世界屋の定義





世界屋の定義

「たとえば、この世界が一瞬にして灰となり塵となれば、お前はどうする?原爆が投下された時みたいに。」

ヤツはボクに対してそう質問してきた。


ココハ雑踏の街。ヒトゴミ。あらゆる人間が交差し行きちがいになっていた。

しかし、ボクとヤツはまるで時が止まっているように会話をしている。

否、会話というか話。ボクとヤツは『会話』をするような親しい間柄じゃない。
むしろ、今日、此処ではじめて話した間柄だ。

ヒトゴミを無視しながら、ボクは応える。



「どうするもこうするもボクも世界と同様に灰となって塵になるだけさ。
一瞬でそうなるなら、ソコにボクの意志とか意思なんてないよ。あるのは、虚や空白。何もできやシナイさ」

「別にお前がソレを体験するなんて言ってねぇぞ?」

ヤツは、くつくつと笑う。

「はぁ?意味が分からないよ。最初に君は、「この世界」って言ったはずだよね?
だったらボクが今いる世界に定義されるはずだよ」

「そうか?」

そう言って、ヤツは笑って今いる世界を無にする。



つまり、雑踏の街を何も無い黒の世界にする。
闇の世界と言ったらいいのだろうか。

まるで、テレビの電源をオフにした中にボクとヤツがいるような感覚だ。

ボクは、驚いたが顔には出さなかった。
その反応を見てヤツは、おかしそうに笑った。

「お前さ、ポーカーフェイスを装ったつもりだけど、内心驚いたんじゃねぇの?」

「別に、装ったつもりはないさ。ただ感情を顔に出さないだけ。出せないって言ったほうがいいのかな?」

「まぁ別にいいけどな。
で、さっきの続き。つまり、こんな風にテメェがテレビ感覚で見た時、お前はどうする?今みたいに顔に出さず驚くのか?それとも、泣き叫ぶのか?」

「つまり、傍観だね。キミがいいたいことは、経験じゃなくて傍観。テレビで言ったら視聴だよ。
ん?さぁね。ボクは別に何もしないんじゃないのかな?
驚くことはあっても、泣き叫ぶようなことはしないんじゃないかな?もしくは、茫然自失?自暴自棄?否違うかな?」

「曖昧模糊。有耶無耶だな。」

「そんなもんでしょ。ほら喩えば、今が闇だって順応してるし。不安か?と聞かれても『別に』っていう感じ。現実味がないんだよ。」

「成程なぁ、お前らしい応えだ。」

ヤツはまたくつくつと笑う。
「『らしい』って君、初めて話した相手に使う言葉じゃないんじゃない?キミはボクの何を知ってる?」

ボクは、溜息混じりで言った。

「知ってる?はっ。そんなのお前のことなんて知らないに決まってる。俺が知っているのは世界のことだ。」

「世界?世界って、宇宙全体。天地。すべての国。特定のものの限られた範囲のことを指すけど?」

「辞書的な奴だな。」

うるせぇ。ほっとけ。
内心突っ込んでおいた。

「そ、辞書的にいえばそんな感じ。世界の定義は、個人によって違う。
喩えば学校生活、或いは仕事生活を送っている人は「日常生活」を『世界』と喩える人もいる。もっと範囲を縮めたら、人間関係を『世界』と喩える奴もいる。
そういう奴らは『世界』は窮屈だと感じている。それは断定してもいいかもしれない。何故なら考え方が固執しているからだ。
つまり、自分の時間、関係、空間性を『世界』と定義しているからだな。今あげたコイツらは、お前が辞書的表現した『特定のものの限られた範囲』のことを指している。」

「だから?
因みに窮屈だなんて感じてない人間だっているよ?「俺の世界は最高だ!」みたいな人間なんて、ごまんといる。そんな鬱屈する思想は日本人的な思考だよ。もちろん日本人も自分の生活(ヤツが喩えるなら世界)に満足している奴もいるけどね。」



「そうか?
今の世界に満足している人間なんて本当にいるのか?」

「それは…」

ボクは、戸惑う。 
ボク自身、「世界に満足」なんてしてない。むしろ、世界なんて一度滅びた方がいいんじゃないかって思う時の方が多い。

「今の世の中、勉強だの、利益だの、人間関係だの、戦争だの、貧困だの、裕福だの、苛めだの、殺人だのと色々なことが起きている。
だけど、何のために生きて、何のために死んでいくかなんて考えず、「自分が生きている世界」が退屈で、自分の値打ちがわからず世界に存在している奴がごまんといるわけだ」

「君はさっきから何が言いたいの?ヒトが世界に存在する意義を聞きたいわけ?世界の定義からずれているよ。」


馬鹿馬鹿しい。
しかし、ヤツは続ける。

「俺もその一人だった。」

「……。」

「俺もその一人だったんだな、これが。昔生きていた世界がくだらないと思いながら、存在していた。」

「…。だから?だから何が言いたいの?『生きていた』って『存在していた』って…。」

まるで、『今』は『世界』に『存在』していない言い方だな。

ヤツはニヒルに笑うと続けて言った。








「だから、俺は『魂』と引き返えに『世界』を買って『世界』を売る』商業人となったんだ」

「妄想か?それは。そんな商業人いたら7不思議だよ。『世界』なんて売買できるわけないじゃないか。さっき言った通り『世界』は作りあげて人間は存在していくもんだろ。だから、窮屈退屈って言葉が出来るんだ。妄言も甚だしいね。」

「おいおい、世界の定義は『特定のものの限られた範囲』以外まだ残っているぞ?」

「『宇宙全体。天地。全ての国』のこと?つまり土台を『世界』としている。」

「つまり、眼に見える『世界』ー…物理的な世界だ。」



「その世界を売買する職業に就いたってこと?存在しているじゃん。つまりはさ。国を売買しているってことだよね?」

「国じゃねぇよ、俺が売ってるモンは。テメェが欲しい世界をホシを売ってるんだよ。テメェが欲しいホシー…世界をな。」

「!?」


「自己紹介がまだだったな。

俺の名前は、『世界屋』だ。
よろしくな」


そんな、よろしくも何もないだろ。

ボクは溜息をついた。





世界屋の定義





物語ナンカハジマラナイ.
ダッテコレハボクノ夢ダカラ.












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