スクラップ昼下がり

・即.興.小.説.ト.レ.ー.ニ.ン.グ ログ04。
幸せ家族設定の執雄+日々也。


本日は格闘ゲームに勤しまれている日々也様から、ティーカップを渡される。先ほど入れたアフタヌーンティーはもうなくなってしまったので、新しいものを用意します、と告げる。早くしろよ、とだけ返されて再びキャラクターを操るのに戻ってしまった。
日々也様が口を付けたティーカップとソーサー、ポットを運んでキッチンに向かう。母様がコーヒーを入れた後らしく、ほんの少しだけ、台所がコーヒーの粉で汚れていた。香ばしい匂いが漂っている。薬缶に水道水を注ぐ。東京の水はカルキに塗れており、あまりおいしくはないが、火にかけてしまえば別だ……と言いたい所だが、単にオレが拘るだけの財力と手間を省きたいだけだった。茶葉だって未だにイギリスから取り寄せているものだし、これ以上の負担は流石に困ってしまう。日々也様には最善の世話をしたいが、今はまだ難しい。

「なんだ、それは」

ゲームに負けてしまったのか、ポーズをかけたのかはわからないが、日々也様がキッチンに顔を出してきた。銀の薬缶を指差して問う。

「薬缶にございます。此方で湯を沸かし、ポットに注ぐのです」
「ふうん」

あまり興味のなさそうな顔で一瞥する。オレがいつも丹念に磨き上げている銀のポットを持って、重いな、といいながらじろじろ眺めている。これがどのような仕組みで紅茶を出しているのかが気になるらしかった。日々也様は正真正銘の、良く言えば箱入り娘、悪く言えば世間知らずである。ゲームのコントローラーより重い物を持ったことはない。
薬缶がしゅんしゅんと怒り出した。熱地獄から救われたいと泣き出すまでもう少しである。
ぴい、と啼く。

「ひゃあ!」

日々也様は飛び上がって驚いた。そうして、慌ててオレの陰に隠れる。
コンロの火を止めると、彼は恐る恐る問う。

「ななななな、なんだ!今のは!」
「薬缶の笛です。湯が沸きますと、蒸気によって音が鳴る仕組みになっておりまして……日々也様?」

酷い動揺具合だった。日々也様はオレの陰に隠れるどころか、マントを被って丸まって、ぶるぶる震えている。普段の傲慢……いや、おねだりからは想像の付かない姿である。小動物のように怯える彼はオレが薬缶の湯をティーポットに移すのをエイリアンでも見るような目で見つめていた。日々也様も大概セルティ様に似てきたな、と思う。
銀のティーポットから紅茶を出させるまで暫し待つように促す。トレイに載せて持ち運ぶ。うしろからちょこちょこと付いてくる日々也様。
オレはこの方の為に薬缶を沸かしているのだと思うと、そんな日常の動作ですら、とても誇らしいのだ。


2013.01.20

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