『繋ぎ止める』

公閭は散歩に行かない。寧ろ家から一歩も出ない。ベランダで昼寝したとしても隅っこで寝ている。それほどまでに過去を気にして人の眼を避けている黒猫
買出しに行く時はお留守番。原稿を取りに来る上司が来れば隣の部屋で隠れるように寝ている。友達は互いにいないようなもので二人だけで孤立状態。猫が彼氏なんて両親には言えないまま。一通のファックスが届いて肩を震わせた
『.....お見合い』
もう二十歳すぎ。いつまでたっても彼氏が出来たと報告が無いから両親が心配したのだろうか。こんな紙、公閭に見つかればきっと悲しむ。もしかしたら見合いすればいいと気を遣うかもしれない。私は公閭とずっと一緒に居たい。彼以外と結婚なんて考えられなかった
紙をぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に捨てる
すっかりお風呂にも慣れた公閭がズボンを履いて上半身裸でリビングに来た。慌ててタオルで濡れた髪を拭いてあげれば大人しくされるがまま。時折聞こえるゴロゴロとした音が私を喜ばせる
『いい匂いがする』
「お前と同じ物を使っているからな」
『それでも公閭の優しい匂いがするの』
「優しい?...何だその阿呆な感想」
『公閭の優しさだよ〜』
見た目は少し怖いがとても優しい。いつも意地悪で泣かされてばかりだけど私を優先して動いている。過去に出会った人達は何故気付かなかったのだろう。気付く前に公閭が素っ気無くしていたのかな?なんて考えているとタオルを動かしていた手が止まっていた
「...名前?」
『.....え、っあ、ごめん。何でもないよ』
公閭を手放すなんて考えられない。もし別れたとして他の女性の元に行くなんて考えたら胸がずきりと痛んだ。すると私の手に公閭の大きな手が重なって。背の高い彼を見上げれば触れるだけの甘い口付けを落とされる
「俺は名前を手放す気は無い」
心を読んだのか。公閭は綺麗な瞳を私に向けてそう言った
『...ねえ。過去に出会った女性と付き合った事ある?』
「なんだ唐突に」
『過去を思い出すの辛いかもしれないけど...答えて』
公閭と出会った過去の女性に嫉妬してる。嗚呼、なんて醜いんだろう。無意識に手が震えていて、公閭が強く握り締めた
「付き合った事は無い。だが抱いた事はある」
ずきりと胸が痛んだ。なんとなくそう言われる気がしていた。私も公閭が初めてなわけじゃない。お互い様なのに何をこんなに傷ついているんだろう
「だが会話など無い。ただ抱いて欲しいと、それだけだ。俺の全てを見ていたわけでは無く快楽を求めていただけに過ぎん哀れな女だ」
『.............』
「終われば不気味だった、気持ち悪い、化物と言われて追い出される。名前。お前...もしかして嫉妬しているのか?」
『....嫉妬してるよ...』
「ほう...」
『だって公閭が大好きなんだもん...』
過去の話だったとしても。好きだから嫉妬してしまう。腕を引かれソファーに押し倒される
「名前。何を隠してる」
『え...?』
「不安そうな顔が何よりも証拠だ。何かあるなら話せ」
『...実は...両親からお見合いの話が来てるの』
「...............」
『私が恋人いないと思ってるから...』
公閭は何と云うだろうか。行けとでも言うのだろうか。黙ってしまった公閭、沈黙に耐えられず口を開いた瞬間。強引に口づけられ舌をからめとられた
『ん...っ!』
息を止めるのではないかと不安になるほど荒々しく。苦しいと胸を叩いても離してくれない。シャツを強引に引き裂かれボタンが勢いよく飛んだ。胸を痛いほど揉まれて痛みに顔を歪ませる
『公閭っ...いやぁ...!』
抵抗も虚しく。下着の隙間から指を滑り込ませ微かに濡れた秘部に指を押し込まれる。指をバラバラと曲げられ嫌だと首を振っても公閭は止まらない。目から流れる涙を舌で舐め取ってくれるけど強すぎる快楽に涙は止まない
『っは、あ、あ...』
卑猥な音が部屋に響いて耳を塞ぎたくなる。下着を脱がされると大きくなった公閭のものを宛がわれずずずっと中に容赦なく入ってくる。公閭の髪を弱く掴むと激しく腰を動かされた。涙で滲んだ視界では公閭がぼやけて見える
『ふあ、っ...は、こ、りょ...ッ』
「名前」
『ひあッ!あっ、い...やぁ』
波が押し寄せ達してしまえば腰を止めて。おでこに口づけを落とされる
「...俺はお前を手放したくはない。だからこうして強引に繋ぎとめようとしか出来ん」
『ん、っは...公閭ぉ...』
「お前が....名前が他の男のものになるなど考えただけで嫉妬に狂う。その男をこの穢れた手で殺したくなる」
不安そうに揺れた綺麗な瞳が三年前の出会いを思い出させる。独りという孤独を誰よりも知っている彼。また独りで生きていくのは、きっと、恐怖なんだ
『行かないよ...』
「.......見合いの話が来ているのだろう」
『断るに決まってるじゃない...公閭が居るんだもん。公閭じゃないと嫌だよ...っ!』
首に腕を回して鼻をならして泣いていると隙間なく抱きしめてくれて「泣くな」と言われた
「...どこにも行くな」
猫耳と尻尾がたらんと頼りなく垂れた

【繋ぎとめる】
もう孤独は味わいたくない

次の日。両親に見合い話を断り彼氏が居ると伝えた名前
(お母さんが会いたいって)
(...なんて断った?)
(今忙しいからまた今度)

※相互記念に紅子様から頂きました。
私の好きなシリーズ「私のペットはいけめんくん」の番外編で書いてもらいました。
しかも裏にしてくれるとは……!感謝感激です!
相互ありがとうございます!!
20130705

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