『幼妻』

 武で天下を狙うため、群雄割拠で新たに国を立ち上げ、早五年。領土も武将の数も増え、皇帝を名乗るほどの名声を得たため、呂布も機嫌がいい。
 「俺の国も様になって来たではないか、陳宮」
 「そのようですな」
 「そろそろ次を攻めるか。一気に落としてくれる」
 「いやいや、その前にお話が」
 「何だ?」
 「呂布殿も今では皇帝ですし、天下も間近。ただ、独り身も何かと寂しいでしょう。今後の事も考えた方がよろしいかと」
 「?」
 「…相変わらず鈍いですな。誰かと婚姻してはいかがですか?」
 「こ、婚姻だと!?…そうは言っても俺の勢力には誰もおらんぞ。以前、貂蝉が仕官して来たが、お前が強引に解雇したではないか。『連環の計』になるとか何とかで…」
 「…それは殿が金が掛かると言って勅使を無視したからですぞ。女性なら我が軍にもいるではないですか。唯一、小喬という娘が」
 「小喬だと!?あんなものまだ子供だろうが!」
 「それでも友好は一番高いじゃないですか。それに殿に皇帝を薦めたのはあの娘ですぞ。言っておきますが、これ以上武将は雇えませんし、皇帝を名乗った以上貂蝉殿は諦めなさいませ」
 「…しかし、あいつが簡単に話を受けるとは思えんがな」
 「大丈夫です。今、お呼びしましょう」
 「ちょっ…おい待て!」

 しばらくして、陳宮は小喬を連れて来た。
 「ねぇねぇ、話ってなぁに?」
 「おい陳宮…一体俺にどうしろと…」
 「(ひそひそ)…先の戦功を誉めて、その流れで告白すればいいんですよ。では私はこれで」
 (おのれ陳宮…後で覚えてろよ)
 「ねぇ〜話ってなぁに?」
 「い、いや…先の戦、よくやった。誉めてやろう」
 「本当?わーい、誉められちゃった!」
 「そ、それでだな…皇帝になれたのも、お前のおかげだ。何だったら俺の妃にしてやってもいいぞ。存分に贅沢させてやる。嫌ならいいんだぞ、嫌なら」
 それを聞いた小喬はきょとんとした。
 (フ…当然の反応だな。だいたい、こいつには周瑜という男が──)
 「…私の事、そんな風に思ってくれてたの?嬉しい…涙出ちゃった」
 (な、何っ!?)
 「お、おい、本当にいいのか?お前には…」
 「ふつつかな幼妻ですが、末永くよろしくね」
 「……」
 ──こうして2人は成り行きで夫婦になった。

 *

 その後、呂布は怒濤の勢いで中原を占領し、天下を確固たるものにしていた。
 「フン、他愛もない。やはり俺に敵う相手はおらんようだな」
 軍議を終えて一人余韻に浸っていると、背後から小喬の甲高い声が響いた。
 「あーっ、こんなところにいた!疲れてるのに無理しちゃ駄目!」
 「な、何だ!俺は別に疲れてなんぞいな…」
 「奥様の目はごまかせません!いい子だからねんねしなさい!」
 強引に腕を引かれ軍議室を出ると、配下武将の劉備に遭遇した。
 (う、こんなところで嫌な奴に…)
 「おや、これは陛下と皇后様ではありませんか。相変わらず仲がおよろしいですなぁ(にこにこ)」
 「あ、劉備さんからも言ってあげて!もうずーっと戦に出て、休んでないんだよ!」
 「たまには夫婦で過ごされるのも気晴らしになりますぞ。後は我々がやりますから、ゆっくりお休み下され(にこにこ)」
 (…こいつのこの笑顔は嫌味か…?)
 「そうだぁ!ねぇねぇ、目瞑って!はい、これ。目ぇ開けていいよぉー」
 「な、何だこれは…水晶か?」
 「綺麗でしょ!あげるね!」
 「……」

 「おのれ陳宮ーーーっ!」
 呂布は陳宮の部屋の扉を蹴破って押し掛けた。
 「おや、どうかしましたか?」
 「どうもこうもあるか!貴様が妙な縁談を持ち出してから、俺はあいつに振り回されっ放しではないか!」
 「そうですか?配下武将からは微笑ましい光景だと聞いておりますが」
 「何を言うか!あれは馬鹿にしておるのだ!このままでは皇帝どころか飛将・呂布としての威厳すら失ってしまうわ!」
 「しかし、妻としての役目は果たしているではありませんか。休暇を取ってレベルアップ、宝石だってタダで貰ってる訳でしょう?」
 「休暇を取る度に『ねんねしなさい』など言われては堪らんわ!しかも、あいつが持って来る宝石は使えんものばかりだぞ!」
 「ううむ、それでは解雇しますか。そうすれば関係は解消されますぞ?」
 「む…解雇か。それは少し困る…な」
 「そうでしょう、一応は援助して貰ってる訳ですし。では最後まで責任を持って面倒見て下さい」
 「……」

 *

 それから小喬の援助(?)を受けながら呂布は天下を統一した。
 「殿、天下統一おめでとうございます」
 「フン、俺に掛かればこの程度、造作もないわ」
 「皇后様も喜んでおられましょう。顔を出してはいかがか?」
 「…まぁいいだろう、一応役には立ったしな」
 (…そろそろ妻として認めてやってもいいか。貂蝉も戻って来ない訳だし…)
 部屋の前には小喬と在野の将だったはずの周瑜がいた。
 「む、貴様そこで何をしている!」
 「おや、これは呂布殿。ついに天下を取りましたな。小喬はお役に立てましたかな?」
 「どういう意味だ?」
 「天下も統一した事ですし、我が大計は成りました。では我々はこれで」
 「何!?おい、ちょっと待て!説明しろ!」
 「ごめんね。でも楽しかったよ!思ったよりいい人なんだね!」
 (……俺は嵌められたのか…?)
 ぽつりと佇む呂布に、様子を見に来た陳宮が声を掛けて来た。
 「おや、呂布殿。皇后様はどちらで?」
 「…陳宮、まんまと周瑜の策に乗せられおって!貴様は解雇だ!」
 「な、なんですとーーっ!?」

※あとがき
結局女性に騙された呂布。陳宮も周瑜には敵わなかったという事で…

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