と口の端が上がる。
姿は見えないが、香りが彼女の元へと導いてゆく。まるで俺たちが出会うのが運命のように、自然と。…なんてロマンチストみたいなことを思ってみた。我ながら鼻で笑ってしまう。
ふと進めていた足を止めれば、香りがそこで途切れる。このまままっすぐは進んでいないらしい。横を見れば扉。倉庫として使われているうちの1つであった。
躊躇なく扉を開けば、隠れることもなくすぐ近くに目的の人物を捕らえる。


「もう逃がさねえ」
「はわっ」

何で此処がわかったのかと驚いている顔をしたティナーの腕を、再び掴む。今度は逃げないよう、両腕を固定した。

「で、テメェはどこで犯されたい?」
「た、たんま!」
「なんだったら食堂で…」
「いやです、ホントに」
「じゃあ吐け」
「いや、です…」
「…本気で犯してやろうじゃねェか」

ヒッと小さな悲鳴を上げるティナー。顔を近づければ思い切り目をつむる。
しかし、あと数センチ、あと数秒もかからないところで、俺のしようとしていたことは阻止された。


「ストーーーーップ!」
「…何が言い足りねェ」
「…はぁ。負けです、負け。私の負け!全部いいますーっ だからさ、この腕離して、痛い」
「………逃げるなよ」
「今度逃げたら本気で食堂で犯されそうだから逃げないでおくわ」

はあ、と再びため息をつく。
様子からしてもう逃げはしないらしい。大人しく話すようなので、きつく握っていた腕を解放した。その腕には、赤く俺の指の跡が残っていた。




わたしの負けです



痛い。
そう言いながら赤くなった腕をさするティナー。

「で、お前等が隠しごとしてる理由は何だ」

単刀直入の質問に、ティナーは少し苦い顔をする。ううっと詰まりながらも、ゆっくりと口を開きだした。

「はあ…まあ、言わなきゃいけない頃合いだと思ったよ。キッドの性格的に」

はあ、と何度目かのため息をつく。ため息ならこちらが吐きたい。クルーに秘め事をされ、知らないのは船内できっと俺だけだ。キャプテンであろう俺が何故知らないのか、何故話さないのか、それが苛立たせる。


「まず、私たちはある大事なことについて計画をしています」

ティナーは人差し指を俺に向け、空いた腕を自らの腰に置く。どん、と軽い仁王立ちをし、口をとがらせた。
俺は腕を組み、逃げないように扉に寄りかかりながら話を聞く。

「ある大事なこと?」
「そ、ある大事なこと」
「で、それがなんだ」
「その計画はキッドに秘密にしなければなりませんでした」
「だからどうしてだ」
「どうして、って…」

はああ…と今日一番の大きなため息をつく。余りに大きかったために、最後には頭を垂らすような格好になる。
その計画とやらに何故俺が入れない?まさかクルー全員で乗っ取るつもりか、全員で俺を裏切るつもりか。…いや、確かに酷ェことをした覚えはあるが、信頼のある奴ばかりだ。きっとそれはない。じゃあ何だというのだ。

「わからないの」
「わからねぇよ、早く言え」
「…本当に、わからないのね?」
「何度言わせんだ」
「じゃあ今日は何月何日でしょう?」
「はあ?今日…って、1月10日、だろ」
「…で、何か思い当たる節は」
「ねェ」

1月10日…1月10日…さて、何だっただろう。
何もなかった、とは思わない。ただ俺は忘れてもいいだろう事だと思われる。しかしコイツには覚えていてほしかった気がする。コイツ―――恋人であるティナーには。
俺が「ねェ」ときっぱり言えば、ティナーの顔は何故かわからないが驚いていた。「じゃあ教えてあげる」と人差し指を自身の唇に宛てる。


「キッドの誕生日」
「誕、生日」
「そ。今日はキッドの誕生日、でしょう」

10日。そうか、10日。
コイツにだけは覚えていてほしかった、俺がこの世に生を受けた日。
モヤモヤとしていた気持ちが段々と晴れていく。
ティナーが覚えていた。それが何だか嬉しかったが、顔には出さなかった。そんなんで喜ぶ俺じゃねェ。だからそっぽを向き、強がってしまう。

「…そういやそうだな」
「なにそれ。何で自分の誕生日を忘れちゃうかなあ」
「興味ねェよ」
「本当はうれしいくせにね」

…いつもではない。だが、コイツは俺の本心を時々見透かしたように言ってくる。
それが少し今の俺には気にくわなくて、舌打ちをした。十分聞こえていたはずだが、そんなの聞こえていないという素振りをして会話を進めていく。

「だからみんなで祝う準備をしてたの」
「…クルー全員か?」
「うん。それで私は最終準備のためのキッドの引き留め役、兼案内役」
「案内?」
「ま、とりあえず食堂に行きましょうか」


ぐっと手を掴まれてそのまま食堂へと連行される。成すがままになるのが嫌だったので、掴まれている手を組み替えて指を絡め合わせる。――所謂恋人繋ぎ。
その行動に俺を振り返るティナーだったが、頬を赤くしニコリと微笑めば再び前を向いた。
…くそ、かわいい。

そのまま食堂まで無言で歩いた。別に気まずくはなく、逆に心地良いと思うほど。
扉の前までくるとピタリと足を止める。中の明かりはついてなく、本当に此処なのかと聞きたくなった。


「はーい皆さーん。今日の主役のご登場ですよー」

ノックもせずにそのまま扉を開け、俺を食堂へと押し入れれば、パッと明かりがついていく。それと同時にパン、パンと様々なところから音がした。



「「「ハッピーバースデー、お頭!」」」



いきなり明るくなった室内に目をつむってしまった。次第に瞳が明かりになれて視点がはっきりし、あたりを見渡せば笑顔のクルー全員がいて、食堂はパーティーの飾り付けがされテーブルには料理がずらーっと並べられている。
手前のクルー達は既に使用された後のクラッカーを持っていた。その中にキラーも混じっている。焦げ臭いにおいと先の音はクラッカーだと悟った。

「誕生日おめでとう、キッド」

クイ、とコートを引き、頬を赤くし微笑みながら祝いの言葉を言うティナー。それが本当に嬉しく、そのまま体を引き寄せて腕の中に押し込めた。
ヒューヒューとクルー達が茶化すが、関係ねェ。そのままティナーの肩に顔を埋めた。
…ったく、火照るほど赤くなってる顔なんて見せられるわけねェだろ。


(全く、嬉しいことしてくれるじゃねェか!)




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キッドくんおめでとう!
我が家のキッド海賊団は皆お頭大好きです。
よくわからなくなりましたが、愛はあります(どーん)

「すき。」さまに提出!ありがとうございました*

2011.01.10.
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