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王子様を待つフリをする


「そろそろ彼氏ぐらい作りなよ。」

と、先日純白のドレスを纏った友人に言われた。余計なお世話だ。
私は、その冴えないグレーのタキシードの男より美しい彼氏が居るのだ。貴女に言っていないだけ。

正確には、言えないだけ。



彼の細長い指が私の頬に触れる。
ひんやりとした乳液が肌にしみこみ、その後に彼の温度。
それに目を細めながら、先日の友人の結婚式での話をした。

芸能の仕事はよくわからない。けれど中性的魅力を売りとしている彼だから、あまり彼女の存在を公表はしない方がいいという考えから私は淋しい独身女性を演じている。

本当は全国放送で、このカリスマヘアメイクアーティスト悠生様は私だけの物よ。
私は仕事を頑張っている彼が好きだから、彼の手は貸してあげるわ。と宣言したいくらいなのだ。

「不便をさせてごめん。」

謝らせたいわけではない。愛が欲しい。

「別にいいから、ここ、」

手を延ばして唇に触れる。
巫山戯て彼はそれを舌で捉えた。反射して光る指を唇に塗りつければ「なぁに?」と艶やかに笑う。
リップグロスはあまり好きじゃない。この方がずっと綺麗だから。

「ここだけは、誰にも触れさせないようにしてね。」

いつか私があの純白のドレスを纏う時には、貴方が持てる全ての力を使って世界一綺麗な花嫁にしてくれると言った。
だから、今はこのまま。


王子様を待つフリをする





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