海賊 | ナノ

鼓動にふれる





順調な航海の途中、宴の準備が成されていた。その理由として突如現れた海王類をしとめたことがあげられる。
大量の食材が手に入ったことにより、今夜は宴が催される。…といっても海王類の肉の殆どはルフィのお腹に消えていくんだろうけど。

サンジくんが忙しく働く中、私は手伝いでお酒を運んでいた。ゾロなんかも結構飲むし、いつもより多めの方がいいかなあ。
そんなことを考えながら小振りながらもお酒の樽を運んでいると、見えない足下で躓いてしまう。傾く身体にどうしようかと考えるが、もう間に合わない。
とりあえずお酒を潰さないようにと自身が下敷きになるように反転させる…としたかったのだが、何者かによって阻止されてしまう。



「大丈夫か」
「ゾロ?」
「ったく、もうちと小振りの樽選べよ」

うまく私の手から樽を奪い、私の身体を脇に抱えるようにしていた。なんとか倒れなかったがこの荷物状態から早く抜け出したい。
そんな私に気付いたのかゾロは私を解放する。

「あ、ありがとう」
「おー。ま、気を付けろ」

ぽんぽん、とゾロに頭を撫でられる。背が小さいためやり返すのは不可能だ。

「おいゾロ!ティナーから離れろ!」

大人しくゾロに撫でられていると、向こうの方からルフィがどすどすとこちらに向かってくる。
な、なんでそんなに怒ってるの…?

「ゾロ、今ティナーを抱きしめてただろ!」
「はあ?」
「だろ!」

ゾロの隣に立っていた私を引き剥がし、私との間に入り込むようにルフィがゾロに問いただす。抱きしめて、はないと思うけど。

「脇に抱えただけだろ」
「でも抱きしめただろ!」

後ろからだからよくわからないが、多分ルフィの表情は凄いのだろう。ゾロがとてつもなく苦い顔をしている。

「る、ルフィ、ゾロは転けそうになったのを助けてくれたの」
「おれはゾロに聞いてんだ!」

う、振り向かれずに話されるのはちょっと寂しい。

「あーまあ抱き寄せたには抱き寄せたんじゃねーの」
「そうだろ!」

観念したらしいゾロはルフィが納得する返事を口にする。見方を変えればそうなのだろうが、当の本人からすればやはり違うわけで。でもルフィが納得したらしいのでゾロはそれでいいらしい。
面倒くさくなる前に立ち去ろうと魂胆が丸見えなゾロは酒樽を抱えて立ち去った。と同時にルフィが私を振り返る。


「ティナー!」

勢いよく抱き寄せられ、筋肉質なルフィの胸へと顔が直撃。い、痛いんだなこれが。

「よかった、ゾロに何もされてねーな!」
「されないよ」


だって本当に転けそうになったのを助けてもらっただけ。それに私がルフィと恋仲なのはクルー全員が知っていることだし、ゾロは私を妹みたいに思ってるだけだ。余計にあり得ない。
強く抱かれる腕の中、もぞもぞと体勢を変えていく。背中に腕を回して私からも抱きつけば力は更に強くなった。

「…びっくりした」
「ゾロが?」
「お前が!転けるときはおれを呼べ!」
「ええー、無茶だよ」

咄嗟のことだ、呼ぶなんて無理に等しい。それでも呼べというルフィは絶対に退かない。
とん、とルフィの心臓の位置に耳を寄せる。音と、肌で感じる鼓動は速い。


「ティナーが転ぶのと、ゾロが抱きしめてたのが見えたから…飛んできた」
「…うん」

わかる、わかるよ。だってこんなにも鼓動が速い。本当に飛んできてくれたんだよね。
私が胸元にすり寄れば頭上からはため息が聞こえる。

「危ないことすんな」
「樽運んでただけなのに」
「じゃあ何もすんな!」
「それは駄目だよ」


只でさえ戦闘弱いんだから、ただ飯はダメだ。船長が許したとしてもそれは私が許せない。
ごん、と音はでなかったが、私の頭にルフィが顔を寄せたことに気付く。

「危ないことは、すんな」
「うん」


先程よりも緩くなった腕。優しさに包み込まれながらまたすり寄る。
もう少しだけ、この鼓動を感じさせて。





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ゾロくんごめんよ。
船長といちゃいちゃさせたいだけで悪気はないんだ!

02.04.
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