Venusfliegenfalle

・R-18。性描写有り。
・デリック×日々也。


よく、ミイラ取りがミイラになる、と言うが、まさしく今の状況こそそうなのではないかと疑う程だった。彼を騙しているのは俺だが、まるで騙されているのは此方な気がしてくる。
彼の存在は、香しくもミステリアスな香りを放つ。毒花なのではないだろうか。それでも俺は吸い寄せられてしまう、それが男の性と言うものだ。



日々也と出会ったのはとあるチャットである。画面の向こうの、見知らぬ、おそらく女の子が運営するチャットルームだ。
子供か大人かもわからない人間ばかりが集まる中、日々也は異彩を放っていた。ネット語を駆使する人間を、いつもの俺なら絶対に声をかけない。引きこもりネットオタクに、一部分だけ突出してアクティブな俺が気に入ってしまったなんて今でも信じられない。
ただ、ほんのちょっと下ネタ方面でからかってやった時に、内緒モードを使ってきた、みるふぃいゆさんの言葉に驚いただけだ。そういうの、やめてください。
その時は単なる敬語だったのだが、あっさり謝り内緒モードで話している内に、徐々に分かってきた。まさか一昔前のネットスラング使いの性別不詳年齢不詳の人物が、実はウブでお上品なお嬢様だったと誰が見抜けただろう!
みるふぃいゆさんのようなタイプは近寄ったことのなかった俺は彼女が発する言葉のひとつひとつが新鮮だった。俗っぽいことはネットを介してしか知らない、と言う彼女は箱入りの中の、更に箱入りな、マトリョーシカ娘だ。でもそういう女の子の方が身持ちも良いだけにスリリングで美味しんだ。心も体も男を知らないならば、きっと極上なのだ。
我ながらクサいと思う台詞を吐いていただけで彼女は簡単に釣れた。会いたい、というメールが来た時は、三ヶ月とはこんなに長かっただろうかと眩暈がした。斯して、俺はみるふぃいゆさんのご自宅にお呼ばれしたのである。彼女の好物のミルフィーユの箱を片手に、電車とバスに飛び乗ったのだ。
しかし、予想以上にみるふぃいゆさんのお宅は遠かった。池袋から片道何時間もかかったその山中は、駅前こそ田舎の山村であれど、示された場所へバスとタクシーを乗り継いで行く内に日本では無いかのような錯覚を受けた。海外旅行をしたことはないけれど。
静まり返る湖をぐるりと半周した先に、豪邸は建っていた。まるで白鳥だかアヒルだかの出てくる湖のようだ。舞台が整いすぎている。タヌキに化かされた気分だった。
柔らかな日の光が降り注ぎながら、ほんの少し霧の立ち込める風景は、魔法の森と言われれば信じてしまいそうだった。
タクシーは屋敷の前で止まり、下ろされた俺は、透かしの装飾の入った門を見上げていた。装飾の天辺に見たことも無い青い羽をした美しい蝶が大人しく留まっていた。彼を飛ばさないように気をつけながら、門の片側を開けようとすると門の端、煉瓦の塀の中に、インターホンがあった。ここら辺は文明の利器があるのだと、一気に現実に引き戻された。
インターホンの上の表札に、金色のアルファベットで、ORIHARA、と書いてある。おりはら?折原か。どうやらみるふぃいゆさんは日本人らしい。こんなところ住んでいるからもしかして外国人なのかと思ったが、そうではないらしい。帰国子女という可能性は捨てきれないが。どちらにせよ、俺は彼女が食べられればそれでいいのだ。既に交通費だけでホテルに入れる金額に膨らんでしまったし、元は取らないと。極上の良い女でありますように!
インターホンを押すと、俺が名乗る前に女性の声が、お待ちしておりましたデリック様、と挨拶をした。ガチャンと門が自動で開いていく。青い蝶はひらひらと飛び立つと俺を招くように、邸宅へと先導する。
門の奥は広い庭園が広がっていた。綺麗に刈り込まれた生垣が迷路の如くうねっている。成程、蝶の案内がなければ迷ってしまうところだった。ところで正確に出口を目指すこの蝶はロボットなのだろうか?
途中の生垣から蔦の絡まるアーチに変わった。白と黄色の薔薇がいくつも咲くアーチの、壁面の煉瓦には虹のようなカラフルな尾羽を持った小鳥が留り、囀っている。どんなファンタジーだ、ここは。すごいけれど、窮屈な気分だ。やっぱり俺は池袋のような雑多な街が好きだ。たとえみるふぃいゆさんが絶品だったとしても、次は来ないな。
長きに渡る迷路を抜けた俺は、森の奥へ去って行く蝶を見送ると、正面の大きな豪邸を見上げた。呆れるほどに高い。白い壁には傷一つなかった。ここまで綺麗だとキツネにつままれてしまっているのではないだろうか。
どうしていいか分からず、手持ち無沙汰になってミルフィーユの入った箱を持ち替えていると、ガチャリと邸宅の扉が開いた。紺色のスカートに白いエプロンをかけたメイドさんが、ようこそいらっしゃいました、と中へ案内した。やけに値段の高い喫茶店かソープにしかいないと思っていたが、本当にこんな人いるんだ。
建物の中はそれはそれは広かった。童話の中に出てくる城に違いないようだった。高いところに設置されているステンドグラスからカラフルで明るい日の光が差し込んでいる。教会にすら入ったことのない俺がステンドグラスを見るのははじめてだったので新鮮だった。
メイドは、どうぞ此方へ、と俺を二階へ通した。紅色の絨毯が敷かれた一番奥の部屋に、大きすぎるくらいの大扉が嵌っていた。メイドがその前で立ち止まった。

「此方で日々也様がお待ちです」

ヒビヤ、とはきっとみるふぃいゆさんのお名前なのだろう。メイドが廊下を後にするのを見て、俺は大扉をノックした。

「みるふぃいゆさん?あ、俺です。デリックです」

ハンドルネーム兼キラキラネームを告げると、お入り下さい、とか細い声が聞こえてきた。やはりお嬢様なんだ。俺みたいなガサツな大声で話しかけたりはしないんだ。いつもよりハードルが高い。だがここまで来たからには十分食べ尽くしてから帰らなければ勿体無い。俺は意を決して、扉を開けた。
中のソファに腰掛けていたのは、王子様だった。いや、確かに王子様なのだ。嘘ではない。絵本に出てくる王子様そのものだった。金色の王冠に、金色のマントを羽織っており、その中に白いシャツを着て、カボチャのようなシルエットのズボンを履いている。そこから下は白いタイツで覆われており、高いヒールのブーツが脚のラインを美しく魅せていた。

「初めまして、デリックさん。私はみるふぃいゆこと、折原日々也と申します」

柔和に微笑んで見せる日々也は、王子様でお嬢様の風格を存分に表していた。何故、王子様でお嬢様かというと、体つきと顔立ち、声音では男女の判別がまったく付かなかったからだ。男にしては華奢すぎるし、女にしては長身であるように感じる。目元は切れ長で凛々しいが、頬と唇は甘い薔薇色をしている。水を張ったグラスを叩いたような少し冷たくて綺麗な声かと思えば、曇りガラスのように柔らかく純粋な言葉を綴る。これで性別を見極めろと言われても、俺には分かりませんすいません、と土下座することしかできないだろう。

「どうぞお掛けになって下さい」

日々也は金色の瞳を向かいのソファに向け、俺が座るのを促した。俺が座ろうとしている間に暖かな紅茶をティーカップに注いでいた。指先は白い手袋に包まれて爪が見えないが、きっと中も白魚のような指をしているのだろう。
俺はケーキが皿に並べられるのを見て、お土産にしたミルフィーユのことを思い出した。日々也にそのことを告げると、嬉しそうに喜んだ。折角なので一緒にいただきましょう、とミルフィーユも皿に載せてくれた。奮発して買ったミルフィーユ。しかしその隣に置かれた、あまりに豪華なフルーツケーキにはミルフィーユはくすんで見えた。

「安物なんでうまいか分からないけど……」
「私は、みるふぃいゆの名前通り、ミルフィーユが大好物なのです。どんなミルフィーユでも美味しく頂きます」

たとえ不味かったとしてもそういう気遣いを見せるあたり、今までにない女だ。これまでの女はすぐに文句を言ったりワガママを言ったり、つまりはこんな育ちをしていない庶民だったわけだ。流石は王子様、俺みたいな何処の馬の骨かもわからないチンピラにも分け隔てなく気遣ってくれる。
ケーキを食べながら日々也と会話をした。チャットルームのことや、日常のことも話した。日々也はどこまでも上品に笑う。ファーストフード店でコーラを飲みながら女と食っちゃべっていた先週の俺は、今日という日を信じられるだろうか。それもあのよく分からないチャットルームで捕まえた女だぞ。
あのチャットルームについては、日々也の従兄姉が開設したものだと教えてくれた。世間知らずな自分のために、他所の人と交流することも学んだ方が良い、と与えられた場所だったようだ。外界に出ることが少ない日々也には、チャットルームが唯一の外の情報への窓口だったようだ。最近では他の掲示板やチャットルームにも顔を出すようになったらしいが、入り浸ってはおらず、チャットルームを超えることはないらしい。
ということは、日々也の従兄姉には自分と日々也の逢瀬がバレている可能性があるわけだ。だが世間知らずな日々也のことだ、問題があるようなら断らせるだろう。にも関わらず俺をこの地まで招いてしまった。全く、チャットルーム管理者と日々也は残念な頭を持ったことだと哀れむことしかできない。俺の本来の目的は、油を売ることではなく、ネットで会った頭も股もゆるそうな女を食って帰ることだ。
日々也のこの能天気っぷりは好都合だ。見た感じではメイドの数も少なそうだし、ご近所さんはまずいないと見て良い。この奥まった部屋には日々也と俺の二人だけだ。
彼は窓から夕暮れの近づいた外の景色を眺めた。

「春でも、暗くなるのは早いな」

日々也は、はっとしておずおずと口を開く。

「お気遣いできなくてごめんなさい。もっと早くお帰りにならなければならなかったのかもしれないのに、私が引き止めてしまったせいで……」
「ああ、構わないよ。特に急いでいるわけではないし」

この流れは良い流れだ。このままうまく誘導できればこっちのもんだ。
日々也は申し訳なさそうに頭を下げた。

「本当にごめんなさい。久しぶりに外界の方とお話できて、とても楽しかったもので……。何かお詫びとして私にできることはありませんか?」

物分りの良い子で本当に助かる。これだから、世間知らずは食いやすくて良い。ここまできたらもう楽勝だ。

「本音を言うと、もう少しここに居たいんだ。日々也と話すのはこっちもすごく楽しかったし、もっとずっと一緒に居たいかな」
「本当ですか?」
「ほんとだよ」

我ながら言っていて気持ちが悪い。ヤらせろ、と言えるならどんなにラクだろうか。だが日々也はこういうことには相当奥手だ。簡単にさせてくれるとは思わない。慎重にいかなくてはならない。何しろ、既にこっちは骨折り損のくたびれもうけ、そして手ぶらで帰るのは嫌なのだから。
日々也は、嬉しい、と頬を染めた。それに魅せられたふりをしてやる。かわいい、と呟いてやれば、困ります、と皿に顔を赤くする。焦れったいな、こういうやり取りは苦手だ。

「そういえば、日々也はあんまり人と関わったことなかったんだっけな」
「はい」
「なら、お喋り以外にもっと楽しいことがあるってこと、知ってる?」
「いえ……。良ければ教えてください」

きょとんとしている日々也の肩を掴んで、テーブルの近くに配置されていた、大きなベッドに押し付けた。慣れた手つきで押し倒してやれば、日々也は驚いて俺を見上げるばかりだ。

「日々也、すっごくかわいい。俺、お前が好きになっちゃったみたい」
「えっ!?あの、えっと、そんな……私、どうしていいかわからないです」

戸惑う日々也に、熱っぽい顔をして語りかける。余裕のなさそうな顔をしてやればなお良い。

「俺のこと嫌い?」
「嫌い、ではありませんが……」

日々也は真っ赤な顔で視線を逸らす。

「好き同士で、することってあるんだよ」

日々也の横顔を正面に戻すと少々強引にキスをした。リップを塗りたくって女子力アピールしている女のどの唇よりも柔らかかった。ここでがっついてはいけない。角度を変えて何度もキスをしてやる。三度目からは落ち着いてきたのか、日々也は特に暴れなくなった。

「やべえ、もっとしたい。いい?」

言葉を途切れさせながら、単語を絞って話す。日々也はびくりと肩を震わせると、そんな、と目に涙を浮かべはじめた。それを気にせずに日々也の衣服を剥ぐ。抵抗する日々也の高級な布地で作られた服を脱がしきると、日々也は、恥ずかしい!、と叫ぶなり体を丸めてしまった。
日々也はどこまでも人形のように細かったが、女ではなく男だった。それもまだまだ未成熟な。シミ一つない素肌を惜しげも無く晒すなんて恥ずかしいことはできないのか、膝を抱えて座るように丸まって絶対にその手を解こうとしない。日々也は涙をぽろぽろ零しながら俺に、ごめんなさい、と謝った。

「私はデリックさんの思うような女性ではありません」

うん、まあ確かにそうだ。女だと思って食い散らかしにきたのに、とんだ選択ミスだ。でも俺もそこまで非道じゃない。一度手を付けた料理は残さず食べるのが俺の流儀なんだ。リピートはしないけれど。
ただ、自分でも不思議だが日々也を脱がせて後悔は感じていなかった。男のくせに、世界中の女優が泣いて欲しがるような、魔性の美貌を持っているのだ。こんなのが実在していいのかわからないくらい美しい。日本中、何処を探しても彼ほど可憐に恥らう女はいないだろう。あまりに出来すぎていて気持ちが悪いくらいだ。

「そんなことない、十分かわいい。食べちゃいたいくらいに」
「かわいくないです」
「かわいいよ。好きだ」

自分で吐いたのだが、悪臭漂う台詞に寒気がしてきた。要するに、俺は日々也という男を美味しく頂くことにした。
とはいえ男とするのは初めてだ。いくら女との経験が豊富でも、それが直接、気持ち良くさせることのイコールに結びつくわけではない。相手は、とりあえず甘ったるくイケメンボイス風に囁いておけば濡れるような生物ではないのだ。
ふと視線を逸らした先に、化粧台があった。日々也は化粧をするようなタイプではなさそうなので、化粧台の上は殆ど何も置かれていないが、三つの小瓶の中の一つにハンドクリームのようなものが収められているのを見つけた。日々也がまだ恥ずかしそうにもじもじしている横で、手早く瓶からハンドクリームを出す。ぬるりとした感触を引き伸ばしながら、白くて柔らかい尻の間に指を沿わせた。ひっ、と息を飲んだ日々也はベッドカバーに顔を押し付けながら耳を赤くさせる。抵抗する余裕はないのだろう。後孔を慣らしている間、彼は時々体を跳ねさせながら黙って荒い呼吸をしているだけだった。
こうして考えると別に女に限らなくても良いのかもしれないと思った。勿論、俺の沽券問題に関わるので、積極的に男を掘りたいわけではないが。日々也級に美人なら考えないこともない。でも、もう少し大人の魅力がある方が良い気もする。日々也の従兄姉とやらがどんな人なのか全くわからないが、日々也をもう少し大人にしたような人ならば、俺は男女関係なく喜んでナンパするだろう。
彼も俺も、そろそろ体の具合が良さそうだったので、挿れても良いか、と尋ねる。すると日々也は、駄目!、と即答した。仕方が無いので、淡い桃色をした性器に触れてやると短く甲高い悲鳴をあげて、反応させられてしまったことを恥じた。どうにかしてその気にさせなくてはならなかった。しかし日々也は強情だった。

「だめ、駄目なんです。本当にやめて下さい」
「ここまできて断るかよ、普通。俺は日々也ともっと気持ち良いことしたかっただけなのに」
「本当に駄目なんです。やっぱり私には駄目なんです」
「淫乱だから?」
「そんなことしません……」

日々也は何か言いたげな目で俺を見上げてきた。今まで拒否して来なかったのに、この反応はなんだろう。自分の身に危機が起こっていることを真剣に感じはじめて、必死で理性を保とうとしているのかもしれない。俺にとっては、そんなものは都合が悪い。早くヤらせてくれよ、と苛々するばかりだった。事が済んだらさっさと帰るんだから、と心に決めていただけに、この対応には腹立った。だが、ここで化けの皮を剥がしては本当にお預けになってしまうかもしれない。もう少し我慢する必要があるだろう。

「こんなことやめて下さい。きっと後悔します」
「後悔はしてからすればいいだろ。まずはしてみなきゃわからない」
「どうしてそんなこと言うんですか」
「日々也が心配しすぎなんだよ。大丈夫、優しくするから」

ね、と付け加えて強引に黙らせると俺は下半身を日々也の身体に近づけた。昂ぶった自身を彼の足の間にあてがう。俺が腰を進めている間、日々也はずっと息を詰めていた。思ったよりもすんなり挿ったことに驚きを隠せないが、それは彼の身体が自分と相性が良かったからだと思うことにした。
この時に気づいていればよかったのだ。彼はただの花ではない、美しく魅せるその下に獰猛な牙を並べていることに。
それでもやはり痛みを伴うのか、日々也が長い息を吐く。

「動くよ」

しかし日々也はまたも、駄目、と言う。

「これ以上、動いたりしないで下さい、もうこのまま、中に出しても良いですから、そのまま抜いて下さい」
「中出しは有難いかもしれないけど、これじゃあ出すまでいかないだろ。今までだって特別痛くなかったんだから平気さ。そんなに不安がらなくても俺は乱暴しない」

言い終わるより前に俺は腰を動かした。突かれた日々也が甘い悲鳴をあげる。なんだ、こんなに嫌がっておきながら本当は気持ち良いんじゃないか。突き上げる度に可愛らしく啼く日々也に少し興奮した。涙目になりながら、駄目、駄目、とおかしくなりたくなさそうに俺を止めようとする。少し間隔を空けてやる。

「だめ、もうこれ以上は……」
「イっていいよ」
「どうして私の話を聞いてくれないんですか」

非難がましい目を向けられて、きまりが悪くなったので目を逸らし、奥へ打ち付けることに専念する。絶頂が近いのか、日々也は、きゅうっと胎内を締めてきた。

「は、早く抜いて」
「良いじゃん、こっちも気持ちいいし」

俺の率直な感想に恥ずかしくなったのか更に締められる。狭くなった中を出入りするのが気持ち良いのは本当のことだ。
しかし日々也はいよいよ余裕がなくなってきたのか、涙を流しながら俺に訴えた。

「どうして皆様はこのように私を犯すのですか。私はこんなに止めているのに、何故私の中に挿れたがるのですか。後悔するのは私ではなく、貴方方なのに」

こいつ、処女に見せかけてビッチか。まあ、こういう清楚系に見せて実は男好きでした、というのはよくあることだと思っていたがまさか日々也がそうとは思わなかった。どちらにせよ、彼とすることはこの先二度とないだろうから関係ないのだが。しかし、後悔するのが“俺たち”とはどういうことだろうか。
日々也はぎゅっと中を締めてきた。突然の圧力に此方も息を詰める。

「私は何度も忠告しました。それなのに何故貴方方は私に挿れてしまうのです」

更に締められて呼吸が荒くなった。羞恥心に煽られるというのはすごい。ここまで圧迫できるものなのか。だんだん痛くなってきたけれど。

「私がこんなに人里を離れて暮らしていても、貴方方はいらっしゃいました。どんなに森の奥へ逃げようとも。最初は興味本位で接していただけの方も、最後にはこうして私を犯そうとする」

息が苦しい。あまりにも強い締め付けに、俺は逃げ出したくなった。このむちゃくちゃな痛みから抜け出したくて腰を浮かせて引くが、どうにもこうにも動けない。抜けないのである。日々也の身体から、俺の自身が抜けない。これは一体、どういうことだ。こいつは一体なんなんだ。俺をどうするつもりだ。俺はただ、都合の良さそうな女を貪りたかっただけなのに。なんだこれ、意味がわからない。痛い、とても痛い。

「ちょ、ちょっと待った、日々也、一回、一回だけ抜こう」
「私は貴方方を信じていたのです。私を性的な目で見ない方を。私が、貴方方を、食べてしまわぬように」

話も聞かず、化け物のように下半身で喰らいついてくる日々也は、唐突に憐憫の眼を向けた。俺は痛みで全くそれどころではない。感じたことのない激痛に、痛覚が痛覚を訴えなくなって、脳が麻痺している。頭が朦朧してくる。もう何も考えられない。悪寒だけが背中を駆け巡り、さあっと冷や汗が流れた。

「貴方を捕食するのは、私の身体なのですから」

日々也が乾いた笑みを浮かべた。哀れんだその瞳の奥に、捕食者を視た。
瞬間、ぶちり、と何かが切れる音がして、性器に感覚がなくなる。
絶叫よりも先に、俺は気を失った。大事な物も、失った。


2013.12.22

Back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -