雪降る収穫祭ー後編




ー見てください。アッシュ様。花火美しいですねー

彼女と一緒に初めて見た空に描いた花火は美しくも儚かった。彼女は、収穫祭用の民族衣装を着て、いつもよりめかしこんでいた。羽と綿の髪飾りを長い茶色の髪につけていた。
いつもと違う侍女に子どもながら戸惑っていたかもしれない。
微笑みを交わしてくれた侍女を一人の女性としてみていたかもしれない。
あまり帰ってきてくれない母の存在と重ねていると言われそうだが、あまりにも彼女と母の性格はかき離れていた。だから違うと思うがー。
仮にそうだとしても彼女は、俺にとって大切な存在だった。
儚く散る金蘭の花火の下で俺達はある約束をしたんだ。



「その約束ももうすぐ果たせそうだな」
「ねーねー。続き教えてー。侍女はその後、戸を開けてどうしたのー?」
せがんで聞いてくる少女に苦笑した。俺は、さあな。知らない。覚えていない。続きは、ママにでも聞いてくれ。と少女の頭を撫でた。少女は、むすっとした顔で、ママーと抱きつきに行った。暫くして、その子の母親は苦笑して俺のところに来た。
「アッシュ様も人が悪い。私が犯した罪を娘に告白するなんて」
「二人とも生きていたし済んだ話だから時効だろ時効。それに、最初に娘に告白したのはネイネイだろ?」
「そうでした?ふふふ」
俺は頭をかいて、苦笑した。
「誤魔化すなよ。ネイネイ」
「ねーねーおはなしー」
娘にせがまれてネイネイは溜息をついた。


わかりました。お話ししましょう。
戸を開いたら、煌びやかな花火とは違って勢いのある炎がカーッペットを燃やしていました。見渡すかぎり火の海で、私はアッシュ様のもとへかきつけました。足元には、飛び散るガラスの破片。ウォッカ。アルコール高めのワイン。どうやら、アッシュ様は、ワインを机から落としガラスの破片で両手両足に括り付けていたロープを切られたようです。アッシュ様は煙を吸われて気を失っていました。
すぐさま、家から出なくては。私はアッシュ様をかかえ直ぐに外に出ました。家の外に出た瞬間でした。黒い電気自動車の助手席から、トゥールシャ様が出て「乗って!!」と私を促し一緒に後部座席に乗りました。
「アッシュは、大丈夫!?」
「煙をかなり吸われたみたいで…」
私のせいです。ミラー越しから見えたハンドルを握っているジャシュ様を見て言葉を飲み込みました。私は、俯いてしまい言えませんでした。
「分かりました。病院へ向かいます」
ーーいいよ。大丈夫だ。ジャシュー
アッシュ様は、ゆっくりと身を起こしました。私とトゥールシャ様は驚きましたが、ジャシュ様だけは冷静でした。
「アッシュ。何があったんですか?」
ああ、言われたらおしまい。私は警察行きですね。唾を飲み込みました。しかし、アッシュ様は頭を抑えて、
ーいてて。それが、カーペットがあまりにも気持ちがよかったから転がって。頭ぶつけて、ワイングラス落っことして、暖炉に火をつけて炎上させネイネイの親父さんの家を駄目にしちゃった。ジャシュ!!どうしよう!やばくないか!?ネイネイごめんな!!!絶対弁償するから許してくれ!!ー
逆に謝られました。トゥールシャ様は、「ちょ、君馬鹿でしょ!?」と叱咤してジャシュ様は苦笑。何かおかしいとは思いませんか?私は自白しようとした瞬間、トゥールシャ様に指をたてられました。
「しっ、アッシュ寝ちゃった。ったく。アッシュを誘拐するなんて君も馬鹿だね。家を燃やされたら元も子もないでしょ?」
言葉とは裏腹にトゥールシャ様は優しくアッシュ様に服をかけていました。「見つかって良かった」
トゥールシャ様は、寝ているアッシュ様を抱き締めて呟いたのを私は聞こえていました。罪悪感が浸透し後悔の波が押し寄せてきました。
「申し訳ございませんでした」
頭を下げてようとしたら、今度は運転席から、茶封筒を投げられました。これは?と茶封筒の中身を見ました。その中は、両手で持たないと茶封筒をしっかり持てないほどの大金が入っていました。慌てて、茶封筒を返そうとしました。
「アッシュ様の顔に泥を塗るおつもりですか?」
「泥じゃなくて煤でいっぱいだけどね。」
トゥールシャ様は、アッシュ様の顔についた煤を払っていました。
「誘拐犯の私にどうしてお金を?このまま警察に行った方がよろしくて?」
「それこそ、警察なんかに引き渡したら、今度はフィリファル家の名が穢れます。それ以前に、アッシュ様がなされたことが無駄になります。あなたを守って家を炎上させたことが、全て水の泡になります」
「ちょ、ジャシュ…フィリファルって今さりげに凄いこと言わなかっ…」
「理解出来ません!どうして、アッシュ様がそのようなことを?私から逃れるために机に向かって転がり、ビンを割って欠けたビンの破片で縄を解いたのでは無いのですか!?そのさい、アルコールによって炎上したのではないのですか?」
「…僕達のやりとりを見る?」
携帯電話…?そうか、あの時。私はアッシュ様の携帯電話を使って床に置いたままでした。携帯電話の存在を私は忘れていました。でもなぜ?アッシュ様は両手両足を縛られたのにメールが出来たのでしょう。
メールBOXを見ました。受信時間を見て驚きました。私が、誘拐したとジャシュ様に電話して隣の部屋に向かった僅か5分足らずでメールしている。おかしい。部屋が燃えたのは、その30分後。この時間は一体。
「きっと、アッシュ様はー。アッシュは最初に縄を解いてから私達にメールされたんでしょうね。縄をどうやって解いたのかは、なんとなく想像がつきます。多分机の脚を擦ったかもしくは、隠しナイフを持ち込んでいたのでしょう。捕まった時の対処法を私はアッシュに教えていましたので。それよりメールの内容を見て下さい」

一件目 はぐれちゃってごめんな。お世和になっている人に拉致られたw冗談だ。まあ、本人は俺を誘拐しているみたいなんだが、この吹雪の中であんた達を見つけることが困難だと確信した彼女は俺を保護してくれてる。と俺が勝手に思い込んでいる。だから、決して誘拐犯と勘違いしないでくれ。俺は大丈夫だから。
俺を誘拐してる犯人なんだが58万ギルが欲しいだけみたいなんだ。おじさんに話を少し聞いてみてくれないか?

ハッとしてトゥールシャを見た。
「どうしてこれをトゥールシャ様宛てに?ジャシュ様宛てには?」
「私には、俺の口座から88万ギル用意してくれ。それだけです」
「ったくアッシュ考えるよ。ジャシュも僕も一人で考えるから。僕は、さっきまでアッシュがフィリファル家の超有名な家系の息子っていうのは知らなかったし、ジャシュに相談する方法はないと考えたんだろうね」
「くすくす。私は、アッシュのことになるとつい冷静さをかけますから共同して考えろってことですね。私なら『お世和になっている人』と聞いた時点で貴女が誘拐したと分かりますので。おじさんとは、ラーメン屋のおじさん。貴女のお父様ですね。」
「僕達がお父さんに聞いたのは、お金に困ってないか?その一言なんだけど…聞いてる?」
私は、会話を聞きながらアッシュ様が送ったメールの文面を見て涙が出ていました。

2件目 そうか、やっぱり困ってたんだなー。そりゃー俺と、かあさんに言い辛いだろーな。

3件目 ん?どうしてかって?あいつ優しいから。理由にならないか。

4件目 おいおい、勘違いするなって書いただろ。誘拐犯じゃないよ。暖房器具なんてないほど家庭が苦しいのに、暖かい服を何枚も俺に着せて、唯一の暖を取る方法暖炉まで火をつけて、おまけに寒くないようにカーペットまで床にひいてくれてるんだぜ。普通の誘拐犯はそこまでしないよ。

隣の部屋は、ここより寒いはずだ。
このカーペット懐かしいな。…うん。
風邪ひいてないといいんだが。

カーペットは、誕生日にアッシュ様から頂いたものでした。
「…それから20分後。私達は、吹雪で前が見えなくなりました。お父様の話によれば、家は収穫祭場所から南に位置する所にあると聞いて。あっ、お父様は先にターミナルでお待ちしております」

「え?」

「行くんでしょ?」

「でも…」
「まぁ、聞きなよ。今は、吹雪もおさまっているけど、途方にくれた僕達の目印になったのがさっきの炎って訳。分かる?この意味」
「…はい。あの家に…あの暖炉以外の部屋にいたら身体を悪くする。父は、収穫祭前の暖かくなる次期にあの家へ逃亡したのでそれはなかったでしょうが、今日みたいな吹雪は…」
「うん、凍死する可能性もあるってこと。それだけ、北大陸は寒いんだよ。」
私から逃げるためにワインを壊したのではなく、道標のために。
「まあ、吹雪いてなくても私達が近くに迎えに行けば、同じ手法でボヤ程度の火事を起こして家の一部を破損させていたと思いますよ。北大陸を出るって貴女から聞いた時から多分この計画を練っていたと思います。お電話されたんでしょ?お父様に。
つまり、アッシュの目的は、貴女にお金を渡すことですから」
「!?」
「…そういえば、58万ギルは分かるけど残りの30万ギルは?」
車が止まりました。私の涙から大粒の涙が溢れていました。
「家の弁償代と店の祝い金だそうです。チャイナタウンでまたラーメン家業をするためのお金だそうですよ。」
ジャシュ様は振り向いて微笑し、携帯電話を放り投げて下さいました。メールBOXを見てメールを目を見開きました。

一件目 俺の口座から88万ギル用意してくれないか?58万ギルは彼女に貸すためのお金。残りの30万ギルは、今までチャイナタウンでの門出の祝い金。また、ラーメン食わせてくれる約束の前金なww

ラーメン早く食べたいなー。

私は、車にいることも忘れて土下座をしました。
「必ずお金は返します!!絶対毎年いや、毎月返します!!!本当に申し訳ございませんでした!!アッシュ様ごめんなさい!!本当に本当に申し訳ございませんでした!!」
「頭をあげて下さい。お父様を待たせるおつもりですか?」
気が付いて、周りを見渡すとターミナルでした。私は、アッシュ様に謝罪をし、感謝をしてから去ったというわけです。

「…ねえ?アッシュ起きているんでしょ?」
意識朦朧としながら、覗きこむ親友の顔をぎゅーと抱き締めてみる。あっ、眼鏡がずれた。面白い。なんてお茶目なことを考えてると頭を叩かれた。
「痛い」
「それは、僕の台詞。お別れの言葉言わなくて良かったの?」
車の窓越しから、真夜中のしんしんと降る雪の中を、ターミナルの中に行く二つの背中。窓を開けた。大きな声で別れの言葉を言おうとしたが、掠れる声しか出なかった。


「元気で」



南大陸の風は北大陸の風よりもあたたかった。南大陸の玄関口シルベリアから出て約一時間程度で行くことが出来るチャイナタウン。チャイナタウンの町外れに評判のいいラーメン屋がある。そこには、ある収穫祭の火の花の下で約束を交した侍女の姿が見えた。俺は、店に入った。入ったら少女が…いや、違うな。美しくて、可愛いく愛らしい侍女の娘が出向いてくれた。


俺は、聞いた。
「約束したラーメンは出来上がっているか?」
と。侍女は驚いて
「出来てます」
と応えた。
俺は椅子に座り、
「注文していいか?」
「はい、勿論喜んで」
彼女の笑顔が、あの収穫祭の終わりの舞台の夜空に金襴の花火の下で、約束したものと同じだった。




2012.11.16.親愛なる心友に捧ぐ
YukA★筆


2012/11/16



★あとがき★

このたび、深夜様2000hitを踏んで頂きおまけに、収穫祭のお話のリクエストをしてくださいました\(^o^)/如何でしたでしょうか?イラストではなくて、しかもこんな稚拙な文章で長ったらしくて大変申し訳ありません!!日本みたいな祭りでは無いので、キャラが北のお祭りを語る感じになったような、なってないような。とにかくテーマは、収穫祭というより侍女とアッシュの攻防戦と絆のような話になってしまい申し訳ないと反省しています。
しかし、書きたくて仕方ないお話だったので書けて満足です!本当にありがとうございました!\(^o^)/

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