どんなふうに笑っていただろうか。遺影の中の故人は酷く堅苦しい表情をしていて、本来のそれを思い出すのに幾分か要した気がする。それも無理のない話、と苦笑。事実、その男は私と居ると兎角気怠そうで、眉を寄せているのが常であった。

( くだらない、つまらない、面白くない )

葬儀は実に細やかなものであった。弔問客は彼の身内が数人に、先輩、後輩、親友。皆が皆、厳粛に両手を合わせる中、私だけは冷ややかに失望していたに違いない。その男の有様を。あの横暴な態度も、挑発的な鋭い瞳も、時折見せる激しさも、思わず目を細めてしまう程の眩しさも、全て総じて偽物に過ぎなかった。あれは、幻影。そうでなかったら、そうでないとしたなら、こんな事になる筈がない。私の知っている彼は、

「しぶとい奴だと思ってたけどな」

懐かしい香り。屈託のない笑みとは裏腹に、指先は微かに震えている。強い人だ。あの人が最も慕った先輩。不慣れな手付きで、あの人がよく吸っていた銘柄を含む。嗚呼、なんて似つかわしくない。

「つうか何、女にでも刺されたの」
「溺れたそうです」
「え、まじで、女に?」
「海で」
「ああ」
「.......」
「ほんと」
「.......」
「死んじまったのなこいつ」

特別なんかではなかった。況してや物語の主人公なんかにはきっとなれやしない。不運な高波にさらわれてぽっくり逝ってしまう程度の。脆い。嘲笑う気すら失う。

「最期まで自分勝手な人ですね」

ホールを後にする際、再び彩られた祭壇を振り返る。枠の中に納められた彼もまた、どこか寂し気に笑ったような気がした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -