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::純白の愛を君に

黒い石が白に変えられていく。しかし、白の主たるハトリはどこか不服そうに頬を膨らませ、「ひかりくんだよ」と次を促す。
はいはい、とひかりは自分の手持ちの黒を思った場所に置こうとして、

「あっ」

ハトリの声に、手が止まる。彼女の方を見れば、手で口を塞いでじっと盤を見つめていた。成る程、ここに置くとハトリとしては痛いのだろう。実際、ひかり自身もチャンスだと思ってそこを選んだのだが。
試しに石の位置を動かすふりをする。うん、と、手に阻まれくぐもった声が聞こえた。ここに置けばハトリに逆転のチャンスが生まれるのは読めている。

「……どうすっかなぁー」

こっちかな、それともこっちか、と石の行く先をコロコロ変えてみれば、ハトリの眉が上がったり下がったりする。口を覆う手が解けていく向こうで、口角も上がったり下がったりと忙しい。彼女の反応の変化が面白くて、しばらくそうしていたい衝動に駆られてしまう。

「もうっ、早く!」

けれど彼女が急かすものだから、仕方ない、と腹をくくる。お望みならば、ひと息に攻め滅ぼそう。

「じゃあここ」

「ああーっ!」

彼女のか弱い悲鳴をBGMに、白が黒に反転していく。先程までは拮抗していたが、瞬く間に黒が圧倒的優勢になった。ここから白の劣勢が覆ることはないだろう。
………さて、このまま彼が勝つことは確定したのだが。そうなった時、彼女はどんな顔をするだろう、と、ひかりは考える。悔しそうに唇を引き結んで、もう一回やろう!と言ってくるのだけはほぼ確実だ。
…なら次は負けてあげようかな、なんて考える自分がいる。すっかり彼女に甘いのは自分自身がよく解っているし、それでいい。誰かを甘やかす余裕なんてないはずなのに、彼女には、ハトリだけには惜しげも無く施したい。自分の全てを捧げたいのだ───初めて共にありたいと願った女性だから。
 

2018.03.05 (Mon) 18:54


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