海賊 | ナノ

大勉強会1


薙那の部活でのことが解決し、一段落と思われていた日々。
待ちかまえていたのは…



「よかったわね、スタメンですって?」
「うん、冬から出れるの!」
「じゃあ応援行かなきゃな!」
「ありがと、ボニー」


先日、先輩との件に話が付き、冬の大会でコートにたつことが出来ると嬉しそうに話す薙那。今日はボニーも遊びに来ていていつも以上に賑やかになっていた。
昨日の部活もよく動いている姿を見た。
あいつらがコートに入り始めてから、雰囲気というか女子の纏う空気が変わったような気さえする。2年の負けたくない思いや1年の抜いてやるという思いがにじみ出る。それほどに周りに影響を与えた薙那とその友人。いい意味の刺激物が投げ込まれた。
男子の中で練習をしているときも、あいつの声はよく透って耳に入る。それが心地よくて。

「なにボーっとしてんだ、キッド」
「あ?…いや、別に」
「薙那のこと考えてだろ。ヤラシー」
「ばっ はっ?!」
「そんな動揺してたら図星ととりまちゅよーキッドきゅん」
「テメェがきゅんとかつかうな!」

ルフィやボニー、ゾロたちは薙那と大会などについて、キッドとローは口喧嘩を。いつもより少し賑やかな空間だったが、その後ナミとロビンの言葉で一気に逆転をする。

「あんたたちさぁ…薙那のスタメンとかお祝いするのはかまわないけど、再来週から何が始まるかわかってるの?」
「再来週ぅ?何かあったか?」
「知らねぇ」
「再来週ってあれだろ、駅前のケーキバイキング開始!」
「本当?ボニー行こう!」
「おう!」

ケーキバイキングで盛り上がっていく数人を見て、ああ、確かにケーキバイキングのチラシを配ってたわ…とナミがため息をつきながら頭を抑える。
そんな様子をみたロビンが、とどめの一言を発した。


「フフッ 再来週から中間テストよね」


ピシッと音が聞こえるかのように、一斉に動きが止まる5人。

「え…再来週……?」
「そうよ、再来週」
「だ、だからか!来週から部活が妙に少ないのは!」
「そういうことだったのか!俺、てっきりシャンクスが面倒くさいからだとばっかり思ってたぞ!」
「…やべ、」

その発せられる言葉にピクリと反応をするのはナミだ。

「…アンタ達、次の土曜日は覚悟しなさいよ!」


―――――――
―――――
―――



ナミの宣言通り、麦わらの一味はもちろんのこと薙那にキッドにロー、そしてボニーまでもが学校前に集合していた。もちろん話からして勉強をするわけだが、しかしその服は制服ではない。
何故ならば、

「今日はサンジくんのお家で勉強会です」
「うおー!サンジん家か!」
「舞い上がるんじゃない!あたし達は勉強しにいくのよ」
「えええー…飯ぃ…」
「文句を言わない!」

ここに集まっているのはルフィ、ゾロ、ナミ、ロビン、薙那、キッド、ロー、ボニーである。サンジは自宅で今日の用意をしているのだそうだ。

「そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「甘やかしちゃだめよ、ロビン」
「実際、昼食は食べれるんだしね。ふふ」
「やったー!昼飯はサンジがつくんだな!」
「あー…もう」
「ルフィ、サンジくんの作る料理すきだもんね」
「おう、すきだ!」

はあ、といつものため息をつくナミの姿があるのは、ルフィが居る限り絶えないのだと思う。

「ま、いいわ。とりあえず予定のメンバーはいるから、サンジくんの家に行きましょ」
「おー!」
「めんどくせェ」
「はっ 俺が教えてやろうか」
「…遠慮する」

ナミに怒られながらも、ルフィは楽しそうに道のりを歩んでゆく。その後を続くのはゾロとロビンに、道を知らない4人。嫌々ながらもしっかりと参加したキッドとローは最後尾で、前にいる薙那とボニーの会話に耳を傾けていた。

「ったく、勉強するのに張り切ってんじゃねーよ」
「あ、ボニー言っちゃだめだよ」
「あああああ!そうか、勉強すんのか!」
「…ほら、ルフィに聞こえちゃった」
「ボニー!言っちゃだめよ!」
「…悪ィ」

その会話にふふふ、と笑うだけのロビンには、やはり年上なのだと思わされた。





「ここよ」

そうナミに言われた家を前に、サンジの家を知らなかった4人は口をポカーンと開けたまま。

「ななな、なにこれ」
「マジかよ!」
「…予想外だったぜ」
「…右に同じ」

目の前にそびえるは、ホテルと呼ぶに近いレストラン「バラティエ」。雑誌にも取り上げられている有名なレストランだけあってよく知るのだが、実際こうしてみればすごい迫力。しかも知らないでここに連れてこられれば尚更のこと。

「サンジくんはここで住み込みバイトしながら学校にきてるの」
「それは知ってるよ!」
「…これが家だって言われたら、誰だって驚くだろ」

全くだと3人はローの言葉にシンクロしたかのように同時に頷く。その真剣だった顔がおかしかったのか、ナミはぶふっと吹き出した。

「バカね!レストランが家だなんて言ってないわよ」
「はあ?だってさっき…」
「レストランの裏が、家になってるのよ。そこに住んでるの。至ってふつうの家よ」

ついてきて。そう言われてナミについてレストランの横の路地を通り、レストランの裏側の道へとでる。そこにあったのは、普通の家。
後ろに大きな建物があるということ以外では、外見は普通の家が建っていた。

「…本当だ、普通の家」
「なーなー、サンジ待ってんだろ?早く行こう!」
「ってことよ。アンタ達もボケっとしてないで早く来なさい」


家を前に立ち止まっているのは初めて訪れた4人。はしゃぐルフィにそれを追うナミ、ロビンとゾロは足を動かす。心を決めたのか、ボニーが「うまい飯が食えんなら、ま、いいけど」と歩き出せば、薙那もそれを追うように前の4人について行った。
なんか、凄いとこに足を踏み入れるんじゃないかと、キッドとローは内心ビビっていた。

中に入れば本当に意外と普通で、でも階が4階あるというのには驚いた。住み込み従業員用らしい4階とオーナーの部屋のある3階は立ち入り禁止と言うことで、今日は1、2階のみの使用だという。


「とりあえず、2階のデケェ部屋に行って、立てかけてある長テーブルだしとけ。ナミすわん、案内お願いしまぁす!」
「あーはいはい、わかったわ」
「おい、男たち。ナミすわんにロビンちゃん、薙那ちゃんにボニーちゃんにやらせんなよ。テメェ等男だけでやりやがれ」

相変わらずなサンジの態度に慣れたのか、ゾロは適当に返事をして欠伸をひとつ。ルフィは楽しげに階段をドタドタと音を立てて駆け上がっていった。

「ちょっとルフィ!人様の家なんだから静かにしなさい!」
「サンジわりー!」
「いいよ、ナミさん。今こっちには俺たちしかいないから」
「それでも、ルフィのしつけはしなくちゃね」
「そう言うならロビンもしてよね。まったく」

長年連れ添ってきたメンバーには馴染みの光景も、初めて見た者には少し居づらい空気だ。サンジの加わった5人のやりとりを、蚊帳の外でみていた4人。それに気付いたのか、ナミは睨むようにこちらを見、私たちに動くよう目だけで誘導する。

「ほ、ほら入ろうボニー!」
「お、おう!」
「キッドさんもローさんも、ねっ?」
「お、おお…部屋行くのが楽しみだな!なあ、ロー!」
「ひ、昼飯も今から待ちどうしいな!なあ、キッド!」

あのまま固まってたらマジで殺られる、と本能が悟ったのか、やっとのことで動き出す。しかしその動きはぎこちなく、表情も硬いままで、4人共に口を噤んで静かに階段を上ってゆく姿はとてもおもしろかった。
その面白い姿を見たのは、1階に残っていたサンジだけだった。





「お、出来てんな」

そうして2階の大部屋に入ってきたのは、飲み物とコップをいくつか持っているサンジ。
彼女だからか、ナミは勝手におしぼりを使ってテーブルを隅々まで拭いていく。ナミにおしぼりを渡された薙那も同じく。ロビンとボニーは投げ出された男子組の荷物をまとめていた。
サンジの持ってきた飲み物で一息ついたところで、ナミが勉強会開催の合図を出す。



「はーい。じゃあこれから勉強会を始めます」
「「「はーい…」」」
「ちょっとアンタ達のためにやってるんだからね」
「「「…はーい」」」
「ナミさんの手を煩わせるとメシ抜きだからな、ルフィ」
「よーっし、お前ら勉強するぞー!」
「「おー!」」
「…わかりやすいわ」
「ルフィだから。ふふ」

やる気のなかったルフィたちをとりあえず餌でつったサンジ。うまい具合にいったようで、ナミは複雑さを押し殺して本題を先へと進めた。

「じゃあまず、教科ごとに分かれて勉強しようと思うの。しっかり教えられる人がつきながら、効率よくね」
「俺、教えられねー」
「ルフィには端から期待してないわよ。アンタはずっと教えられてる側」
「うげえー」
「おいナミ。時間配分はどうすんだ」
「そう、いいところついたわね、ロー。長すぎても続かないし、短すぎてもダメでしょう?だから一時間半がちょうどいいと思うんだけど」
「そうだな。それでもわからなければ、また明日個人的にでも学校ででも聞けばいい」
「そういうこと。何か意見がある人は?」
「はーい」
「なに、薙那」
「もしかして、教えるのも教えられるのもない人とかいる?」
「ああ、人によってはね。その人は自分の勉強とか見て回ったりしててよ」


じゃ、他にはないわね。そう言ってひとまず教科わけをし始める。勿論仕切るのはナミ。


「まず最初の一時間半。一つ目は古典で教えるのは私。生徒はルフィと薙那」
「ナミかあ」
「…ぼったくられないようにしないとね」
「えーコホン。二つ目は歴史でロビン。生徒はゾロとロー」
「…コイツとか」
「つーかお前出来ない教科とかあったのか」
「ちっと出来ねぇだけだ」
「三つ目は英語でサンジくん。生徒はキッド」
「チッ 何でヤローに教えにゃならねぇ」
「コックかよ…」
「はいはいはーい!とりあえず勉強道具もって、テーブルに三カ所にわかれて!話や文句はそれからよ」


はーい、と気だるい返事をし、各自勉強道具を持ち寄り分けられたメンバーで固まり始めた。





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お勉強風景は次からです。

2011.03.08.
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