つながり
段々と昼食のメンバーが2人増えたことに慣れ始めた頃。薙那は喋り出すことは少ないが話を振られれば答えた。
もっとも、まだ敬語なのは変わらない。
「今日はサッチが寝坊したから買い弁なんだ!」と言って授業が終わると号令を待たずに一目散に売店へと駆けだしたルフィ。その後すぐにキッドとローが3組へ訪れたがルフィはまだ帰っては来なかった。
しばらくして両手いっぱいのパンやらお菓子やらを抱えて帰ってきたルフィは、いつかと同じく誰かを引き連れてきたようだ。
「たっだいまー」
マルコにちょっと奢ってもらった!と笑顔で話すルフィ。
その影から現れたのはピンク色の長い髪を揺らしていた。
「あーもー腹減ったあ」
「ボニー!」
「おおっ 薙那ー!」
その姿に素早く反応したのは薙那。ばっと座っていた椅子から立ち上がり、ボニーの元へと駆けて行く。
「珍しいじゃない、ボニーがくるなんて」
ぼふっとボニーに抱きつく薙那。それに答えるようにむぎゅう!っと抱き返す。
「面白そうなこと聞いたからきたんだ」
未だに薙那と抱きしめあっているボニーが、横にいるキッドとローを見てニヤリと笑った。
「キッドにローだとはな」
「…ボニーと知り合いなのか、薙那」
「はい。ボニーはルフィの大食い仲間でして仲良くしてます」
「なー!」
再度抱きしめあってボニーは、ぐりぐり薙那の頭をなでる。やめてよ、と言っても笑顔でいるため薙那もこのじゃれ合いが好きなようだ。
「そうだ薙那。お前秋の大会でるのか?」
「んーん、でないよ」
「なんだでないのか。でるなら見に行こうと思ってたんだけど、それならいいな」
「ごめんね。あ、でも」
そういって長く抱き合っていた身体を離すと薙那はキッドを視界に入れる。いきなり自分の方を見られたキッドは顔には出さなかったが内心驚いていた。
「キッドさんはでますよね」
急に振られた話題に「ああ」と簡単な返事しかできない。
「あんたまだ先輩に抗議してないの?」
「先輩相手にそう簡単に言い出せないよ…」
「私から彼に頼んでみましょうか?」
「わ、悪いよ。フランキー先生に」
「でもこのままじゃ来年まで全然できなくなるんだぜ?薙那ちゃん」
まったく仕方ないわねとナミが呆れかえる。仲間内ならわかる話題だったのか、サンジやゾロも話題に乗っていた。キッドも同じ部活だからか詳しくはないが事情は知っている様子だ。
この場で知らないとなればローくらいなもので、1人気にくわない顔をしている。
「…部活でなんかあんのか」
こんな事あまりしたくないが、話題に一人乗れないのは嫌なのでこの場は致し方ない。
隣にいるキッドに小さな声で問うてみた。
「あ?ああ…女子はな、新メンバーのスタメンが全員2年でよ、1年はベンチっつう、形だけで試合にでれないらしいんだ」
「ほう…本当は2年より上手いのに、か」
「先輩から聞いただけだったが本当みたいだ」
2人が小声で話している間、薙那は皆に先輩に文句いったら機嫌が悪くなって部活がスムーズにいかなくなって色々大変になるんだと言うことを懸命に説明をしていた。
するとあちらの輪からボニーが抜け出し2人の方へ入ってくる。
「なんだボニー」
「まっさか…お前らがなあ?」
にやりと何かたくらむような笑みを浮かべる。いたずらを仕掛ける子どもの様なその笑みに冷や汗を垂らす2人。
「薙那は抜けてるからな」
「…それがなんだ」
「あいつもお前らに目を付けられるとは気の毒だって思っただけ」
「だから何が言いてえんだてめェは」
「薙那を振り向かせるのは大変だから、頑張れよってことだ。まああたしは応援なんか微塵もしねぇけど!」
楽しませてもらうぜ、と2人の肩を叩き席を立つ彼女。
他に用があるからと薙那に一言言って出て行く際、2人をみて再び笑っていった。
「…なあ、俺たち薙那が好きだと思われてんのか?」
ボニーの姿が消えていったドアを見ながらキッドは小さくローに尋ねる。
「なんだ、キッドは違うのかよ」
「はっ?!」
「気になるってことはそうだろ?お前気付かなかったのか」
「………いや」
確かに気になるには気になるが、…まさか予想した答えが返ってこなかったなんて。
しかし事実を口にされ、下手な返しさえも思いつかない。
「…本気で恋したことねェのか」
「……おめーはあんのか」
「あるぜ。小学生ン時の保健医」
「お前ならありそうだよ」
真剣な話をしていたと思えばこれだ。まあこれがローなのだと最近知った。
以前は敵グループ同士、かかわり合いなんて持っていなかったから当然。
そう、もし俺が、本気だったなら
ローも本気、と言うことになるのだろうか。
→――――
風のように去るボニーちゃん。