慣れましょう
「来てやったぞ」
「その言い方ムカつくから今すぐ帰んなさい」
あれから数日たった今日も俺はローと共に昼食を持ってルフィの元へと訪れる。
部活のあとに俺と喋った時のようには話さなかったが、薙那は俺たちの会話を聞いてクスクスと笑う。ナミの言っていた通り本当に人見知りが激しいらしい。目が合うとすっとそらされることもしばしば。
「そう言えば。キッド、あんた薙那と部活後に話したんですってね」
急なナミの問いかけに、昼食の買い弁したおにぎりをのどへ落とす。
「ああ。それがどうかしたのかよ?」
「この子人見知り激しいのよ?よく喋れたわと思って」
「あ、それは」
ナミがサンジの特製弁当をつついていた箸をキッドに向けながら話すと、今まで聞き手側だった薙那が口を開く。
隣にいたローも興味深いのか、食べていた調理パンを食べるのを一旦止め口をつぐむ。
「入学してからずっと知ってて、部活で見かけてたから…かな。キッドさんはそれまで気づいてなかったみたいですけど」
ニコリと笑っていう薙那にナミはピクリと眉を動かした。
「あんた気づいてなかったの?」
不機嫌な顔をキッドに向けるナミは誰が見ても怖いほどだ。それよりも何だこの蔑んだような目で見られてる感がするのは。
「ばかだわ」
「し、仕方ねぇだろ。女子の方なんか見てらんねぇよ!」
「あら以外と部活熱心なのね」
薙那と同じく聞き手側だったロビンが話題に乗ってくる。見た目からして遊び人だと思ったわ、と言われずともそう思われていたことが伝わった。
「てめェら…!」
ロビンに刃向かうのはフランキーに刃向かうのと同じよ、とナミに言われるとぐっと手出しができなくなる。
あのテンションで英語の教師。それでもってあの迫力であるから、ど突かれたら半端じゃないのはわかる。ましてや恋人であるロビンが関わるとなったら…想像したくない。
「まったく…その見た目だから苦労するんだ、キッド」
「お前に言われたくない」
「ローは不健康そうなイケ麺だもんなー!」
「何だそのイケ麺って」
「ん?ナミがいってたんだ!ずっと聞きたかったんだけどよーイケ麺ってうまいのか?」
「それイケメンだろ…」
「え、食いもんじゃないのか?!」
えーそうなのかー…じゃあおれいけめんいらねぇ。そう言って食べ物じゃなかったのが気に食わないルフィはふてくされる。
ルフィにイケメンと言う言葉を教えた張本人であるナミはそんなことなど知らないという態度でお弁当を食べるのを再開していた。
「まあ俺は不健康そうなイケメンで十分だ」
「イケメン否定しねぇのかよ」
「しねぇ。これ以上のイケメンがどこにいる!」
ローに全力で返されたので返答に困るキッド。その2人に向かってふっと吹き出す声がした。
「えっあ、ごめんなさい!別にそんな自信満々なのがおかしいわけではなく!」
吹き出す声の方を見れば正体は薙那。しかし見返した瞬間にぶんぶんと手を横に振りながら謝ってくる。全力で笑ったのを否定する姿はとても必死で逆におかしかった。
「別にいいのよ?笑ったって」
「こいつらこれからも此処に来るようになるだろうしさ」
「私たちみたいに接した方が気が何かと楽だと思うけど、ね」
「ナミ…サンジくん…」
チラッと様子をうかがうようにこちらを見てきた薙那にローが答えた。
「まあそう言うことだ。変に気を使うこともねぇ。何かあったら言えばいい」
フッと笑えば薙那も気が抜けたのか「はい」と言って微笑んだ。
「あの…お言葉に甘えますが」
「なんだ?」
「ず、ズボンのチャックが、下りていると思われます…」
視線が一気にローの下半身へと向く。
そこは明らかに、チャックが全開であった。
足を開いて堂々と座っている姿と対比して改めてみるとなんとも滑稽。
「ブッ」
誰かが最初に吹き出せばその後には笑いが続く。おとなしくお弁当を食べていたゾロも、ロビンさえも笑っていた。
「っくく、今日からお前は不健康不健全なイケメン、だな…っロー!」
その言葉にまた笑いが起こる。
だがしかし、その後に続くローの言葉に退いたのは言うまでもない。
「悪くねェ」
――――――――――――
いやでも不健康で変態なイケメンは自覚しているようで(殴)
どんな事があってもイケメンは外さないのでいいのです。…いいのか。
2010.
加筆修正:2013.01.12.