海賊 | ナノ

あなたを閉じ込めたい




最近、怪我をすることが多くなったような気がする。カルテの端で指を切ったり、足を角にぶつけたり、小さな傷が多くなった。
そのたびに俺は丁寧に手当てを行う。
看護助手の身で本当は治療処置は出来ないが、小さな怪我になら対応できる。少し怪我が大きくなるとティナーの指示に言われるがまま治療する。

その対応をする度、俺のなかで何かが渦巻き始めていた。





ガシャン、と金属音が聞こえた。何事かと手術準備室へ行けば腕から血を流したティナーと散らばった医療具を集めている下っ端クルーがいた。


「おいおい、大丈夫か?」

扉の前で立っていると、後ろから様子を見にきたバンが部屋の中へ声をかける。

「あ、バン、キャス…ごめん。手が滑っちゃって」
「滅菌済みのやつか。うわ、血ィでてんな」

ティナーは前腕から見事に血を流している。バンがその腕をとり、傷の深さを見た。そこまで深くないようで慌てる素振りはしていない。
ティナー自身もそこまで酷い傷ではないとわかっているのか、慌てずに肘関節部を抑えて止血している。

「後はそいつと俺がやっとくからティナーはキャスケットに手当てしてもらえ。その傷、メスで切ったろ」
「うん。頼むね、バン」


申し訳無さそうにバンに謝って俺の方に歩んでくる。俺はただ「こっち」としか言えず、そのまま歩き出す。とりあえず床に血痕が残らないようにタオルで前腕を巻いた。
此処からだと治療室やティナーの部屋より俺の部屋の方が近い。そのまま俺の部屋で手当てをした方が早いだろう。

部屋につくまでも、部屋についてからも、俺は必要最低限の言葉しか発しなかった。自分でももっと心配しているのだから声をかければいいのにと思う。
しかし何を言ったらいいか、頭が働かない。
ダメだ、このままだと――――


「キャス?」


無意識に、ベッドに座っていたティナーの上に跨がり両手を掴む。未だ血が流れ続けているが構わない。
自分の手が血で汚れようとも、涙で濡れようとも、きっとティナーのものならば嫌だとは思わない。むしろ、むしろ……。


「……っ、い」



痛がるティナーだが離しはしない。
そう、絶対に離しはしない。

ちゅ、ちゅ、と血の溢れ出す傷口に唇を寄せる。鉄の味が口に広がっている。じたばたと足を動かしたりしているが、俺が上に跨がっているため特に効果はなく逃げ出すことは出来ない。
ティナーは諦めることなく俺を押したり、何とか逃げようと身体を動かしている。俺も逃がさぬように手首を掴む力を強くした。

「キャス…ッ 痛いよ」

震える声が耳に届く。届いているにも関わらず、俺は何も答えず、止めず。届いてはいるのだけれど。

「…、いっ、た…ぁ」

いよいよ本気で泣き出し始めたティナー。ポロポロと涙が零れてツナギに点々と染みを作っている。
俺は掴んでいた手を緩め、ティナーの顎を掴む。そうして瞳から頬へと零れた雫を舌で掬(すく)う。先程の鉄の味と塩の味が混じり合って口の中が変な感じだ。


「や、…っ」
「ん…ん、」
「、っふ、…うう」

泣きながら俺の袖を震える手で握ってきたのは小さな抵抗か。
声を噛みしめて涙を流す姿を見直し、なんて可愛らしいのだと手を離す。同時に涙を掬うのも止め、ぎゅ、とティナーの身体を抱きしめた。


「お前はさ、何でそんなに血を流すんだよ」
「っ、血…?」
「何でそんなに頑張るんだよ、何でそんなに怪我するんだよ、何で俺のいないところで危ないことしてんだよ、何でそんなに、そんなに…無防備に晒すんだよ」
「きゃ、す…なに」

ギリ、と唇を噛む。これ以上口を開けば、奥底に溜めていたことが簡単に出てしまいそうになる。
噛んだ唇から滲む血の味。
口内に侵入することのなかったそれは、唇からそっと逃れてゆっくりと線を描く。

「ッ…俺は」
「う、ん?」


俺は、全てを


「おまえのすべてが、」


全て、全て
なにひとつ残ることなく、全部


「ほしいから」





俺だけのものに




「だから、なあ。ずっと俺しかみれないようにしてやる」







あなたを閉じ込めたい



想う程に強く思う。
触れる度に捕まえておきたいと。

その赤が流れる度に示したくなる。
お前の全てが俺のものだと。

全て全て全て、何もかもを
俺以外のやつになんか、見せたくない。



これが俺のエゴだとしても。







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独占欲丸出しなキャスケットくん。
監禁まで行かなかった…不完全燃焼。・゚・(^ω^)・゚・。.
また続き書きます!監禁が書きたいので!
タイトル→Mr.Princeさま

12.07.11.
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