『私の居場所』

 数分で救急車が到着し、駆け付けた救急隊が慌しく少年に応急処置を施すと、マンションから運び出して行った。
 少年にはメローネが付き添うと言っていたけれど、それは『保護』ではなく『監視』だ。利用されたとはいえ、組織に関わったスタンド使い≠ナあり、その上右手まで失っては日常に戻るのは不可能だろう。

 ──やっぱりあの男、許せないわ。

 幹部と仲間の殺害、スタンドを利用した窃盗行為、子供を利用した奇襲──周囲を散々巻き込んだ男に激昂しない方がどうかしている。救急車を見届けた後、オリガはホテルのある裏通りに向かった。『大人しく待て』と言われても、ガブリエルの最期を見届けなければ腹の虫が治まらなかった。

 しかし、裏通りに出る前にリゾットが姿を現したので、オリガは足を止めた。そして、その姿を見て思わず息を呑んだ。
 無表情な面相と眼光は凍て付き、服の白い部分には返り血のような小さな血痕が点々と付着している。まるで凄惨な狩りを終えて来た狼のような姿で、あまりに殺伐とした光景に怒りも冷めていった。標的がどんな最期を遂げたのか、聞くまでもなかった。

 「あの小僧はどうした」
 「ぶ、無事です。さっき救急車で運ばれました。後はメローネさんが引き受けるそうです」
 「なるほど…という事は、プロシュートに状況を説明したようだな」
 「は、はい…今こちらに向かってます。めちゃくちゃ怒ってましたけど…」

 すると、リゾットは「だろうな」と溢して失笑した。

 「今回の件は、俺の万事不行き届きだ≠ニ言われても仕方がない。結果がどうであれ、巻き込んだのは事実だ。仲間の信用を裏切る行為であり、お前にも不快な思いをさせたと思っている…そこは弁解するつもりはない」
 「いや…でも私は…」

 『気にしてません』と言い返すつもりだったが、本人を前にすると言葉に出せなかった。表情は変わらなくても、憂いのある声色から自責の念がひしひしと伝わって来る。ギャングの暗殺チームのリーダー≠ニいう立場上、オリガには到底計り知れない責任をリゾットは1人で背負っている。そんな大人相手に、新入りの小娘が何を言ったところで気休めにもならないだろう。

 「しかし、俺は後悔はしていない。お前をこの任務に同行させた事は間違っていなかったと断言出来る。短時間ではあるが、お前の気質と素質は十分わかった。やはりお前には才能がある…暗殺者としても、スタンド使いとしてもな。鍛え方次第でチームの中堅くらいにはなれるだろう」
 「ほ、本当ですか?」

 不意に褒められて目を輝かせたが、途端にリゾットの表情が厳しくなった。

 「だが、精神的に弱すぎる。余計な正義感も、敵への同情も、暗殺には必要ない…お前の欠点はそこだ。俺達の仕事は単純なものばかりじゃあない…今回よりももっと卑劣なケースもある。しかし、相手が誰だろうと、お前の過去に何があろうと、任務には一切関係のない事だ。『感情を捨てろ』とは言わないが、過ぎた事は忘れろ…それが出来れば、お前は変われる」

 そう言って、リゾットはオリガの肩を叩いて鼓舞すると、携帯電話を手に背を向けた。褒められた事よりも、指摘された欠点が的確過ぎて、素直に喜べなかった。
 オリガ自身も自分の弱さは何か≠理解していたつもりだ。何かと感傷的になってしまうのも、幼少期の体験が原因だとわかっているし、ギャングにとって最も致命的な欠点だという事も自覚している。しかし、その欠点をリゾットに面と向かって指摘されると、やはりショックだった。同じく鋭い指摘をするプロシュートよりも、リゾットに言われた時の方が数段堪える。そう感じるのも、心の中で『リゾットは自分の過去を一番理解してくれているから』という甘え≠ェあるせいかもしれない。認められて浮かれて、弱さを曝け出している事にも気付かずに任務で足を引っ張っていたと思うと、恥ずかしくて堪らなかった。

 ──駄目なのはわかっているけれど、自分でもどうすればいいか、わからないんだもの。

 と、電話をするリゾットの背中を眺めながら、心の中で反論している自分が殊更情けなかった。

 しばらく閉口していると、派手なクラクション音が静寂を破った。振り返ると、赤いオープンカーが路地のど真ん中に止まっていて、運転席からプロシュートの姿が見えた。車内にペッシの姿はなく、プロシュートだけが不機嫌極まりない面相で煙草を咥えながら、執拗にクラクションを鳴らしている。それが「早く来い」という合図と同時に憤りの証明だとわかった。
 その様子を見たリゾットは、「思ったより早かったな」と苦笑しながら電話を切り、車に歩み寄って行った。

 ──私、ここにいて大丈夫なのかな?

 電話で激昂していたのは気付いていたけれど、想像以上に険悪な雰囲気にオリガは益々言葉を失ってしまった。恐る恐るリゾットの後に続くと、面子が揃うなりプロシュートは「おい」と威圧的な声で言った。

 「随分手こずったみてーだが、片は付いたんだろうな?」
 「あぁ、死体はまだホテルにあるが…ここは俺達の管轄外だ。後は組織の連中が片付けるだろう」
 「…それならいいんだけどな」

 お互いに静かな口調だったが、異常にぴり付いた気配が両者の間に漂っていた。特にプロシュートの態度は挑発的で、鬼とか悪魔という表現でも足りないほど恐ろしい形相をしている。あまりに険悪な雰囲気に、オリガは益々言葉を失ってしまった。

 「おめーらが乗って来た車はペッシに回収させた。終わったんなら、さっさと乗りな。送ってやるぜ」
 「お前達は先に戻れ。俺は幹部に状況を報告しに行く」

 それを聞いたプロシュートは軽く舌打ちをして、代わりにオリガに向けて「乗れ」と顎をしゃくった。そして、オリガが助手席に乗るなり、

 「上手く理由を付けて逃げたな。リーダーならよォ、あんまり仲間を面倒事に巻き込むんじゃあねーぞ」

 と、酷く高圧的な物言いをしたが、それに対してリゾットは「何とでも言えばいい」と無表情で非を認めてしまった。すると、プロシュートは『返事が気に入らない』とばかりに一段と大きな舌打ちを返したが、それ以上問い詰める事なく、乱暴にアクセルを吹かして車を発進させた。


 現場から離れていくにつれて任務の終わりを実感して、ほんの少し安堵したけれど、運転席から漂って来る張り詰めた気配に、オリガの身体は終始ビクついていた。プロシュートは淡々と車を走らせているだけで、尋問する事もしなかったけれど、無言のまま責められているような気がしてならなかった。同行していたオリガもリゾットに頼り切りで、子供の気配に気付けなかったのだから、全く他人事ではない。

 ──これでチームの関係が悪くなったらどうしよう。

 以前から意見の相違で気まずい雰囲気になる事があったけれど、今回はその比ではなかった。自分が原因で人間関係が悪くなるなど、これほど分の悪いものはない。どうにか弁解して、間を取り持ちたいところだったが、険相を前に口を開く事も出来なかった。

 その間に車はネアポリス市街に入り、見慣れた路地に進入すると徐行して停車した。直後、プロシュートはオリガの方に向き直って、鋭い眼差しで全身を眺めて来た。両肩を掴んで左右に動かしたと思うと、今度は両手を取って念入りに調べて、

 「怪我はしてねーな。さすがにそこまでドジじゃあねーか」

 と、一転して安堵の声を漏らした。その強引な心配の仕方に、オリガの緊張は若干解れた。

 「あ、あの…あまりリーダーを責めないで下さい。結局2人共無事だったし、私が足手纏いになっただけだから…」
 「そうだとしても、他の事に気を取られる方が悪いんだ。自分で『巻き込まない』と言っておいてこのザマじゃあ、リーダー形無しだな」
 「で、でも、今回の相手はやり方が卑怯ですよ。一般人の、しかも子供のスタンド使いを雇うなんて…!」
 「相手がキレた野郎だってのは、最初からわかってた事じゃあねーか。そんなヤツが『スタンド使い』っつー時点で、正攻法なんざ通用しねーんだよ。スタンド使いとの戦いってのは、ほんのちょっとの油断が命取りになる。それはリゾットが一番よく知ってる事で、今一番にお前に教えてやらねーといけねー立場なんだぜ」

 精一杯の弁解も、冷静に窘められて返す言葉を失ってしまった。閉口するオリガに、プロシュートはさらに厳しい言葉を続ける。

 「それに、結果がどうだろうと、アイツが仲間との約束を守れなかったのは事実だ。リーダーとしての格が下がるだけじゃあねー、仲間の信用もいっぺんに失うんだ。チームを纏めるヤツが仲間の信用をなくしたら仕舞いだ。そうなったら当然、組織からも『無能な暗殺者』っつーレッテルを貼られる事になる。だから、『相手が卑怯だから仕方ない』とか『無事だったから良い』とかいう問題じゃあねーんだ。こいつは俺達の面子に関わる重要な問題なんだ」

 と、プロシュートはリーダーの責任を問う一方で、リゾットの立場を心配するような物言いをした。
 『暗殺者としての誇り』も然る事ながら、同じチームのメンバーとして長い付き合いがあるからこそ仲間を軽んじる行為≠ノ対して強い憤りを感じるのだろう。それは組織がリゾットを軽んじる事≠ナあっても同じはずだ。オリガが思う以上に深刻な事態だと知ると同時に、ギャングとしての意識の違いに気恥ずかしさすら感じた。

 ──私なんかが口出ししていい話じゃあないわ。

 落胆していると、プロシュートは急に呆れたように溜め息を溢して、声色を変えた。

 「まぁ、今回の件でお前がスタンド相手の戦い方≠チての学習したってんなら、見逃してやってもいいけどな。リゾットも本当におめーに気を取られてたかもしれねーしよ」
 「そ、そんなんでいいんですか? でも、他のみんなは納得しないんじゃ…」
 「この程度で見限るほど薄い関係じゃあねーから安心しな。それに、あのリゾットが女に気ィ取られてドジ踏んだ≠ニなりゃあ良い笑い話だぜ。しばらくネタにされるかもな」

 プロシュートの言い方に思わず赤面してしまったけれど、一転して場の空気が和んだので、心底ほっとした。
 新入りのオリガが知らないだけであって、チームの間には確固たる信頼関係が成り立っている。厳しい言及をするのも、互いに信用し認め合っているからだ。そんな彼等に仲違い≠フ心配など徒労だろう。最も心配するべきなのは、あの少年の今後かもしれない。

 「抗争に手を貸したあの少年は、これからどうなるんですか? やっぱり組織に敵対した理由で処分されるとか?」
 「あのガキも巻き込まれただけだろ。そして、そいつの攻撃で被害を被ったのはお前とリゾットだけだ。たったそれだけの事で、幹部がガキを処分するとは思えねーな。それに、幹部が殺されたっつっても、ボスにしてみりゃ大勢いる部下の1人が死んだだけに過ぎねー。抗争の根元さえ断てれば、他はどうでもいいんだ」

 幹部の抗争も、スタンド使いの少年の関与も、組織の上層部にしてみればちっぽけな出来事、という事なのだろう。薄情だけれど、命を奪わなかっただけ寛容かもしれない。ただ、あの少年は『抗争に利用された』という傷を負ったまま、生きていかなければならない。その先にある未来は、決して幸福ではない。

 「記憶を消す能力があれば、あの子も嫌な思いをしなくて済んだかもしれないのに…」

 口を突いて出た本音は、オリガの願望≠ナもあった。組織はガブリエルの能力を隠蔽や改竄に利用したけれど、使い方次第では過去に苦しむ者を救う能力≠ノもなる。もしあの男が良心的な人物であれば、自分の辛い過去の記憶を消してくれたかもしれない──そう思えてならなかった。
 しかし、それを聞いたプロシュートは眉を顰めて反論した。

 「何を言い出すのかと思えば人の心配か? 事情がどうであれ、金に釣られたあのガキにも問題があるんだ。仮に忘れたとしてもアイツの過去が変わる訳じゃあねー。細切れになった手首が戻って来る訳でもねーんだぜ?」
 「そうですけど、少なくとも『利用された』っていう嫌な記憶は消えるから、前向きにやり直せるかもしれないですよ? 右手だって事故だと思えば、まだ諦めも付くし」
 「記憶を忘れたくらいで人生やり直せるほど甘くねーんだよ。大体よォ、忘れる≠チてのは逃げる≠フと同じくらい、みっともねー事なんだぜ? そういうのは腑抜け野郎のする事だ、おめーは絶対にやるなよ」
 「でも、リーダーは『忘れろ』って…」
 「あぁ? リゾットが何を『忘れろ』って言ったんだ? 俺がいない間に、おめーに余計な事を吹き込んだんじゃあねーだろうなァ〜?」

 プロシュートは反論を妨げるように恫喝すると、『言ってみろ』と言わんばかりに耳を傾けて来た。ここで正直に回答すれば、また怒りを蒸し返す事になる──と思ったけれど、間近に迫った威圧的な睥睨に逆らえるはずもなかった。

 「いや、その…私の欠点を教えて貰っただけです。私の精神的な弱さは過去にあるみたいだから、その…『過ぎた事は忘れろ』って…」
 「そんな事だろうと思ったぜ。アイツがタダで新入りの同行を許す訳がねーからな」

 そう言って大きく溜め息を吐くと、こちらに向き直って指を突き立てて来た。

 「アイツの言う『忘れろ』ってのは戒めに頭の片隅に焼き付けろ≠チて意味だ。『戒め』っつっても悪い意味じゃあねーぞ、『成長の糧にしろ』って事だ。過去の記憶や体験ってのは、そいつ自身が成長するために必要な経験値≠ンてーなもんだからな。それが辛いければ辛いほど本人の強みになる。つまり、重いものを背負ってるヤツは、それだけ成長出来る人間だって事だ。伸び代がある≠チて事は長所じゃあねーか。それを忘れるなんてもっての外だろ?」
 「そうだけど…それが成長の妨げになる人だっています。私だってそうだし…」

 リゾットやプロシュートが認めてくれた事で、オリガは『命を奪うスタンド能力』に恐怖や抵抗を感じる事はなくなったけれど、過去の記憶だけは未だに拭い去る事が出来ていない。政治家の素性を知った時も、奇襲の相手が少年だとわかった時も、怒りで奮い立つと同時に、甦って来る過去の記憶の憎悪で我を忘れそうになる。それは社会の理不尽さを嫌というほど味わって来た後遺症≠ナあり、とても伸び代≠ニ呼べるものではない。リゾットが指摘したのも、これと同じ点に違いなかった。
 すると、プロシュートはオリガの両肩に手を置いて、真正面から見つめて来た。

 「確かにお前は自分の過去に振り回されてる節がある。リゾットの言い分も『思い出にビクついたり、疑心暗鬼になる癖を直せ』ってとこだろうよ。だがな、俺もリゾットもお前の過去は大体理解してるつもりだ。ガキの頃からクズ野郎に人生引っ掻き回されてりゃあ、疑心暗鬼になっても無理はねーと思ってる。それでも俺達が、うるさく説教垂れたり、無理難題を押し付けるのは、それだけお前が価値のある仲間≠セと思ってるからだ。甘やかすのは俺達のやり方じゃあねーからな。もちろん他のヤツらも、あんな振りしていてもお前を認めてるんだぜ? お前が今までやって来た結果が、そうさせたんだ」
 「…そうなんですか?」
 「そうさ。お前は政治家の暗殺も1人で成功させたし、今回の奇襲にもへこたれてねーだろ? 普通の野郎でもブルっちまう事を、お前は女の立場でやってみせたんだ。『面倒なガキの新入り』としか見てなかった俺達を、ここまで納得させたのはお前自身だ。お前が俺達を認めさせた≠だぜ? そこまでの結果を出してるんだからよォ、何一つ『妨げ』になってねーじゃあねーか。むしろ、お前はどこの誰よりも強い女だし、これからもっと変われる人間だ。自分を卑下する必要は全くねーんだぜ」
 「…じゃあ、私の過去は無駄じゃあなかったって事ですか?」
 「当たり前だろ。だから、試験も1人で乗り越えられたんじゃあねーか。お前に無駄なものは一つもねー、もっと自分に自信を持て。しつこいと思うだろうが、お前が変われるまで何度でも言うぜ」

 プロシュートの力強い言葉に、つい泣き縋りたい衝動に駆られたが、そんな事をすれば叱責では済まないので、咄嗟に感情を抑えて一礼した。

 「ありがとうごさいます。もっと皆さんに認められるように頑張ります」
 「それでいい。あと、リゾットの言葉は真に受けなくていいぜ。アイツの言葉には大抵、裏があるからな。いちいちフォローする俺の身にもなれってんだ」

 と、本音とも取れる苦言を溢したので、オリガは思わず頬を緩めた。
 『お前に無駄なものは一つもない』──その一言で、オリガの心に痞えていた蟠りは綺麗に消えて行った。相手はギャングの男なのに、他のどんな大人や友人の言葉よりも重く深く心に響く。リゾットと同様に、おそらく彼もまた似たような境遇にあったから、言葉の重みが違うのだろう。過去が辛ければ辛いほど強みになる≠ニいう言葉も、彼等自身の経験によるものなのかもしれない。
 この2人の下にいれば、ギャングとしても、人間としても成長出来る──そう確信すると、オリガの胸の内は並々ならぬ自信に満ちていった。


 *


 プロシュートが運転する車は高速で市街を走り続け、日が暮れる前にネアポリスに戻って来た。
 表通りから薄汚い路地へと入り、アジトの建物に差し掛かると、車道のど真ん中に一台のバイクが止まっていて、車は急停止した。バイクには手元のノートパソコンと向き合うメローネの姿があり、それを見たプロシュートは軽く舌打ちをして、車窓越しに声を荒らげた。

 「おいメローネ。おめーが戻って来てるって事は、もう幹部と話はついたのか?」
 「あぁ、さっき幹部が対象の死亡を確認した。今回の任務は無事完了、俺達も解散していいってよ」
 「なるほど、リゾットの仕業か。まぁ、これぐらいはしとかねーと面目は守れねーよなァ」
 「そう言うなよ。リゾットのヤツ、相当キレてたみたいだぜ。現場の写真見るか? 相当ヤバい事になってるぞ」

 メローネは喜々としてパソコン画面を見せて来たが、プロシュートは険しい顔で跳ね除けた。

 「余計なもん見せなくていいんだよ。アイツの殺り方がヤバいのは、いつもの事じゃあねーか。それより、金で雇われてたガキの方はどうした?」
 「重傷だが命に別状はない。ただ、しばらく組織の監視下に置かれるみたいだぜ。一応、幹部殺しに加担してるからな」
 「じゃあ、あの子供は処分されるんですか?」

 オリガが反射的に尋ねると、メローネはすかさず首を振って否定した。

 「いや、それはない。スタンド使いと言ってもまだ子供だし、あの様子じゃあ組織に何の影響もない。法で裁く必要もないから、すぐに釈放されるだろ」
 「だとよ。良かったな」

 と、心無い声で返したのはプロシュートだった。状況を把握するなり、路上に乗り捨てた車のキーをメローネに投げ渡した。

 「もういいのか? せっかくだからオリガをマンションまで送ってやればいいだろ」
 「ここまで送れば十分だろ。そこまで甘やかすつもりはねーぞ」

 と、プロシュートはぶっきら棒に言い除けて、アジトの中に入って行ってしまった。その様子にメローネは呆れたように肩を竦めると、
 「気にするな、アイツは一度キレると長引くんだ。それに、ああ見えても心配してたんだぜ、お前の事」

 と、らしくない&ル解をした。メローネからのフォローに一瞬呆然としてしまったけれど、嬉しさのあまり「はい!」と笑顔で返した。
 電話で「大人しく待て」と言われた時から、プロシュートが心配してくれていた事には薄々気付いていた。言動は粗暴だけれど、『ヤバくなったらすぐ駆け付ける』という約束を今でも守ってくれている。彼等がオリガの知らない所で奔走してくれているから、任務でどんな過酷な状況にあっても無傷でいられたのだ。

 ──もう、ここが私の居場所≠チて事でいいよね。

 オリガはおもむろにアジトの建物を見上げて頷くと、「お先に失礼します」と軽快に一礼して、1人帰路に着いた。

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