海賊 | ナノ

気になるあの子




「ったく、なんで俺たちがお前んとこ行かなきゃなんねえんだよ」
「にししっ たまにはいいだろ?」
「何の得があるってんだ…」
「よし!じゃあ特別にサッチの作った卵焼きをやろう!」
「「…そんなんでつれるかよ」」


こうしてロー、キッドはルフィに連れられルフィの仲間のいる教室へときた。
たまたま購買で頼んだものが同じだっただけだ。しかしそのハムたまごデニッシュスペシャルが残り一つだったのだから睨み合いになったのは言うまでもない。
結果、勝者はルフィ。悪ぃな、といってコロッケサンドを2人におごった彼はなんと太っ腹か…と思ったのも束の間、俺の教室に来い!と半ば無理矢理つれてきて冒頭に至る。

そしてルフィが教室の扉を勢いよく開けると、中にいた仲間たちが声をかけた。


「ちょっと、遅かったじゃない」
「わりィわりィ!キッドとロー連れてきた!」
「…なんでそこに繋がるんだ、てめぇは」

ルフィの後ろにいる2人の姿を確認したナミは「げっ」と露骨にイヤな顔をする。その隣にいる3年のロビンはふふふ、と笑っていた。ゾロはめんどくさそうに箸を口に運び、サンジは自分の作ってきたナミのお弁当を片づけていた。

「やめてよね、ましてやこの2人なんて」
「いーじゃねーか別に!」
「ばかっ いーわけないでしょうが!1年の不良の中でトップ3なんだからね!」
「ナミはケチだなぁ」
「やかぁしい!」

ごちん、とナミのグーを頭に食らったルフィは思ったより痛かったのか涙目になっていた。
なんでこんな奴についてきたんだかとキッドとローが思っていると、ふと見たこの集団に見慣れない普通の女生徒が加わっているのに気づいた。


「おい、ルフィ」
「ったく、ナミのはいてぇんだから加減しろよー」
「加減してたらやめないでしょ」

未だナミのげんこつにグチグチいっているルフィはローが呼んだことに気づかない。
それにブチっとなにかがきれ、先ほどより少し大きな声で呼ぶとルフィは気づいたようだ。

「おい、ルフィ!」
「んあ、なんだ?」
「新顔入ったのか?全く普通の顔してるが」
「新顔?」
「あいつだよ、あいつ」

キッドがくいくい、といつものメンバーに混じっている女生徒を指差して言った。
指さされた本人は驚いているようで食べ終わったお弁当箱を片づける手が止まってしまった。

「え、わたし…?」
「そう、お前」
「ちょっと、だめよ!」

女生徒の問いかけに答えたローだが、会話はナミに遮られてしまった。というより2人の視界に女生徒を写さないように前に立ちはだかったのだが。


「この子は普通の子で、私たちの仲間じゃないから手は出さないでよね。絶対!」


ぐいぐいと圧されながら了承するとナミは潔く引き下がる。
分かればよろしい、と先ほど座っていた席へと再び座った。

「(随分と大事みたいだな)」
「(…ああ)」
「(何か隠しているわけでもなさそうだし、な)」
「(ルフィのあの性格だ、“お友達”はいっぱいいんだろ)」
「(それもそうか)」


ルフィのあの性格だ。不良といえば風紀を乱す存在としてはそうなのだが、なにしろあの性格だ。“やんちゃ”ですまされてしまうことだってある。だからこそこうして明るく友達と言う存在が多いのだろう。
ローも素直に納得してしまうほどだ。
しかしキッドにはなにかが引っかかった。どこか記憶の彼方にいたきがするのだ、この女生徒が。すれ違ったりしただけなら微塵も覚えていない。かといって何か特別な仲でもない。
中途半端に覚えているのがなんだか気持ちが悪かったが、ルフィがまたナミに怒られ始めたのでそんなことすら忘れローと共にルフィに呆れかえった。





4時間目終了のチャイムが鳴り、皆昼飯だとそれぞれで集まっている。キッドはよく行動をともにするキラーがクラスの用事でお昼は無理だと言っていたのを思い出し、仕方ないので屋上でも行くかと席をたったとき、黒い影がキッドにかぶった。

「よォ」

不健康そうな隈をつくり、それでも周りからは騒がれるほどの多分イケメン。それがキッドを見下ろし不適な笑みを浮かべていた。

「…なんだ、ロー」
「ルフィんとこ、いかねぇか。昨日の女気になるだろ?」

ローの言葉にピクリと身体が反応する。ギロリと睨むとローは先程より不敵に笑った。

「キラーはいないんだろ?」
「今日は部活にでる。昼にルフィに構って無駄に体力使いたくねェ」
「堅いこと言うなよ。だから石頭って」
「あ、キャプテーン!」

ローがキッドに禁句を発しようとしたときだ。廊下から誰かを呼ぶ声が聞こえる。
この声は間違いなく、あの声だ。


「…ベポ」

教室のドアを見ると白クマがたっていた。手にはちょこんとお弁当箱を持って。

「キャプテン、今日お弁当作ったから食べよ!」
「そういうことは朝言っていけ」
「ごめん、言うタイミングがなくて…」
「まあいい、いくから待ってろ」

キッドに視線を戻すとチッと舌打ちをした。

「明日だ」
「は?」
「明日は行くからな。覚えておけ」
「…へーへー」

そうは言ったが全く面倒くさい話だ。
確かに記憶にあって思い出せないのはなかなか悔しいのだが、ローがあんなに興味を持つなど何かあるに決まってる。だからこそその厄介なことに巻き込まれたくないのだが。
仕方ねぇとため息をつき屋上へと足を運ぶのだった。



――――――
――――
――


午後の授業が終わり、いよいよ部活の時間。昼食の後は何だか授業が早かった。それは部活が楽しみだからだろうか。

キッドの所属しているバスケ部は男女共にこの地区では強豪と言われる部活だ。卓球など運動部は外中問わずに強いのであるが、中でも体育館の権限を強く持っているのがバスケ部だった。
今日の体育館の割り当ては全面男女バスケ部。ランニングとストレッチがおわり、まずは女子が顧問のベックマンからメニューを聞いてその次に男子。

2学期になり3年がいなくなって主体になるのは2年。1年のキッドにも飛び抜けてうまいために混じることもあるようだが、女子はそれがなく色々ごたごたがあるようだった。
(女子も大変だな、本当に)
そう思い、ベックマンからのメニューを聞く番がかわるときに女子へと目を向けると、なんとそこには記憶にあるがなかなか思い出せなかったあの女生徒の姿があったのだ。

キッドはびっくりしてしまい身体が一瞬固まった。
すると向こうも気付いたのかバチっと目が合ってしまった。合ったはいいが昨日のあの会話だ。…会話と言う方が間違っているかもしれない。ただ女生徒は「どどど、どうしよう」という態度を全身で表していたため、キッドは意識もせずため息をついていた。


「お前、部活終わったら水道ンとこで待ってろ」
「…え!あ、は、はい!」


そう言って後れをとったのを取り戻すように女子のかたまりが出来ている方へと駆けていった。俺も先輩や同級生から後れをとった分を縮めるように小走りでベックマンへと駆けてゆく。
とりあえず部活に集中しよう。話はそれからだ。

そう思った俺は部活のことしか頭に残らず、すぐに女生徒のことなど忘れていたのだ。





女子は男子より先に終わったのか、もう2年の姿は無く片付けの1年が数人残っているだけだった。
男子は少し長くやっていたため遅れている。ストレッチをして今日の疲労をためないように全員でクールダウンを行っていた。2人ペアで俺が先輩に背中を押されていると、部長が俺を呼ぶ。

「おーい、キッドー」
「なんすかー」
「呼び出しだぞ、女子の1年エースに」

なんだ、モテんじゃねぇか!とからかわれると、そういえばあの女生徒に終わったら待ってろと自分で言い出したのを思い出した。

「すんません、行っていいっすか」
「おー、行ってこい行ってこい。他のやつ誘うから」
「うっす」


俺のストレッチは終わりかけていたからいいけれど先輩には申し訳ないと感じたが、とりあえず待たせているであろうあの女生徒の元へいこうと足取りを早めた。

シューズを脱ぎ目的の水道場へ行けば縁に寄りかかっている姿をとらえた。歩み寄った俺に気づいたのか、寄りかかっていたのを正して俺と向き合う。


「おつかれ、さまです」
「ああ。そっちも、な」
「はい」

…という続けづらい会話になるのが普通なのだろうか。なんだか調子が狂う。ルフィと話がかみ合わないのはよくあるのだがそれとはまた別だ。
とりあえず聞きたいことがあったのだが何から聞いていいかわからず黙っていると向こうから口を開ける。

「あ、えっと、その。ルフィたちと仲良くさせてもらっている可失薙那と申します」
「あ、ああ。…ってお前、今年入学した女子期待のエースか?」
「そう呼ばれてる…みたいです」


だから記憶の隅っこに残っていたのか。確かにさっき先輩もそう言っていた。
俺も1年の中で一番上手く期待されていた。同時に女子にも期待されているやつがいるときいて興味を持ったのだ。
参った。こんなにも近くで部活をしていたのにあのときに気づかないなんて、馬鹿じゃねぇのか、俺。まあ女子の部活に興味津々な訳じゃなかったから見ていないのは当然だったのだが…。

「キッドさん、は、ルフィたちと仲が良いんです、か?」
「ルフィたちと?馬鹿いうな。仲良くなんかしねぇよ、他の不良グループのリーダー同士なんかとは」
「あ、そうなんですか…すみません」

なんつー会話だ、長く続かねぇ。こんなに会話がし辛い相手は滅多にいないと思う。
…沈黙がいたい。

「お前…本当にルフィたちの仲間じゃねぇんだな?」
「ち、違いますよっ 不良だなんて、聞いたときびっくりしたんですから」
「…本当らしいな」

そう、噂に聞いた女子のエースはこの学園が不良の多いところだと知らずに入ったのだとか。
バスケに熱心なのはお互い様でそういう姿勢で取り組むやつは尊敬する。しかし自分の入学する学校の風紀や雰囲気、事情なんかはきにならなかったのか、疑問に残る。


「あの、」
「あ?」
「っに、にらま、ないで…ください」
「、ワリ。で、なんだ?」
「べ、別に違うグループのリーダー同士、仲良くしてもいいと、思うんです、」

ルフィ、お二人といて嬉しそうだったから。
そう言って柔らかく笑った顔が妙にきれいでドキリとする。

「ということなので、良かったらまた明日、きてください」
「(どういうことかわからねぇが)…気か向いたらな」
「そんなこといわずに」
「……ああ」

話が一段落付くと、女生徒―――薙那の後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、ではまた明日。失礼します」
「ああ、悪かったな。お疲れ」

ぺこりと頭を下げてパタパタと走っていく彼女。彼女を呼んだ女生徒がこちらをみていたが睨みもせず何もしなかった。
それは先ほど彼女に睨まないでと言われたからだろう。

そして俺も部室へ行くか、と背を向けて歩き出した。



―――――――――



次の日の昼休み。約束通りローに連行された俺はルフィの教室へと足を運んでいた。


「可失薙那と、申します。女子バスケ部所属、です」

キッドとローが昼食を手にルフィのクラスへと来ると何故か薙那の自己紹介になった。


「まったく…びっくりしちゃったわ。ルフィの提案には」
「いーだろー?キッドもローも一緒にいんのに薙那のこと知らないのはいやだろ?」
「まあそうだが」
「ちなみに薙那は人見知りが激しいからその辺覚悟しておきなさいよ、二人とも」


ナミがサンジ特製のお弁当を摘みながら、はっきりという。
昨日は普通に喋ってたのにな。
なんてのは紙パックのジュースを飲みながら考えていた。

キッドは、同じ部活という特権を少なからず持っているかもしれないと思ったのだった。




2010.
加筆修正:2013.01.12.
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