季節は12月──早いもので、もうクリスマスの時期だ。
いくら刑務所とはいえ、クリスマスにはそれ相応の行事を行なう。綺麗な電飾で飾られたもみの木が飾られ、食事もそれなりに豪華になる。
また、囚人にもクリスチャンなどもいるから、礼拝堂ではミサが行われたりもする。仮出所して家族の待つ実家に帰る者もいる。普段は柄の悪い罪人達がクリスマスになると子供のように無邪気になるから不思議なものだ。
だがしかし、まさか自分が刑務所の中でクリスマスを過ごす羽目になるとは──。
徐倫は1人監房の中からクリスマスツリーを眺めながら、小さく溜め息をついた。
いつもなら家族と──と言っても、ほとんど母親と二人で祝う事が多かったが、それでもクリスマスは楽しい思い出だ。
朝起きるとツリーの下には沢山のプレゼント。暖炉のある暖かい部屋でおいしい料理とプディングを食べ、街には『メリークリスマス』の言葉が行き交う。友達同士でクリスマスカードを交換し、一年の締め括りを笑顔で過ごす。
いつもならそうやってクリスマスを過ごしているのに、現在徐倫が置かれている状況はそんな幸せとは程遠い。
特に父親の事を考えると胸が痛む。父の悪い部分にばかり目が行き、駄目な父親だと思い込んでいた。本当は父親の事を何一つ知らなかったというのに──。
今思えば、父は不器用な人だったのだろう。思い返してみれば、それを彷彿させる出来事がいくつもあった気がする。
例えば──まだ徐倫が幼かった頃、季節は今と同じ12月だったと思う。留守にしている方が多かった父が、珍しく自宅の書斎に籠って書き物をしていた。
普段から近付き難い雰囲気の父だったが、徐倫が思い切って尋ねてみると、それは父の故郷・日本にある『年賀状』という新年の挨拶状だといい、見せてもらった事がある。
日本のイラストというのは非常に独特で、徐倫は初めて見た年賀状の美しさに感激した。
欧米でいう『クリスマスカード』と似たようなものだが、父に見せてもらった年賀状は特別素敵なものに見えた。あの父親が見せてくれたものだから、余計にそう感じたのだと思う。
そんな徐倫を見て、父は年賀状をプレゼントしてくれた。
その後すぐ家を出て行ったため、クリスマスを共に過ごす事はなかったが、父と過ごした一時は今でも忘れない。
毎年欠かさず年賀状を書く父の姿を想像して、徐倫はつい頬を緩めた。あのぶっきらぼうな父でも、知人から年賀状をもらうとやはり嬉しいのだろうか。
そこにエルメェスとFFが囚人監房にひょいと顔を出した。
「徐倫!せっかくのクリスマスだってのに、一人で何やってんだよ!」
「ほら、さっきシャンパンかっさらって来たんだ。これで派手にやろうぜ」
そう言ってFFは両手一杯に抱えたボトルを差し出した。シャンパンと言っても、アルコールの入っていないただのジュースだ。
「わかってる。後で行くから」
「早く来ないと全部飲んじまうからな!」
FFはシャンパンをラッパ飲みしながら廊下を駆けて行くと、エルメェスは「汚ねぇー」と笑いながら食堂へ降りて行った。
そんな二人を見送ると、徐倫はその後には続かず一人机に向かった。
*
クリスマスを無事に過ごした、その数日後。朝食時、ポストカードを持ってエルメェスとFFが徐倫に言い寄って来た。
「ヘイ、徐倫ッ!これ一体何の真似だ?すっげー不気味な絵が描いてあるんだけどよぉ」
「何って、年賀状よ。新年の挨拶状」
「何だよそれ、この前クリスマスカード渡しただろ?」
「日本では新年に別の挨拶状を送る習慣があるの。描いてある絵はドラゴンよ。日本では2012年は龍の年なんだって。ネットで調べたんだ」
「そういや徐倫は日系だったな。ドラゴンの年ってなんか格好いいなぁ、ちょっと絵がアレだけどよ」
「ドラゴンって何?そんなに格好いいの?こんなのが?」
二人は互いに顔を見合わせると、大声で笑い始めた。その年賀状に描かれた龍の絵は酷く不恰好で、ワニともトカゲとも取れる奇妙な生物。徐倫は途端に顔を真っ赤にして、ストーンフリーと共に二人に襲い掛かった。
こんな過酷な状況でも無邪気に笑っていられるのは、彼女達と父親のおかげだ。
──無事に救い出せたら、今度は私がプレゼントするわ、父さん。
胸元に仕舞っておいたロケットに手を当てて、徐倫はそう誓った。
了
※あとがき
年賀状ネタかクリスマスネタか、よくわからん事になりました。時期が合ってるかどうかも不明。
ドラゴンで真っ先にケンゾーじじいが脳裏を過った。
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