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ポッキーゲーム!



「今日は何の日か知ってるか」

食堂でキャスケットが豆剥きを、ペンギンがクルーの切れたつなぎを縫っていると、ローがいきなり話を振ってきた。

「11月11日?」
「…知らないっすけど」

2人とも作業を中断し、ローの話に耳を傾ける。
何の日だったか…。誰かの誕生日だったか?ローの誕生日ではない。それとも他の何かか?

「お前ら、知らないのか」

今まで頬杖をついて話していたローが、バンッとテーブルを叩く。その手元には赤い箱。


「今日はポッキー&プリッツの日だろ!!!」


その言葉に、キャスケットとペンギンは声がでない。…というより、あまりに拍子抜けたことに何もいえなかった、が正しい。

「…ああ」
「そうですね」

そういって先ほど止めた作業を再開する2人。なんで作業を止めてしまったのかと後悔をした。

「なんだお前らっ ポッキー&プリッツの日だぞ!ティナーとポッキーゲームしたくないのか?!」
「ティナーは絶対やってくれない」
「そもそもやったらやったでアンタ怒るだろう」
「当たり前だ。ティナーとポッキーゲームをするのは俺だけだ」
「「じゃあ言わないでください…」」

言うだけ言えばいいだろう、意気地なしだな。
そう返されたが、そんな自分たちの船長に逆らうほどティナーとポッキーゲームをしたいというわけではない。むしろしたら制裁が下されるのが目に見えているから誰も言い出したりしないだろう。
勿論、言わずともわかるローのティナーへの熱烈なアタック(という名のセクハラ行為)と、隠しきれないティナーのローへ気持ちはクルーの全員にわかっていることで、誰も2人を裂こうとは思っていないのだ。むしろ早くくっついてくれと言わんばかりである。

すると、食堂の扉が開く音がする。みればそこにはティナーとベポが立っていた。


「ティナー!俺とポッキーゲームしよう!」

彼女を見て素早く反応したのはもちろんローで、持っていたポッキーの箱を向けながら笑顔を向けた。

「キャス、飲み物飲んでいい?」
「うん、勝手にいいよ」
「悪い、俺にも頼む」
「はーい」

ローを見たはずなのだが、何もなかったかのように別の会話を繰り出した。
冷蔵庫から麦茶をだし、コップに注いでいくティナー。二つ分のコップをもって三人の座るテーブルへ戻った。
聞こえていなかったのか、とポジティブな考えのローは再びポッキーゲームの誘いを出す。

「ティナー、俺とポッキーゲー」
「ペンギン、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「俺とポッ」
「ベポは大丈夫?」
「俺は大丈夫だよ」
「ティナー!」
「あれ、キャプテンいたの?」

タイミングを合わせたようにローの言葉は見事に被せられ、やっと気づいたかと思えば、存在を今気づかれるという。
存在は濃いはずなのだが。

「ポッキーゲーム、しないか」
「…呆れてものもいえません」

そんなことしか考えてないんですか。とどす黒い声で言われれば、もう何も言い返せない。

「なんで変なことばっかり…。1人で食べてくださいよ、私しりませんから」

コップの麦茶を飲み干し、流し台へ置いてティナーは食堂を出て行く。
いつもなら追いかけたりしてしつこいローなのだが、今回はその場に固まり、動かない。
何かおかしいとキャスケットが様子をうかがえば、(ビジュアル的に)死んだように色が抜けて真っ白になったローがいた。

「き、キャプテン?大丈夫っすか…?」
「…部屋で1人で食べてくる」
「え、ちょっ」

ぼーっと真っ白のままティナーと同じく食堂を出て行くロー。
いつもと違うことに戸惑う、その場に残されたクルーたち。

「本当に大丈夫かな…」
「いや…ダメだろう」


まったく、ティナーも素直じゃないから、ローへの気持ちは誤魔化すばかり。ローの言葉を遊びと決めて真面目に聞こうとしない。
ローもローで格好はいいのに、ティナーのことになると少し変になってしまうから遊びと思われてしまう。
だからいつまでもくっつかないんだと思うクルー達だった。


****

部屋に戻ったローは1人、ベッドの上でポッキーの袋を開けて一本つまむ。
思わせぶりな態度をとる癖に、俺の気持ちに返事をしない。なんなんだ、本当に。俺のことをどう思っているんだ。どう感じているんだ。何故そんなに俺を弄ぶんだ。

「…クソッ」

袋から一気に何本も取り、そのまま口に入れてバリバリと食べていく。
甘ェ。
ったく、なんでこんな甘ったるいもん1人で食ってんだ俺は。だってそうだろう?本当なら一緒に食ってたはずなんだ。ティナーと。

もう自棄になり二袋目を開けて再び乱暴に口に入れてゆく。
すると扉がノックされる。返事をする前にあけられ、入ってきたのは思いも寄らない――ティナーだった。

「どうした」
「……」
「? おい」

返事がない。だが、ベッドに座ってポッキーを一本口に入れたまま喋るローに向かって歩み出す。ローの前まで来れば、ローの足に手を置き、前に屈んでくる。
…これではまるで、


「っおい、ティナー」

目が伏せられ、口にくわえられたポッキーのチョコのついていない部分を口に含んで、そっと顔が近づいてくる。
目の前の光景に驚きすぎてローはすでに固まっている。段々と近づき、ついに距離はなくなる。
触れるだけのキス。
そっと離れていく顔に、ローは未だ目を開けたまま。

「…あんな人前で誘わないでください」

そう言ってふいっと顔を逸らし、部屋を出て行こうとするティナー。ローは意識をはっきりとさせ、行ってしまわぬように腕を掴んで抱き寄せた。
そしてそのまま顔を自分の方へ向けさせ、顔を近づけ―――


「ちょ、ストップ!口の中のもの呑み込んでからにしてください!」

たはいいが、唇に触れるのはティナーの手。


「…いいじゃねぇか」
「嫌です、待ちますからちゃんと呑み込んでから」
「黙れ」


そのまま強引に重ねられた唇は、ほのかにチョコレートの味がした。



2010.11.11.
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